第3話 嫉妬
「桃ヶ池、どうして髪を染めた? しかも髪まで切ってるし」
「それが主様の要望だからです。元々、髪に拘りなんてありませんでしたし」
「なんか話し方とか変わってないか? 確かにハキハキ喋るようになったのはいい事だ。しかし、柏原を主様と呼び、たまに出てくるにゃは、といった痛々しい発言は何だ」
「うーん、まあ主様の要望ですし? それに痛々しいけどそういうのが好きな男性が少数派いるって考えですけど? にゃは☆」
「……お前の異常な性癖は知りたく無かったのだが」
「えー? それも主様の要望。頑張ったんですよ? ネットで開発方法ググったりして……」
「方法等聞いてないわ!」
バンッと机を叩く音が聞こえる。見れば住吉先生は全身から汗が噴き出しておりかなりご立腹の様子だった。まあ、真面目な生徒がある日、不良になったって感じだからそりゃキレるよな。それに比べ、桃ヶ池はポケットでスマホを弄ろうとしてるし、かなりダルそうにしてるのがわかる。後半、口調が完全に舐めてたし。
「ああもう! 学校一真面目な桃ヶ池がここまで墜ちるとは! おい、柏原ァ! 何とかならんのか!」
「んなこといっても、俺が作ったキャラ設定が桃ヶ池に反映されるなんて想像できませんし、無茶言わないで下さいよ」
「はぁ……先生方もこの変わりようにはかなり困惑してたぞ。国語の林先生なんて泡吹いて倒れたくらいだしな」
「マジか。そこまでいくか普通」
そういや林先生は真面目な生徒が好きで、普段から物静かで勉強の出来る、桃ヶ池の事をかなり気に入ってたな。ちなみに俺は静かだが、授業真面目に聞いてない時あるだろと言われた。仕方ねえだろ、三時前は次のガチャ更新が気になるんだから。
「柏原、間接的だがお前もこうなった原因だ。責任取れ」
「勘弁してくださいよ。俺だって痛々しい言動を何とかしてほしいくらいですし」
「ええー? ボク主様の為に色々頑張ったのに酷くない?」
「そこは同意する。結果は置いといて、彼女の頑張りを無駄にする男とか舐めてるにも程があるぞ」
「……先生彼氏いないのに」
瞬間、住吉先生の右ストレートが俺の右頬を掠めた。余りの勢いにそばにあったプリントが吹き飛び、俺はその場で固まってしまう。
「……何かいったか? 柏原ァ」
「いえ、なーんにもありませんよ? あはは……」
「私だって彼氏欲しいのに……何で誰もこないんだよ……」
住吉先生が小声でブツブツと呪いを詠唱しだした。あっ、これ先生のトラウマスイッチ押したな。
「合コンとかパーティーとかいっぱい行くよ? でも近づいたらみーんな逃げて話すことすら出来ないし? それにそれに……幼なじみのみちこが結婚したって聞いた時はさ、ほんと酒飲んでも心が晴れないどころかさああああああああああああああああああああああああああ!」
「先生一旦落ち着け! 40切らなきゃまだチャンスあるから……」
「勝者気取りかてめええええ! ぶっ殺すぞ!」
「そんなつもり無いから! 後、先生が生徒を脅迫すんなよ!」
マズい、先生が泣きじゃくり出した。このままでは話どころか俺の命に関わる問題になりかねない! 先生に殺されかける事態とか、ほんとどうなってんだ!
「先生、大丈夫ですよ。今までのは男が見る目なかっただけですから」
「お前は彼氏いるからそんな事が言えるんだぞ桃ヶ池……」
「そんな事ありませんって。ボクだって、こんな自分を受け入れてくれるパートナーがいたんですから。先生だってきっと見つかりますよ」
桃ヶ池が先生を宥め始めた。立場上どうなんだって気もするが、いつもこんな感じで周りの女子が宥めてるので仕方ない。後、お前の事完全に受け入れてねえよ。さらっと盛るな。
「そっかぁ……そうだよなぁ、ふへへ。ありがとう桃ヶ池、こんなナリしてるけど相変わらず優しいなぁお前」
「いえいえ、どういたしまして」
完全に幼児退行した先生を桃ヶ池が抱きしめながら慰めてる。なんだかんだ丸く収まってよかったわ。色々変わった桃ヶ池だけど、根本的には変わらないんだな。よし、そろそろ教室に向かうと……
「どこに行く柏原、まだ話は終わって無いぞ」
「あ、彼女を置いていくなんて主様ひどーい」
……まあ、そうなるな。そんな簡単に物事が行くわけないか。あーあー、早く解放してくれねぇかなぁ!
「まあ、もうすぐチャイムが鳴るし戻っていいぞ」
「え、ほんとですか?」
「ああ、まあ続きは授業終わってからするし。今はこれくらいで大丈夫だ」
「……まだするんすね」
「えー、ボクも?」
「当然だ。色々詳しく聞きたいし、それに一つ頼みたい事もあるしな」
「頼み事?」
何だろう。まさか雑用として全校舎の掃除とかやらされるんじゃないだろうか。うっわ、ダルいなあ。
「まあ、詳細は後で。お前達、教室に行くぞ」
「へーい」
「はーい」
軽く返事をすると俺達は教室へと向かった。さて、すっかり変貌してしまった彼女を見てどう反応するかな。クラスメイトの反応を想像しつつも、これからの学校生活に不安を覚える俺であった。
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