剣と魔法と、何より大事な食事の物語

 剣と魔法の世界に、ここまで丁寧に兵站を持ち込んだ作品を、私は知りません。

 北欧ではその収穫量によって人口が増減していたといわれ、ドイツ人はフルコースを作る事ができるといわれているジャガイモを、異世界へ持っていくというアイデアに、まず驚かされます。

 知識として、痩せた土地でも育つ、高カロリーである、栽培が比較的容易であるという事は知っていても、実際に育てる苦労を知らない人には書けない展開に目が行きがちですが、それ以外にも人間関係や、文化の違いから来る一悶着など、しっかりと地に足をつけた物語です。

 忘れてはいけないのが、その人でした。

 私事になりますが、私は北海道という土地に、いい思い出がありません。友達に誘われ、通算で5回以上、合計日数一ヶ月程度、旅行に行った事がありますが、全くいい思い出がなく、値段程の味に出会えずに終わるなど、悪い思い出しかないのです。

 しかし、だからこそ思います。

 この登場人物たちに出会っていれば、きっと違った印象になっていたのだろうな、と。強さ、優しさ、悪い点にもなりますが、酷薄な所…それら全て、人間の魅力なのだと感じられました。

 ジャガイモも、私には嫌いな食べ物なのですが、きっと、うんと美味しいのだろうなと、ふと思わされる事がある作品でした。

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