激動の上海を舞台に、ジャーナリズムを通してつながる二人の男たち

時は近代、19世紀から20世紀へと世界の空気が塗り替えられる、まさに激動の時代。
多くの外国人達が集まる国際都市・上海では、文化的・経済的なエネルギーが集うだけでなく、治外法権を盾とした言論の自由がまかりとおる独特の気風がありました。
そんな上海でイギリス人が創立した新聞社「申報館」で記者を務める主人公・金申叔。世紀が変わる瞬間の感慨に彼がふけっているところに、突然見ず知らずの東洋人の男が訪ねてきます。
美貌をもつその青年が追われる者であることを見抜いた金申叔は、かつて自分が書いた政治批判の記事に思いを馳せつつ、その青年の身の上を聞くことに。
自らの生い立ちや信念、ジャーナリストとして向かうべき道を思いつつ、青年を助けたいと考えた彼は、青年をこう言って誘うのです。
「20世紀を見に行こう」と――――

経済的あるいは政治的背景が人生に大きく作用した二人の男の出会いが、激動の時代の中で静かに描かれています。
家族を失い、国を失い、追われる身となった青年と彼を匿うことを決めた主人公。この時代のことですから先のことなどきっと誰にもわからない。
けれどもジャーナリズムを通して心を通わせ合おうとしている二人の間の空気はなんとも穏やかで一筋の光明が差しているような気がします。

硬質で読み応えのある物語ですが、読みづらいということはまったくなく、時代の空気感を楽しむことができる作品です。

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