最終話 祈り捧ぐは果て無き旅路

「何で俺だったんだろうな……

CSから起こされるのが」

「それはレイ様が発達学に精通なさっていたからです

この度も、良い導きをしていただきました」

「そうじゃない」


レイは左手でペンダントトップに触れた。


「そんなやつはいくらでもいる

その中で、俺じゃなければならなかった理由が、どうしても気になって」


442551はレイの顔に近づいた。


「これからの判断に差し支える可能性があると考え、明らかにしませんでしたが……」


そして立て膝をし、目線をレイに合わせた。


「今述べたことの他に、保存状態がよかったこと、天涯孤独の身で在ったことがあります

昔の科学者の雑な管理のせいで、身体がひどく損傷している個体もあります

そして、血縁がいない個体ならば、万が一があっても……という判断です」

「……」


「精神衛生を考慮し、今までお伝えしませんでした」

「聞けてよかった

確かに俺に親族はいない

だが家族はいる

……なぁ、310014はどうなった?」

「は、はい、えぇと」


442551はネットワークにアクセスした。


「んーっ、心体分離施術が終わったみたいですよぉ」

「!」

「心メカニズムを適合させた複製体を、連れてくるそうです!」

「それで、本体はどうなった?!」

「施術と発熱による損傷が激しく、廃棄しちゃうみたいですぅ……」

「何っ!修復は可能か?!」

「うぅん……ですが、それよりもまた複製したほうがよいかと思われますね」

「頼む、やってくれ」

「はぁい」


442551はぴったりレイにくっついた。


「まさか、ヒューマノイドに情が芽生えちゃいましたかぁ~?」


「310014の、手を胸の前に添える仕草とか……俺を茶化した後、真面目に話すところとか…………」


レイは涙を拭いた。


「俺の……家族に……そっくりで……」

「……!」


442551はレイに自分の肩を貸した。

彼女は何もできなかった。


「……あ」


突然扉が開いた。


「失礼します」


部屋に入ってきたのは、3192Uと、彼女が押す車椅子に乗ったヒトだった。


「ニチカ?!」


「複製体を連れてきました」


レイは、その複製体に近寄った。


「どうして?!

ニチカにそっくりだ!」


レイは3192Uに説明を求めた。


「こちらは約数億の複製体の中からランダムで選びました

シンクロニシティとしか……」

「……そんな」


「……っ」


複製体が声を出そうとする様子を見て、レイは耳を近づけた。


「私は……あのとき、失礼なことをしてしまったようです」

「ニチカ?!」


複製体の目は虚ろで、表情は一切変わらなかった。


「ごめんなさい……でも、今なら本当の愛がわかる」

「310014か……?」


「あなたに、彼女よりも先に、出会えていたらなぁ」


目尻には涙が溢れていた。


「はい……

名前を……呼んでくれて、ありがとう」


「……!」


そして複製体は、何度かまばたきした。


「あーーうっ」


「今、310014の心が、完全に定着したようです」


レイは複製体の身体に腕をまわした。


「お前は……バカだな」


「ふわぁぁ」


「俺が、やってやる」


レイは3192Uを睨んだ。


「やはりAIは人間の管理下になければならない

昔の科学者が何を考えてたのかは知らんが、俺はお前たちの非倫理的な行動を牽制し、抑止する

お前たちは正しいらしいことをよくやってきた」


レイは一呼吸おいた。


「だが、最後に明日を見通せる世界を作るのは、人間だ」


-310014の心メカニズムを、彼女と背格好が良く似た、この複製体に適合させたとき


-それをいくらか取り零してしまったらしい


-それでもこいつには、快、不快などの原始的な反応がみられた


-感情は分化する


-よって、ヒトの完全な複製は可である

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