第1話 生命の鼓動

目に映るのはただ白い壁だけだ。


意識ははっきりしなかった。

自分自身を認知することさえできないほど。


「お目覚めになったようですね」


「……」


何かが彼に刺激を与えた。

このままではまた、深い眠りについてしまいそうだった彼に。


「こちらのCS状態を解かせていただいた者です」


女性のみてくれをしたそれ、彼女は、彼に目線を合わせた。

彼に媚びるような、そんな眼つきだった。


「突然ですがここで、記憶障害の有無をチェックします!」


彼女は背筋を伸ばし、人差し指を口元に押し当てる姿態をとった。


「それでは、Q1」


彼は思考を廻らせ予測した。

彼女の関心の向きを。

自分自身の可能性を。


「あなたの名前はなんですか?」


「---っ……あ……七宮レイっ」


レイは声が出たらしいことにしばらく驚いた。

それからはやまる鼓動を感じる間もなく、次の質問がくりだされた。


「Q2あなたの年齢はいくつですか?」

「19……」


「Q3カナダの首都はなんですか?」

「バンクーバー……じゃなくて、オタワだ」


「Q4赤、黄、白、青、黒、紫、紺

今、4番目に言った色はなんですか?」

「……青」


「Q516に28を足した答えはなんですか?」

「44」


「以上です、お疲れ様でした」


その言葉にレイは一息ついた。

そしてようやく、自分の脈動を感じることができた。


「これだけでは問題なしとは言い切れませんが、今は良しとしましょう」

「……」


彼女はレイに衣服を差し出した。


「こちら、お着替えと……格納直前にお預かりしていたアクセサリーです」


そこでやっと、レイは何も身に纏っていなかったことに気づいた。


「……」


レイは袖に腕を通した。


「自己紹介がまだでしたね」


彼女はくるっと一回転してみせた。


「私は対ヒト専用ヒューマノイド、固体識別コード310014です

レイ様のお世話をさせていただきます」


「……お前、ロボットだったのか」

「はい!」


「随分、感情豊かだな」

「そう設計されてますので!」


「『対ヒト』ってことは……『集積場の』……」

「あはは、そう卑しめられたこともありましたね」


レイはCSマシンから出ようとした。

しかし、長く眠っていた体は思うように動かない。


「うわっ」

「あら」


310014はレイの手をとった。


「平衡感覚がまだ戻っていない様子ですね

お気をつけ下さい」

「ありがとう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る