第4話 世界樹の幹
「なんでヒューマノイドが……ヒトの心を欲しがるんだ」
「それはこちらをご覧になると、ご理解頂けるかと」
310014は大きな扉の前で立ち止まった。
「こちらです」
扉は静かに左右に開き始めた。
「何だ……」
部屋いっぱいの樹木のかおりがレイに迫った。
「ヒトの複製体の格納装置です」
レイがかつて見た学校の体育館が小さく思われるほど、広い部屋だったが、大樹がその空間すべてを支配していた。
窮屈そうに枝葉を伸ばし、根が地面を蹴る様子に、意思をもっているのかと勘ぐってしまった。
一番不気味に思ったのは、太いでは形容しきれない幹に穿たれた無数の空間だった。
琥珀のような見た目と怪しい艶は、見ているのが苦しかった。
「幹の気泡は、そのひとつひとつが胎盤に近いものでできており、ヒトの複製体を一体ずつ格納しております」
ヒトの複製体は、まるで琥珀虫のようだ。
「これ全部……ヒューマノイドだけで作ったのかよ……」
「そうですね、全てがヒトのなし得なかった技術です」
「なんで、こんなものを」
「ここからが本題です
よく聞いて下さい」
310014は胸に手を当てた。
「あなたの影響で私に宿った心を複製体に移し、生命活動させるのが、我々の目的です」
「?!」
「レイ様には、ご協力をお願いしたいと思います」
意外にもレイは、あっさり飲み込めた。
「そんな……偽物のヒトがここで生命活動を行ったって、それが『人類の繁栄と存続』だとは思えない!」
「ちがいます!
彼らはシミュレーションに使うのです」
「シミュレーション?!」
「この退廃した世界でヒトはどう行動し、生きてゆくのか、観測し、結果から導かれる最善策を目覚めた人類に適合させるのです」
「……」
「心とは我々には予測できないもの……
今迂闊に目覚めさせては何を起こしだすか分かりません
……一度の失敗も許されない」
310014はこれまでになく厳しい口調だった。
「この約1000年間、我々が思考を止めた瞬間は、一度もありません
この実験は賭けかもしれませんが、自信があります」
レイの困惑の表情は、310014をうつむかせた。
「荒唐なお願いだと……思われていること、承知しております……でも……きっと、よい導きを……」
「わかった、やる」
310014はぱっとレイを見た。
「俺の家族と約束したから……
明日を見通せる世界でまた会おうって」
「レイ様!」
「だいいち、俺だけ解凍させられた時点で、他に選択肢は無い」
「あはは、ばれちゃってましたかー」
310014はレイの手を取った。
「ありがとうございます
大丈夫です
人類にとっても、レイ様にとっても、よりよい世界になることをお約束いたします」
310014は軽やかにステップを踏んで、それから一回転した。
「時間はあります
レイ様のよい導きを期待しております」
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