義足は特上のバレエシューズ。

一人の少女がプリマとして舞台に立つまでの物語(比喩)。

戦争という舞踊曲を盛り上げるのは、拵えられた美しい義足。
ビゼー作曲、ギロー編曲の組曲『アルルの女・ファランドール』を聴きながら読むのが最も相応しいかと思います。他にもファランドールあるかもしれへんけど取り敢えずこれで(何万回も言えるラブユー♪ってやつが脳内再生されますけれど原曲について言及します)。
そう、主人公ユリアナの抱く姓がファランドールで、確かその単語は舞踊曲のタイトルじゃないかな、と思い出して、軽く調べて頭を抱え、そして震えました。

楽曲の来歴が、あまりにもこの作品にぴったりだったから。

重々しい短調のメロディーでズンと響くのは『三人の王の行列』。他にも解釈は可能だと思いますが、まるで、義足に直接関わった三人の人物(ネタバレになるので名前は伏せます)を象徴しているかのようだ、と一番に思いました。作中にもしっかり王は登場します。尤も、本当の意味の三人の王とは、イエス・キリストの降誕を祝う東方の三賢者なのですが……神がいない、というような台詞が作中に出てきますが、それが余計に象徴的に思えます。じゃあ神って何なんだろう、っていうのは、これは読んだ人こそ考えるべき部分なんだろうなあ、と思ったりするので、私がここで言及するのは野暮ってもんです。
長調で軽く、流麗に耳を擽る『馬のダンス』。馬と言われれば私が想像するのは戦争です。作中でも、登場人物たちが馬で移動しています……日本語では『馬のダンス』に関する情報が少なく、フランスのプロヴァンス地方の民謡ということしかわからず、気の利いた何かと結び付けるのが私にとっては難しすぎた……というのが惜しいところですが。でも、『かくして、少女は死と踊る』っていうタイトルにもふんわり繋がってくるような気がしてきませんか?

ファランドールは、ビゼーの遺した曲を、彼の親友であったギローという人物が組曲として編曲したもののひとつだそうです。編曲されたファランドールは、三賢者の短調から始まりますが、明るい馬のダンスがその間に挟まり、その二つの旋律は交代で登場して、最後には合体して、華々しい長調で締めくくられます……まるで、この物語のラストにおける主人公ユリアナを象徴するかのように。失われたもの、受け継がれていくものと受け継いでいく人々の想いが、この物語にも込められていると感じたのでした。
このレビューを読んだ方は、この物語をすぐ読んで、それから以下のURLを踏んだらいいんじゃないかなと思います。ファランドールのことが載ってるから!
https://www.nhk.or.jp/lalala/archive151121.html


タイトル、白鳥と黒鳥、家の名前、主人公ユリアナ。全ての役割が何から何まで見事に調和した構成の巧みさと凄まじさ、それに深みを与えるキャラクター造形。いい歳をした美形の青年がプライベートで大きなクマちゃんを抱いてるのは単なる笑いどころじゃないんですよ……物凄く可愛いですけれど。
そこのあなた、取り敢えず読みましょう。

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