取り敢えず読んでください。話はそれからだ。

さて、この作品を語るにあたって、まず最初に私事を述べることをお許しいただきたいと思います。

先日、某所において。とある方が、私について「情の人だ」という風に表現しておりましたところ。
どちらかというと理性と調和を尊ぶきらいのある自身ではありまして、ウマル(この、底知れないこの魅力を持つこのお人こそ……)、ナーヒド(純粋培養且つ正しいことを是とし皆と対等でいるつもりであるのが非常にかわいいと思ったりします)やフェイフュー(背伸びをしつつ聡明であろうとし、それでも年相応の子供であるこの風貌たるや!)、ラームテイン(頭の切れる美青年は至高にして嗜好です)の在り方こそ、為政者としての理想(ついでに私の性癖)と感じることが大いにあります。まさに理の美。

が。

刺さる刺さる。
決して鋭くない、時にコミカルなその言葉が、水面に一滴落ちた先から、文章の枠組みを超えて、大きなうねりとなって。全部が全部私のやわらかい所に刺さっていく。
ユングヴィの苛烈さ、ひたむきさ、ひとりのひととしていきているその姿の、なんという、なんたる、うつくしさ。
澄んだ蒼穹の如し、ソウェイルの問い。
バハルが見て、触れてきた哀しみと、それでも未来のために在ろうとする心。
エルナーズが抱えるようになったのは果てを知らぬ宇宙の闇かもしれない。
様々なものの板挟みとなって苦悩することの多いであろうテイムルはきっと、誰よりも国の為に。
ベルカナ、カノ。そうしなければいけないという文化と伝統の虜囚となっても、救おうとする手を伸ばさないという選択肢などないように。
サヴァシュ。あなたが今まっすぐに腕を伸ばし、まっすぐに見据えているもの。

そう、生まれも育ちもみんな違う。みんな正しい。みんな正しいことを言っている。それもしっかり理解出来る。だけど、それ以上に、この大きなうねりは刺さるのです。物語という言葉の範疇を超えて、私は一兵士となって彼らのやり取りをその場で見ていたり、ユングヴィと同化して、一緒に泣きながら笑ったり、根拠のない希望や不安に身を任せてみたり。今もタイピングを続けながら泣きそうになっていたり。
どれだけ虐げられても、どれだけ打ちのめされても、何度も立ち上がってくる個人の想いが数多寄り集まって、おおきなおおきな流れとなっていくことを。

その意志が歴史を紡いでいく。

衣食住をほっぽり出してのめり込んだのは久方ぶりのこと。
料理をする気もなく、昼食を調達する為にコンビニへと向かう寒空の下、吹き付けてくる風を涼しく心地良いと思うくらいに、知らず知らずのうちに内にこもる熱を溜め込んでいたことに気付いたのでした。
私が情の人である、というその方の見立ては実に正鵠を射ている、と感じ入った次第であります。

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