第15話「地図事件」
来栖さんから電車についての話を聞いてから一夜(ちゃんと風呂は入った)、俺とミリは古びた駅前へと歩いて向かっているところだった。
「なんて名前の駅なんだっけ?」
と、ミリ。ミリはやはり昨日買った、『極薄黒全身タイツ&エネミーの外殻』だけでは寒かったらしく、そのの上からいつも着ていためちゃくちゃ重い鎧を着ている。
しかしそれでも俺と歩くスピードが同じだと言うのだから恐ろしい。
「第三地区駅とかでいいだろ、よくわかんねぇし」
「適当ね」
「まぁね、俺は、鉄道オタクみたいに電車が好きな訳じゃないし、ましてや東京ドームに何回も行っていたってわけでもないしな」
東京ドームなんて遠すぎで言ったことなんて三回あったらいい方だ、最もここ第三地区に来るまでの記憶なんてほとんどがあやふやなわけだけど。
「どちらかというとソウマは、アニメオタクって感じだったからね」
「うるせぃ、俺はそこまでじゃねぇよ」
確かに、アニメは好きだった。もちろんオタクってほどじゃないけど。今状況ではもうみることすら叶わないが学校をサボって観るぐらいには、はまっていた。
特にはまっていたのがあのVRMMOのアニメ。へたれだった主人公が徐々に成長していく姿が妙に心惹かれたのを覚えている。剣を両手にボスモンスターと戦うシーンはもう圧巻だった。
余談だが。この第三地区はそのアニメに多少似ている部分があったりするのでたまに楽しかったりする。
エネミーとかはそのアニメのモンスターにわりと似てたりするし。
でもそのアニメではもうちょっと町並みが近未来ぽかったり、一人一代スマホみたいのを持ってたりしてたのにこの第三地区と来たらなんだ、ボロボロのコンクリ、アスファルト、倒壊寸前のマンション、水道からまともな水なんて出ないし、お金なんてただのプラスチックの欠片だし、もうちょっといい環境は作れなかったのかよ。
うん、よく考えたらいいとこなかったわ。
まぁそれはそれとして、さっきからミリが何回も俺の肩を叩いてきている。
「なんだよミリどうした?」
「ねぇ、ここ?」
ミリの指さすほうに首を上げると大きな建物。どうやら目的地に着いていたらしい。しかし、
「これは……うーん」
そこにあったのは、そこに佇んでいたのは、木造の、恐らく俺らが生まれる前大正とか明治時代に作ったかのようなボロボロの駅だった。全体的に木造で所々にひびが入っている。
誰として使ったためしのないような、仮に使われたことがあったとしても少なくとも三十年前とか、そんな感じの駅だ。
そのあまりの壊れように、あのぼろ家での暮らしで音を上げたことのないミリですらたじろいでいる。
もちろん俺は言うまでもない。
まず入り口が半壊している。上から大きな岩でも降ってきたのか、入り口の半分はたくさんの石やら砂利やらで人が入れるような所はほとんどない。
ここから今回使うはずの電車が見えてくれたらありがたいのがそれすらも見えないのだから困ったものだ。
考えてみれば、ここに来るまでにまず誰一人として会ってないし、このあたりだけやけに汚かったりもする。
しかし、入り口ががっつりふさがれているからって電車で行くことを早急にあきらめる俺らではない。ミリなんて腰から愛用のメイスを取り出し「ソウマ、ちょっとそこどいて、その瓦礫壊すから」なんて言っている。
「いやいや、そんなことにミリを煩わせたりなんてしないさ、俺がやる」
俺はこう見えても紳士なので女の子にそんなことはさせない。ミリを押しのけ、速攻で腰に仕舞っていたグラディウスを手に取り瓦礫に向かって振り上げる。すると餌をとりに来る小鳥の如くミリが両手を広げそれを止めに入ってきた。
「いやいやいや、ソウマは大会の後で疲れてるんだから、私がやる」
「いやいやいや、俺はあんなのじゃ疲れねぇし、女の子に力仕事なんてやらせられないぜ」
「じゃあ私女の子止める」
ふわりと冷たい風が吹いた。
「……は?」
「だから私が壊しまぁぁす!」
衝撃発言した後すぐに叫んだミリは、そのままの勢いで愛用のメイスをあの瓦礫の山へとぶん投げた。とてもそのスタイル抜群な容姿から放たれるとは想像もできないスピードで飛ばされたそれは、きれいなほど瓦礫に突き刺さり、破壊した。
その瞬間瓦礫を構成していた岩やら砂利やら石やらが見事舞い上がり、縦横無尽に飛び散った。
いくら動体視力のいい俺とはいえその岩石流をよけることはできずほとんどすべてを被ることになった。
「いってぇ……」
「そんなこと言って大体はグラディウスではじいてたんじゃないじゃないの?」
今日のミリは、圧倒的にサイコパスである。
「俺はそこまで万能じゃないんだぞ、すべてはじくなんてできねぇよ」
と言いつつも九割方は、はじいたけれども。あの大会の後からミリの凶暴性に磨きがかかった気がする。確かに前からちょっとしたけんかなどはしてなくもなかったけど、ミリがあのメイスをぶん投げるなんて考えられない。考えたくもないけど。
「まぁいいや、道も開けたことだし中に潜入するとしますか!」
「おー!」
◇
入り口が異常なほど狭かったわりに、駅の構内はそこまで狭くはなくむしろ広いぐらいである、しかし広いだけで其処ら中に砂糖水を入れる容器が転がってたり、蜘蛛の巣なんかが張ってある。差し詰め有名な何とかランドのお化け屋敷のような雰囲気だ。さらに言ってしまえば空気も汚い、視界が全体的な靄みたいのが見えるし、呼吸するたびに砂煙が肺に侵入してくる(気がする)。
「本当にこんなところが駅なの?」
「地図に書いてあるならそうなんじゃないの?」
(あのいつもドッキリにかかっちゃうミリが疑っているだと!?)
「そのはずなんだけど……。このあたり誰もいないし、気配もしないから怪しくて」
そんな外も中もがちがちの装備で染めてる人がぶるぶると震えないでほしい。そこまで意識しないようにしていたこっちまでも不安になってくる。
でもまあ確かに不安だ、でもこの地図をくれたのって来栖さんだし、そんなミリを不安に貶めるようなことはしないとは思うけど……。
いや、待てよあの人の性癖がミリである以上何を仕掛けてくるのか分かったもんじゃない、こういう怖そうなところにあえてミリを入れることによって普段は見ることができない意外な一面を見ようとしているって可能性もなくはないし。
なーんてこと妹思いの来栖さんが考えるわけないか。考えすぎだな、きっと。
「きゃぁー」
なんて言うのはもちろんミリ。
「なんだよ、どうかしたのか?」
「虫! 虫! ほらそこ!」
ミリの指さすほうには小指に乗るくらいの小さな蜘蛛がいた。
「ミリって、エネミーならガンガン容赦なく殺す癖にこういうちっさいのは苦手なんだな」
ここに来るまでの記憶がある程度あるためそういった変なこともあるのだろうが、それがミリにも起きているとなるとなお面白い。
「いいから早くどっかやって!」
「はいはいっと、そろそろミリが暴れだしかねないから、どっか行っててくれよな」
その言葉を理解したのか蜘蛛は俺が手を翳すとすぐにどこかに行ってくれた。
それからしばらく進んでいると、次は大きな蝙蝠が何十匹も飛んできたり、人間の骸骨があったり、ひどいアンモニア臭がするとところがあったりと散々だった。
そしてしまいには巨大な岩まで降ってきた。
「ソウマ! 上! 上!」
「上がどうしたんだよ、っつあっぶねぇ」
ミリの声に反応して、よけていなければ危うく潰れるところだった。
「大丈夫!?」
「ああ、ギリギリよけれたよ」
「はぁよかった」
俺のことをみて、一瞬は安堵した様子を見せたミリも、そのすぐ後にはより一層この場所に対しての不安を露にしていた。
「もうここからでない? 流石に怖いんだけど」
「あぁ俺はもうちょっと先に行って確認したら帰ることにするから、ミリは先に帰っててくれ」
「もちろんよ!」といったミリは走って三秒もしない間に「ソウマ―ちょっとこっち来て!」なんて言って俺のことを呼んできた。
「ほいほい何ですかっと、この穴がどうかしたのか?」
ミリが俺を呼んだのはこの天井に穴が見えたからだという。
「よーく目を凝らしてみるとさ、人の影がみえない?」
と、さっきよりもいくらか元気なトーンでミリが指さすのは天井の奥の奥のほうに見える小さな穴だ、あそこまで行こうとしても全力でジャンプじゃあきっと届かないだろう。まあ来栖さんならひとっ飛び、なんだろうけど。
とはいえ俺だって目はいいほうだ、もちろんあの光の向こうに誰かがいるのは見えなくもない、が、さすがに誰と認識するまでとはいかない。
「てか、人っぽいのが見えるなら声かけてみればいいんじゃない?」
「そうね声をかけましょっか、一緒に行くわよ。せーの!!」
「いやちょっと待て、なんて言うのか決めてな――」
ああ、もう畜生どうにでもなれぃ!
「「やっほー」」
……まさか山の上でもないのに二人揃ってやっほーなんて、言うことになるとは思っていなかった。
どうやらミリもその事に驚いたようでさっきからずっと俺の方を見てきている。
「……やっぱりやっほーは可笑しかったわね、誰いますかー! とかにしよっか」
「そうだな、普通に考えてそれが妥当だ、よーしじゃあ行くぞせーのっ!」
「「誰かい――」」
「俺降臨!!」
俺たちが声を出した瞬間その穴から飛び降りてきたのは、なぜか来栖さんだった。
◇
「いやぁ、悪かったね」
素直に謝る来栖さん曰く、今回の地図事件はミリの違った一面が見たかったからやったことらしい。瓦礫を壊すのまでは計算通りで、本当はもうちょっと奥のほうに行ってからかっこよく登場して、助ける事にしていたらしいのだが、怖がっているミリを見るのがあまりにもつらくなってきたので早めの登場にしたらしい。
ちなみに登場時のセリフのついてはかっこいいからという理由である。
「もー脅かさないでよーちょっと怖かったじゃない」
「悪かったって、ほんとにすまん」
「絶対それ謝ってないでしょ!」
来栖さんを土下座させんばかりにそういうミリもさほど怒ってない所がみそなのだ。
「来栖さんの愚行はいいとして、で、ここは結局どこなんですか?」
ここにきて最高に疑問。来栖さんがこんなことした理由は下らないとして、ここはいったいどこなんだろうということだ。来栖さんが上にいたことから二階以上ある建物と考える、がしかし外観はあの木造だ思い当たる節がない。
「あぁ、ここは―第三地区駅の地下だ」
こうして俺とミリ(ついでに来栖さん)は、無事、駅にたどり着くことができたのだった。
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