第11話「ハシマリオ」
「で、なんで俺の砂糖水を半分飲んだあげくお礼として訳のわからん剣を無理矢理押し付けてきた貧乏小娘がここにいるんだ?」
俺は彼女に向かい合いそう問う。
俺よりも貧乏きわまりない彼女が何故ここにいるのだろうか、いや、別にいること事態はなんにも問題はないのだが、こんなところにいたってどうしようもないだろう
貧乏なのだから。
買えるものなど無いのだから。
しかし俺の問いに彼女は「そんなの簡単だよ」と、答えた。
「簡単と言うと?」
彼女は一度腕をピンと伸ばし天を指差したかとおもうと、それをそのまま素早くおろし俺に向かい叫んだ。
「私がこの店の看板娘
彼女の声が俺の鼓膜を激しく揺らした。
へぇ看板娘かぁ……。
「看板娘!? お前がぁ!」
看板娘。
その店の顔であると言ってもいいとても大事な役職名、いや、正確には看板娘と言うのは役職ではないのかもしれないが言いやすいからそういうことにしておく。
看板娘になるにはそもそもの身体的スペックつまり、誰それ構わず降り注げることのできる笑顔、その場を和やかにできる可愛らしさ、疲れていてもそれすらも可愛いと思わせる業、そして接客においてのセンス。
そういうものが必要だと思う。
しかし俺がこの前あった自称刈菜ちゃんとやらは可愛さと言う点を除いてあまりにもそれが欠如していた。
店の前で訳のわからないことを口走る、人のことをいきなりダーリン扱いする(これは嬉しい人もいるかもしれない)、人の全財産で買った砂糖水を半分のみきってしまう。
そこに看板娘の面影なんて一欠片もなかった。
「そうか! コネだな!」
絶対そうだコネに違いない。
きっとここに来る前の何処かで店長を助けたりいや、もしかしたら店長の子供と言うこともあるかもしれない。それだったら看板娘に自分の子供を使うのも無理はない。
こんな使えなさそうな子供が使えるところがあるとしたらそういうとこでしかないからな。
「むむむ、すごーく失礼な事を考えている気がするー、その前に失礼な事言われたけどー」
彼女は言いながら、むくれながらワンピースの裾を押さえる。
「いや、そんなことはない。お前が失礼なのは変わりようのない事実なのだから」
「だって……あの時はのど、渇いてたんだもん!」
人間、喉が渇いてしまうのは仕方のないことだ。
でも、
「だからって人の全財産の半分を飲むやつがあるかぁ!」
軽く平手打ちで彼女の頭をはたき、大声で突っ込む。
「……でも、なんでこんな早くにきたの?」
しかし俺のツッコミに怯むことなく彼女は質問してくる。
そう言えばこの前だって俺が顔面を容赦なく殴ったあとも平気で砂糖水を飲んできたしな、この子には全く、恐怖が感じられないのか。
というよりかは反省していないとかの方が近かったりするのか。
「で、早く来たって何が?」
早く来たってどう言うことだ? 俺はそもそもこいつとそんな約束をした覚えはないし、まず俺がここに一人で来ることなんてあり得ない。
「なにがって? あの手紙まだみてないの?」
質問を質問で返す会話が続いていく。
全く話が噛み合っている気がしない。
「あれに何か書いてあったのか?」
「そんなの自分でみてよー」
仕方なく俺は両手をポケットにぶちこむ、案の定右ポケットには丸められた紙の感触があった。
汚く折り畳まれたそれを破れないように開くと、『今日の夜8時「SHOPハシマ」集合!』と殴り書きで書いてあった。
「こんなの怪しすぎるわ」
思わず握りつぶしてしまった。
怪しすぎるわこんなもん、こんなの見て俺がここに来るとでも思ったのか? ミリが俺をここに連れてこなかったらまず俺はここに来ないし、そもそも俺はここを避けているから、それが来栖さんからもらったものだとしても行く可能性は殆ど無かったと言っても良い。
「まぁ、よかったな俺がここに来て」
さりげなく俺は再び丸めた紙を彼女に手渡す。そしてそれを彼女は流れるようにゴミ箱へと投げた。
手慣れている!
「それはどうだかねー」
「どう言うことだ?」
ゴミの捨て方の事じゃないよな?
「だって私は、貴方に試練を受けてもらうためにここに呼んだんだもん!」
彼女はその場でなんの意味があるのかくるくると回転すると、俺の方を指差しそう言ったのだった。
指差し大好きかよ。
◇◇◇
あれから俺は自称刈菜ちゃんとやらに一階右奥の部屋へと連れていかされた。
その部屋は外の木製の感じではなく全体がコンクリートのような灰色のなにかで覆われていた。
地面から壁、そして天井まで全て。
明かりと言えるものはひとつしかなく、それがよりいっそう暗さを際立たせていた。
部屋の真ん中に一人髭面のやや厳ついおっさんがポツンと木の椅子に股がっていた。
彼は赤いTシャツの上にオーバーオールと言うどっかで見たことのある風貌の彼の名前は、
自称この店の店主らしい。
しかし、この人の名前ふざけてないか?
あの服装で名前。
もう、某人気ゲームの配管工にしか見えなくなってくる。
いや、今はそんなこと関係なかった。
そして今の状況から察するに、どうやら俺は本当に試練を受けないといけないらしい。
この自称店主(男)と言うやつに寄ると、刈菜ちゃんが俺にあの剣を渡してしまったことが問題だったと言う。
だったら刈菜ちゃんとやらを罰しろよ! と言う俺の反論は一瞬にしてはね返された。
正確には渡した事は問題の原因なる物であって実際には俺がその剣を使ってマッスルコロシアムで優勝してしまったことが本当の問題らしいのだ。
あの剣は本来なら「SHOPハシマ」創業一年記念の品として作られた物で俺の手に渡ることなんてないはずだった、しかし何故かそれを気に入っていた自称刈菜ちゃんが、その日たまたまそれを持って外に出てしまい俺に焦って渡しちゃって、しかも俺が優勝してしまうんだからこれはもう大変なことらしい。
あの剣は記念品だ、つまり他のやつよりもクオリティは低い。
しかし俺はそれで優勝してしまったのだ。
初心者の俺が、
それも二位に。
これではどう考えても今までお金を払って者を買ってきた奴等の面目がもたない。
当たり前だ。
きっと俺以外の人は身を削って、苦労して苦労してやっと集めたお金で購入しているのだ。
しかも店側としては「これだったらF級エネミーなら一撃で倒せます!」とか「闘技大会優勝者誰々も使ってます!」とかのキャッチコピーで販売しているから困ったものだと。
でも俺はどうすりゃいいんだよ。
別にあの剣にはまだたいしたこだわりなんてものはないから返すことはできるし、むしろそれで事が解決するのなら返したい限りだ。
しかし返した所で俺が「マッスルコロシアム」で優勝したと言う事実は変えられないし、あの会場で俺の優勝する瞬間を見ていた人はそう少なくはない。
故の試練らしい。
「どうだね、僕の説明分かったかい?」
「いいえ全く」
彼の質問を遮るように答える。
実際わざと遮った。
「いや、だからねこの状況は不味いんだよ、このままだと今まで築いてきたSHOPハシマとしての信頼が崩れかねない、そうだろう?」
彼は綺麗に蓄えられた顎髭をTHE筋肉みたいな腕で摩りながら俺に賛同を求めてくる。
「そうですけど……あ、じゃあ試練の内容ってなんなんですか?」
確かに俺が優勝した事でこの店の評判や信頼がなくなってしまうのは悪くは思う、でも試練って……。
責めて試練の内容ぐらいは教えてもらってもいいだろ。
ここでもし簡単な試練だったら受けても構わない。
まぁ、そんなことはないんだろうけど。
「試練の内容と言うのはとっても簡単だよ! ちょっと隣町まで届けて欲しい物があるんだ」
おっさんはパンと手を叩くと、さっきまでとはうって代わりかなりハイテンションでそう言う。
「はぁ……はぁ?」
なんだそりゃ。
「大したことじゃないだろ?」
「大したことじゃないですけど、そんなのでいいんですか?」
「分かるよ、分かるよその気持ち、でもねこちらの損害額が大きくなってしまうとはいえ相手は子供だ。だったら大人としての僕はそこまで過酷なことは押し付けることができない」
おお、こんな大人始めてみた、ってかこんなしっかりとした大人何てこの世に存在していない、所謂都市伝説的なものだと思ってた。
しかも試練の内容と来たらただの荷物運びと来た、やったぜ。
隣町までってのがちょっと気になるがまぁ、電車にでも乗れば楽々行けるだろ。
「全く、試練とか誇張しやがって刈菜ちゃん、たいしたことねぇじゃんか」
俺は横で何故かどぎまぎしている刈菜ちゃんの背中をばんと叩く。
それで「うう……痛い」と背中を押さえているがまぁ、問題はないだろう。
「ありがとうございます! 勿論ありがたく受けさせてもらいますよ」
理雄さんに向かって一応のお辞儀。
「いやぁよかった、大胸筋君が受けてくれなかったらどうしようかと思ったよ。じゃあこれよろしくね」
彼は笑顔で箱からそれをだし渡してくる。
いくら大人で手が大きいとは言え片手で持っているからそこまで大きくないと推測。
湊さんの物とはまた違った大きさの手で彼が俺に渡してきたのはおよそ銃と呼ばれる物だった。
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