第12話「刀剣砕きグラディウス」
俺は生まれてはじめて銃と言うものを見た。
そして素直に「あぁ、かっこいいと」思った。
漆黒に染まった銃身に茶色い皮でカバーされたグリップ。
精錬されて要らない部分なんて無いような造形。何か使いふるされたような独特の風味を醸し出す細やかな傷の数々。
それだけも俺を感動させるには十分だった。
いや、感動と言えるほどの大それた感情ではないにしてもかっこいいの最上級ぐらいの感情だった。
それが感動と言う感情なのかもしれないが。
「まぁ、実際には銃。みたいな物なんだけどね」
理雄さんはにやにやと笑いながらそう言う。
俺の感情返せ。
「銃みたいな物と言うと?」
俺からすると正直これが銃ではなく銃モドキだとしてもかっこいいと言うことには変わらないし、そもそもの銃を見たことが初めてだったためそんなことは関係ないのだ。
でも、初めて銃だと認識したものが銃ではない何て少し嫌だな。
「正確にはエネミーの特定部位に外骨格のような物を設えて銃に見立てているもの。と言うのが正しい。勿論銃に見立てているだけあって撃つことは出来るよ」
「え、エネミー!?」
この中身がエネミーかよ! 気持ち悪い!
「ああ、そうだ、驚くだろうね。その黒筒の中身はあの気持ち悪い悪意の具現化エネミーだよ、多分大胸筋君も一度は聞いたことのあるような有名なエネミーだ【ウレイドル】どうだね」
「まぁ、少しぐらいなら」
名前とちょっとした生態なら聞いたことはある。
「ちょっと聞かせてよ」と、理雄さん。ちなみに刈菜ちゃんは未だにうずくまっている。
ちょっと強くやり過ぎたか。
「えーっと、あぁ確か尻尾にある器官からガトリングの如く凄まじい速度で弾を打ち出して来るサソリ型のエネミーだったような、俺も見たことは無いんで正確な事はわかりませんけど」
「大まかにはそんな感じでいい、まぁ、こいつは実際のところ大して強くなんて無いんだよ、ランクだってギリギリDだしさ」
「……?」
首をかしげる俺。
ここでひとつ疑問が生じた。別にたいした事じゃないけど。
なんでこんな弱いやつを素材に使っているのかということだ。弱いの何て使わないでもっと上位のエネミーを使えばいいのに。
こんなのじゃF級エネミーを倒すのにだって時間がかかるぞ。
てか銃自体がエネミーに対してはあまり効果がないようにも感じる。
単発で攻撃を与えるよりも鋭い一閃を与えた方が遥かにダメージが入るだろうに。
「強さとしてはそんぐらいがちょうどいいんだ、試作品としてはね」
「あぁ、試作品ですか」
試作品ならそこまでの性能はいらないしまず、試作品で高威力の物をつくって暴発何てしたらもう大変だろう。
最悪死ぬしね。
どんなものもまずは弱いので色々調整してから次の段階に行くなんて当たり前だったな。
「そう、試作品。これが成功したらこの第三地区に銃が武器として一般化するのもそう遠くはないだろうね」
と、理雄さんはとてもいい笑顔でそう言ったのだった。
◇
このあとも理雄さんとは少し話したが大概が届ける場所やらその人の事だった。
俺はそれをメモされた紙を右ポケットにしっかりとしまいこみつつ、銃を前にスティールソードが入っていた鞘にしまい、その部屋を出ようとドアノブに手を当てた。
そして俺が部屋から出る直前理雄さんが教えてくれたことがある。
「あぁ、そうだ大胸筋君、グラディウスのことなんだけどさ」
「グラディウス?」
なんだその超絶かっこよさを追求したような名前の物は。
「君が刈菜から貰ったあの剣の事だよ、もしや名前も知らなかったのかい?」
「まぁ、無理矢理渡されたようなもんなんで」
俺の砂糖水を飲んだかと思ったら急に走って逃げちゃったからな。
……うん、俺のしたことから目をそらしてるような気もするが気にしないことにしよう。
「そうか、じゃあそれ、あげるよ」
「え? でも」
これ記念品だし。事の発端はこれだし。
俺が持っているよりも理雄さんに返しておくのが最適だと思っていたけど。
というよりもこの剣を返してここで新しい剣でも買おうと思っていたところだけど。
「いいよいいよ、大胸筋君は子供なんだから変な気は回さなくていい、それは記念品だけどさ、どうやら君とは相性が良いらしいからね」
子供って……。
俺を追い払うように手をヒラヒラさせニヤリとする理雄さん。
この人はいつになっても何を考えているのか分からないなぁ。
「じゃあありがたく大切に使わせて貰います」
「うん。その方がグラディウスも喜ぶと思うよ」
こうして俺はやっとあの大会で大活躍をした剣の名前を知ることが出来たのだった。
ちなみにだが刈菜ちゃんはあの部屋に残ると言っていたので置いてきた。
あと理雄さんが俺の事を大胸筋君と呼ぶのをやめるつもりがないことも分かった。
「っと、けっこうミリを待たせちゃったな。早くいかないと」
ドアを閉め階段へと足を運ばせる。
理雄さんとどれくらい話してたのかは分からないけどけっこうな時間話していたような気がする。
もしかしたらあの部屋の変な雰囲気がそう思わせているだけかもしれない。
でも待たせたことは変わらないからな、さっさと会いに行こう。
しっかりと舗装された木製の階段を一気にかけ上がっていく。
さすが、高級店の階段だ、安定感が半端じゃない。家の階段だと一気に上るとかなりの不安があるがこれは強く踏みしめてもしっかりとその重みを跳ね返してくれる。
階段を信頼するとはこの事だな。
なんだそりゃ。
◇
二階の雰囲気はと言うと一階とさして変わらず、変わっているところと言えば階段のすぐ横に巨大なステンドグラスの窓が有るのと、一階に飾られてあった武器が防具に変わっているぐらいだった。
でも此方は武器とは違い防具の面積が大きいのでなかなか色彩豊かなようにも見える。
第三地区でピンク何て色を見るのも久しぶりだったような気もする。
「おーいミリー!」
あれ? どこいったんだろミリ。
大声で呼んでみても返事は一向に聞こえてこない。
しかも行きなり大声を出す変なやつだと思われているのだろうか視線が一気に集まってしまった。
確か俺が下で武器見るからその間ミリは上で防具見てくる的なこと言ってた気がするんだが。
その記憶は俺の作り出した偽物?
いやまさか。そんなわけないだろ。でも、
もしかして俺があまりにも適当な対応だったから帰っちゃったとか?
不味いなぁまた怒らせちゃったかなぁ。
最悪だ。
いや、最低だ。
仏の顔も三度までって言うし今度は奢るなんて邪道使わないでしっかりと謝んないと。
しっかし俺ってダメだなぁ、いつも自分のことばっかりでミリには迷惑ばっかかけて。
俺なんてミリに助けてもらってばっかりだってのに。
俺の動物恐怖症克服のために毎朝エネミー狩りに連れてって貰ってるし。
ご飯代だって出して貰ってるし。
それなのにいつも俺はなんにも出来ないままで。
こんな状態がいつまで続くか何て分かんないのに。
恩返しはいつになったら出来るんだよ。
ミリだってダメダメな俺を見て、同情して助けてくれているんだろうけど。
そろそろもうそんな関係も終わってしまうのだろうか。
あーもー!
こんなんだから俺はダメなんだ。いっつも悪いことばっかり考えて視界を閉じて、意識を閉じて、心を閉じて引きこもって……。
本当俺ってダメだなぁ。
「はぁ……」
俺の魂がため息となって溢れ出た。
しかし自己否定の沼に沈み溺れそうになりそろそろ全身が浸かりきる、と言うところで不意に両肩をパンと叩かれる。
それも同時に、辺りにその音が響き渡るぐらい強い力で。
「痛ってぇ!」
「ソーウマ! どう? ビックリした?」
左肩から現れる可愛らしい笑顔。その顔は俺を脅かせることで面白がっているのか、ものすごく楽しそうだ。
そのいつも通りの笑顔に心底安心した。
思わずそれにつられて俺も笑顔になる。
今までのマイナス思考が吹き飛ぶかのように、自然に口元が緩んでしまった。
「なんだよミリ! いるなら返事してくれよ」
「たまにはソウマを驚かせたいと思ったのよ、いつも私ばっかり遊ばれてるのは癪だからね」
にやりとするミリ。
癪って。そのわりにいつも凄い楽しそうにしてるじゃねえか。
しかも声を上げるぐらいの大笑い付きで。
「あ、そうだ、買いたい防具って決まった?」
顔を横に向け。
そんな質問をする。
俺は肩に引っ付いて離れようとしないミリを引きはが……せない! 何て力だ! とても女の子の力とは思えない!
「大体はね、でもあと二つに絞ってからどっちか決められないのよね。ちょっと見てくれない?」
そう言うミリの俺を掴む力は未だに変わらずだ。
「別にいいけど」
「じゃあちょっと待ってて」
そう言うと俺の腰を蹴っ飛ばして空中を一回転して、アクロバティックに飛び降りるミリ。
体操選手よろしく地面に着地し体勢を整えると、着替えコーナーらしきところへと走り去っていった。
が。
しかし割りと早く戻ってきた。
多分五分もかかってない。
鎧を着るんだから十分ぐらいはかかるだろうと予想していたけど。
もしかしてあいつの早着替えは世界レベルなのか? まぁ、どうでもいいや。
「おお」
見違えた、と言うのが正しいのだろうか。
着替えから戻ってきたミリは黄金のオーラを纏っているかのようにも、感じられるほどの変わりようだった。
ミリが今回着てきたのはいつも着ている防具とは全然違う、中世ヨーロッパの貴族のような可愛い系の防具だった。
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