第7話「シールドブレイカー」


 ◆◆◆

   

 さっきまで一つの武器として構成されていたその物が次の瞬間には相手の隠し持っていた剣によって砕かれ、宙を舞っていた。

 

「何……だと……」 

 

『おおっとぉ! 今度は桑崎選手のハルバードが砕かれたァァ!』

 

 実況によって沸き上がる歓声やら悲鳴やらが雑音にしか聞こえない。

 

 俺のハルバードが「砕かれる」だと? ふざけるな。

 

「颯真君! 何をした!」

 

 ハルバードだったもの(今はただの棒)を投げ捨て彼を睨み叫ぶ。

 何で壊れる砕かれる。俺のハルバードは【アクナルザ】の尻尾から取れたグラウト鉱石でできたものだぞ、それをハンターが壊した? あり得ない! 壊せるなんてなんかの細工をしたに決まっている。

 

 少し間が空いて彼は口を開いた。 

 

「え……あ、全然わかりません!」

 

 なんだその今起こっている状況がよくわからないからとりあえず適当になんか言っておこうみたいなそれは! 

「そうじゃない! 何でFランクのハンターごときが俺のハルバードを壊せるんだッ!」 

 

「なんでですかね……」

 

 本当にわからないのか? 

 いや、まさか本当にただ固い武器を力いっぱい振り切っただけなのか? でもグラウト鉱石を砕くなんてそれこそバカみたいな筋力とSSS クラスのエネミーの素材とかを使うぐらいしないと……。

 

「あーもうちっくしょうわかんねぇよ!」


 ハルバードがなくなった今俺に出来ることは盾で彼を倒すこと、これしかない。

 これで、これで勝たなければ俺の人気が、評判が下がってしまう! しかも自分で開いたイベントで自分で選んだ弱いFランクのハンターごときに負けるなんてダサすぎる!

 この状況を何とか打破しなければ彼の流れに飲まれてしまう!

 

「おらアッ!」

 

 盾を彼の顔に狙いを定め、貫くように突き出す。普通なら重い盾をこんな使い方なんてできないはずだが俺はマスターシールダーだこんなことできない方がおかしい。

 もちろん彼は予測できないだろうな、出来ることとしたら振りかかってくる巨大な盾を防ぐ事ぐらい……。

 

 一瞬金属がぶつかり合う音がしたあと盾が何かにめり込んだような感覚がした。頭に突き刺してしまったかな。

 

「よしっ! 俺の勝ち……」

 

「させませんよ湊さん」

 

 逆だった。めり込んでいたのはハンターの剣の方で俺の盾は真ん中から綺麗に抉られてて、負けるのは……お……れ?

 

 負ける。


 不味い負ける。


 あの盾が貫通されるなんてもう無理だ。想定外過ぎる。あの野郎嘘つきやがったな。大会を開いてそこで優勝すれば評判が上がるなんて、嘘じゃないか! こんなの勝てないよ、勝てない勝てるわけがない。 初撃のあのスピードにプラスバカみたいな筋力、更にはあの盾さえ貫く剣。

 

 なんだ、なんだよあいつ、気持ち悪い。

 

「気持ち悪いんだよ君ィ!」

 

 絶叫に近い大声で喚く、もうなりふり構ってられない。

 盾が壊れてもいい殴れ、殴って意識を失った所を殺してやる! そうすれば俺の勝ちだ。


 俺の人気は保たれ更には評判も上がっていくはずだ! よし! よしいいぞ。

 

 これで! 

 

 これで終わりだぁ!!

 

 何回も彼の頭上から叩き伏せる、そして最後の一撃。思いっきり振りかぶった盾を彼の脳天に突き刺す。

 

「……負けるのはもう嫌なんだ」 

 

 今までの攻撃は全て受け止められていたのか、彼の体に傷は見えなくその代わりに彼の地面の下には亀裂が入っていた。


 彼は呟くとさっきとはうってかわり怒濤の超連続攻撃を繰り出す。右から左から上から下からとあらゆる方向から振りかかる斬撃が俺の盾を削り取っていく。

 

「あ……あ、あぁぁぁあ!」

 

 やめろやめろやめろ! 


 もう、止めてくれ。負けてしまう。この俺があんなFランクのハンターに、この俺様が!

 

「……あぁ」

 

 そしてとうとう手と盾を繋いでいた取ってさえも砕け散り、俺の意識も粉々に砕けた。

 

 ◇

 

 湊さんに負けてたまるかと盾を叩きまくっていたら盾が壊れるタイミングで突然湊さんの精神ゲージが一気に吹き飛び大型スクリーンに俺の名前とwinnerと言う文字が表示された。

 

 そして一時的な沈黙のあとアナウンスが鳴り響いた。

 

『……なんと、なんと、誰が予想したでしょうかこの展開っ! あの不利な状況の中見事優勝したのは弥琴颯真選手ゥ!!』

 

 それと共に沸き上がる大胸筋コール。

 

「ハァ、勝った……のか?」

 

 ため息を溢しそのまま腰から座り込む。

 

 これ俺勝ったっぽいな。

 にしてもあまりにも呆気ない終わり方だな。いや初めの予定通りにはなったけれども。まさか本当に勝ってしまうとは。

 嬉しいようでなんと言うか物足りない?  

 でもこれでミリになんか奢ってやれるぞ。それで機嫌直してくれたら万々歳だ。

 

「ソウマー!」

 

 一階の扉からミリが飛び出してきた。あんなところで見てたのかよ。気づかなかったぞ。

 

「おおミリかってちょっと……」

 

 ミリは抱きついてくると驚く俺の事を無視して体を触りまくってくる。まずは頭をがっしりと両手で掴まれ次は胸とどんどんその手は下の方へと下がっていく。


「怪我してるんでしょ! ほらしっかり見せなさい!」 

 

「いや、いいよもう痛くないし、あと恥ずかしい」

 

 多少無理矢理にミリを自分から引き剥がす。ここは家じゃなくってフィールドだってのになんでミリはこう、恥ずかしげもなく出来るのか。

 

「あ」

 

 ミリは顔を真っ赤に染める。まさか本当にここがフィールド内だって事忘れてたのか? 

 

「でっででも、壁にのめり込んでたじゃない!」

 

「確かに、そんなこともあった……ね」

 

 言われてみれば俺は少し前に壁に吹っ飛ばされてそのままのめり込んでたんだっけか。

 よくあの状況から勝てたな、湊さんのバカみたいな筋力で腹を打たれて石の壁にのめり込んで。さぞや俺のアドレナリンが今回の戦いにおいて活躍したのか、もう感謝感謝ですわ。

 

 でもそろそろアドレナリン麻酔も切れる頃だろう。

 砂で薄汚れたシャツの裾を軽く捲り傷を確認する。

  

「あれ? 傷がない」

 

 傷がない。と言うよりかは怪我がないの方が正しい気がする。腹には打撲の跡や肋骨が折れたような跡も見られないし。

 有るのは第三地区に来るときに胸の中心に刻まれた縦三センチほどの縫合跡だけだ。

 

「え!? ほんとだ、さすが大胸筋」

 

 俺の声を聞くとミリはグレートプレートを高速で取り外し投げ捨て俺のシャツを真ん中から切り開いた。

 さりげなく俺の事をバカにしてくる辺りさすがミリだ。

 

『ではでは表彰式を始めたいと思いますノデ弥琴颯真選手はただいま設置しました表彰台の上へどうぞー』

 

 しばらくスタンドの方を眺めているとアナウンスが流れてきた。

 本当なら多分湊さんも銀メダルとかもらうんだろうけど気絶してるからってことか。精神ゲージ全とばしするほどの精神ダメージを与えたこと、あとで起きたら謝らないとな。

 

「じゃあミリ行って来……」

 

 立ち上がり振り向き様にミリの方を見るとそこには奇声をあげる湊さんが鬼の形相で此方に向かって突進を繰り出して来ていた。

 間に合わない、勝って気を抜いていたせいで剣は遠くに転がったままだしこのまま避けるにも彼との距離はもう数センチもない。

 受け身で耐えるしかっ!

 

「せめて殺してやヴッ!」 

 

 当たる寸前彼の体を天から落ちてきた一本の青黒い槍が貫いた。

 その槍は彼の肩と腹を綺麗に突き刺し彼を地面に再び這いつくばらせた。

 あの特徴的な紋様の槍の持ち主を俺は知っている。槍の飛んできた方向、巨大スクリーンの上を見上げると彼はいた。

 その槍の持ち主は巨大スクリーンの上から物凄い迫力で飛び降りると俺の前で悶絶している湊さんから槍を引き抜き、呟いた。

 

「久しぶりだね、ミリ」

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