第13話「エネミースーツ」


 それは、上半身が前回の装備とは違ってさっぱりとした感じなのに対して、下半身はフープスカートのように膨らんでいてものすごく動きずらそうな装備だった。

 

 しかしながら見た目としてはとても優美な感じを醸し出している。

 フープスカート自体がそもそも中世ヨーロッパの貴族の正装であったぐらいだからそう思うのも当然と言うことなのかもしれない。

 

 でも確かフープスカートとかあのでかいかんじのスカートの生まれた理由って楽に糞をするためだったような……いや、今はこんなことを考えてはならない。

 ってかなんで俺はミリの装備ひとつでこんな訳の分からない想像をしちゃっているんだ変態か。

 

「ど、どうかな」

 

 顔をいつもの三割増しで赤らめ俺にそう言ってくるミリはあまりにも可愛すぎた。

 てか一瞬見蕩れた。

 

「……うーんまぁ、なかなか綺麗で可愛いとは思うけど単純に戦いづらさはあると思うよ、てか絶対転ぶ」

 

 ただでさえスカートはかなり動きづらそうなのにそれを大きくしたなんてもう正気の沙汰ではない。

 ただの巨大てるてる坊主にしかみえない。

 

 俺が言うと、一度頷くミリ。

 何か考えでもまとまったのか。

 

「だよねーじゃあやっぱり二つ目の方がいいかな、ちょっと待っててね」

 

 そう言いミリは着替えコーナーに向かって走っていった。

 

 そしてコケた。

 全力でコケていた。

 

 スカートを多少捲し上げていたのにも関わらず全力でなにも無いところでコケていた。

 

 しかも俺はそれを全力で見てしまった。

 

 ほーら言わんこっちゃないとはこの事だな。

 これが戦闘中じゃなくて本当によかった。

 

 俺は見ていないよとアピールするため即座に顔を逸らしたが一瞬ミリの真っ赤な顔が見えたような気がしたのでこれはもうダメだろうな。

 恥ずかしさからの顔の紅さだったと期待するしかない。

 怒りからのものだとは信じたくない。

 

 

「あ……ミリ……」

 

 また直ぐして、顔の紅さが少し引いたミリが、次に着てきたのは全身タイツ的な物だった。

 

 エロい。

 

 うさみみ着けたらバニーガールできるぐらいエロい。

 

 造型としては一昔前に流行った女性用スクール水着の肩と胸と股間にちょっとしたアーマーを着けた、かなりの軽装で、これから闇夜に隠れて暗殺でもするのかと言うそんな感じの風貌だった。

 

 エロい。

 

 鍛え上げられたミリの四肢がスパッツとあいまって究極なエロが爆誕したような感じだ。 

 素晴らしい! 

 これは今すぐにでも学会に……って、だからなに考えてんだよ俺は!

 

 今日の俺はなかなか頭がおかしいぞ。

 昨日の疲れだな……きっと。

 

「あ。じゃなくて感想は、感想!」

 

 どうやら俺はミリが戻ってきてからずっとミリの方を直視していたらしい。

 

「さっきよりかは幾分か良くなったと思うけど動きやすさ重視で防御を捨てすぎていると思う。まぁ、ミリほどの腕となれば攻撃特化でもいいかもしれないけど、やっぱり不安だなぁ」

 

 あと、回りの男達の視線がミリの一点に集まっていることについても色々と気にしてもらいたい限りである。 でもこればっかりはそう言うことに疎いミリに言っても無駄だろうな。


「ふふーん。防御については多分大丈夫だと思うの、ほらこれなんかいつもと違うと思わない?」

 

 なぜか自慢げに胸の辺りを俺の目の前に持って来るミリ。

 

 まぁ、言われてみれば確かにいつもと少し違う? のか?

 

「いや、そこまでの違いは分からないな」

 

 こう言うのははっきりいった方がいいのだ、無駄に時間だけ伸ばして外れるとなると俺がどうなるかわからん

 強いて言うなら露出が多いぐらいしか分からない。

 

「これ、金属系のアーマーじゃなくてエネミーの外殻を使っているのよ」

 

 胸を張り自慢げに言うミリ。

 

「エネミー? それが?」

 

「そうらしいの、確か【レコン】だったかしらね、C級エネミーの防御特化型のやつね、あのでっかいダンゴムシみたいなやつ。あれの外殻を加工して使ってるらしいの」

 

 あぁ、あれか、攻撃するときに一回丸まるやつだ。

 

「へーでもなんで、それで防御が大丈夫になるんだ? 俺からしたら余計に不安要素が増えただけなんだけど」

 

 最近はエネミーの有効活用化が、流行ってるのか? さっきの銃の事といいこれといい。

 キメラ型エネミー嫌いの俺からすると生きづらい世になってきたな。

 

「エネミーって宇宙から来たでしょ? だからなのかは分からないけど地球にはない成分が豊富に含まれているから金属系のアーマーよりも圧倒的に耐久性に優れててなんとかかんとからしいの!」

 

 うん。詳しくは全然わかってないってことは分かった。

 

 あぁ、だから来栖さんの装備はなんかよく分からない角が生えていたのか、両肩から生える角。

 となるとあの装備はSSS 級エネミーの素材でもつかってんだろうな。

 ずるいぜ。

 

「まぁ、ミリがそれでいいって言うならそれでいいよ、で、値段は?」

 

 俺はグレートプレートの裏に隠した大量のお札をとりだしレジへと向かう。

 なんだかお札が仄かに温かい。

 

 多分ミリの事だ、さりげなくそこまで高いやつなんて選んでないんだろうな、まぁ、高くても五万辺りだろうかな。

 グレートプレートもそんぐらいだったし。

 

 俺としては十万ぐらいまでは出してもよかったんだが、仕方ないなぁ、もー全く仕方ないぜ。

 そこまで遠慮するのならば仕方ない。その値段で買うしかないな。

 

 と、どうでもいい脳内シュミをしたところで体をぐるぐる捻らせ値札を探していたミリが口を開いた。

 

「えーっと上下で……十万Z!」

 

「Oh!」

 

 ギリギリ俺が出せるとか言ってた値段じゃねえか! 計算していたのはそっちだったか。

 でも、ミリには色々とお世話になってるしな恩返しだと思えば安いもんだぜ。 

 

 安い……もんだ……ぜ……。

 そう、心に言い聞かせながら1000Z札100枚をカウンターにおき、防具と交換した。

 

 こうして俺の、いや、俺とグラディウスの賞金の3分の1がミリの装備になったのだった。

 

 ◇◇

 

 あれから俺とミリは約束を果たすために「SHOPハシマ」の十軒となりにあるケーキ屋さんへと移動することにした。

 もちろんミリには言わないでとりあえず「こっちこっちと」手を引っ張っていっただけだが。

 

「よしついた!」

 

「はぁ、はぁ、もう、疲れるじゃない!」

 

 そう言いながらも俺のダッシュに着いてこれるミリは凄いと思う。

 

 汗だくで、息も切れているが、筋力ステータスSである俺の敏捷はもちろんのこと人の域を越えている。

 それについてこれている時点でミリはもう人間ではないのかもしれない。

 

 まぁ、本当は行きの仕返しをしたかっただけなんだけどね。

負けず嫌いの血が騒ぐぜ。

 

「ミリ、それはきっと運動不足だ」

 

「私が朝起こさないと一日中寝てるソウマには言われたくないわね!」

 

「……よし、じゃあ中に入ろうか」 

 

「話を反らそうとしない! でも、今回は見逃してあげるわ、だって私は今機嫌いいもの!」

 

 物を買ったら機嫌が良くなるのか。

 どうやらミリの脳内は小学生で止まっているらしい。

 

 ◇

 


 俺らの立ち止まったケーキ屋は「LOVE SWEETS 」と言うこの辺り、いや、第三地区では割と人気というか有名な店だ。

 

 砂塵舞う第三地区、古代ローマ風なここで、古風な感じを醸し出しているここで、ひとつでかいショートケーキの看板を店の屋根に着けているのだからそりゃもう目立つったらありゃしない。

 しかも店はひとつだけロンドンひでもありそうなぐらいの西洋風三角屋根、円柱ハウスなんだから困ったものだ。

 

 場違い感が半端ではない。

 

 しかし有名な理由はこれだとしても人気な理由は別にある。

 単純に美味しいらしい。

 売っているものはショートケーキ単体だけらしいが。

 真っ白な生クリームの海にまるでそこで泳いでいるかのように生き生きとしている真っ赤なイチゴ、その紅白のコントラストが美しく、そして悪魔的に美味しいらしいのだ。

 

 俺は食ったことがないから、それは本当かどうかなんてことは一切合切わからないが、落ちていた新聞にそう書いてあったからきっと本当のことなんだろう。

 

 でも、人気店というわりには行列なんて、出来てないし甘いものが好きそうな女子高生なんてものも居ない。

 そもそも高校自体が消滅してしまっているから女子高生なんているはずもないのだが。

 

 まぁ、いい。

 

 恐らく二年ぶりのケーキだ。特と味わわせて貰おうか!

 

 そう、一人で妄想に浸っていたらミリに呼ばれてしまった。

 

「ねぇ、早く行かない? そんなに焦らされてもこまるのだけど、あ、もしかしてソウマって変態? そうやって焦らすのが好きな変態?」

 

「全く、ケーキ屋の前でスクール水着型の装備を着ている人が何をいうか」

 

「こっ、これは装備だから! 装備だから!」

 

 またも顔を赤らめ両手で体を、主に胸の辺りを隠すようなポーズをとるミリ。

 恥ずかしい思ってるなら、他のやつにすればよかったのに。


「まぁ、いいや、いざ! 夢の桃源郷へ!」

 

 しかし気合いを入れ、心踊らせ、扉をスライドさせて入った店内にあったのは店の名前から連想される雰囲気とは全く反対の景色が広がっていた。

 

 簡単に言うと店内すべてが、和風だったのだ。 

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