第10話 戦女神の激励

 待ち合わせの場所は、駅にもほどちかいファーストフードの店であった。

 店の外張りのガラスに俺の姿が映った時点で亮二はこちらに気づいたらしく、ハンバーグをつかんでいないほうの手を上に上げた。

 そして、そのまま俺の名を呼びながら立ち上がる。

 ……目立つからやめろって、そういうの。


 わけあってそのまま店には入らず待っていると、ミリタリーファッションに身を包んだ柄の悪い金髪頭の青年が、笑いながら近づいてくる。

 うわぁ、周囲の通行人がみんなこっち見てるぞ。


「よぉ、無事だったみたいだな渋谷……っていうか、なんだそのフクロウ? 微妙に見覚えあるけど」

「甲楽城からのお目付け役だよ。 名前はニキって言うらしい」

 そう、俺の頭の上にはいつぞやの白いフクロウが鎮座していた。

 おかげさまでこれから大事な話しをする必要があるというのに、どこの店にも入れやしない。

 まぁ、邪魔だからどっかいってくれというわけにもゆかないから、あきらめるしかないのだが。


 なお、甲楽城自身が直接手を下す事はできないが、このフクロウを補佐として貸し出すのはギリギリセーフと言うことらしい。

 飼い主同様、すさまじく態度がえらそうなのでストレスを感じなくも無いが、あの悪魔と対決することを考えると心強くはある。


「で、狂犬の部屋のリフォームってのはもう終わったのか?」

「あぁ。 天井の板を外しただけで終わったから拍子抜けだったよ」

 というか、悪魔自体もいなかったしな。

 正直、あれだけなら俺でも出来るんじゃないかと思ったぐらいだ。


「だが、俺達の戦いはこれからだ……だろ?」

「なんだよ、その打ち切り食らった少年漫画みたいな台詞」

 亮二がまじめ腐った顔でそんなことを言うので、俺は思わず噴き出しそうになる。


「まぁ、ここで終わる話ならばそれでいいんだけどな。

 あいにく、本当にここからが本番だから困ったもんだ」

 そんな無難な言葉を返しながら、俺は亮二の大柄な体の後ろに目をやった。


「それはいいとして……なんでここに環菜がいるんだ?」

 そう、ファーストフードの店にいたのは、亮二だけではなかったのである。


「もちろん、わたしも悪魔退治に参加するからにきまってるじゃないですか」

「正気か? できればおとなしく帰ってくれたほうが……」

 率直に帰れと言ったつもりだが、逆に環菜はこぶしを握り締めながら前に出てきた。

 なんだ……この異様な迫力は。


「これでも、趣味でサバイバルゲームしてるんです! 先輩よりずっと戦いなれているんですよ!!」

 そういえば、彼女の服装はカジュアルでもフェミニンでもなく、なんと亮二とお揃いのミリタリーであった。


「戦いなれている? 俺の知り合いのゲームに何回か参加しただけの……ぐあっ!?」

 すると環菜の足が、えらそうに何かを言いかけた亮二の足を無言で蹴りあげる。

 うわっ、いますげぇ音したぞ。

 わりと知りたく無かった、彼女の知らざる一面だ。


「その気持ちは嬉しいけど、君は帰ったほうが……」

「嫌です! もし、二人が帰ってこなかったら、たぶん一生後悔するじゃないですか」

 悶絶する亮二をいないものと無視すると、環菜は俺の目をまっすぐに見つめる。

 くっ、すごく断りにくいな。


「それに、くだらない感傷でこんなところにきたつもりは無いわ。

 私がいたほうが勝率が上がると判断したからここに来たのよ。

 今までも、お兄ちゃんが問題を起こすたびにあれこれ手を回して解決してきたのは私だし。

 すくなくとも、脳みそまで筋肉で出来ているお兄ちゃんよりずっと役に立つ自信はあるけど?」

 その台詞にちらりと亮二のほうを見るが、何かをごまかすような苦笑いをするだけで何も言ってこないところを見ると、どうやら事実らしい。

 ……本当に意外な姿だよ。

 かえすがえす知りたくなかったけど。


「そもそも、先輩はどういう作戦で悪魔と戦うつもりだったの?」

 周囲に人がいないことを確認すると、環菜は声をひそめてそんなことを言い出した。

 え? いや……作戦とか、その、俺、そういうの初心者だし。


「え? あ……まぁ、ざっくりとは決めてあるんだ。

 悪魔をおびき寄せる方法を甲楽城から聞いているから、あとはその場に応じて臨機応変で……痛い! ニキ、頭をつつくな!!」

 悪魔を探す方法は効率が悪いから、魔術でおびき寄せたほうがいいとは、甲楽城の言葉である。

 そして、本当に悪魔が来てしまったら、あとは亮二が襲い掛かってひとりかくれんぼを終了させればいい。

 あとはこの世界にとどまる触媒を失った悪魔が自然消滅するのを待つだけだ。

 というか、それ以外に何があるというのだろうか?


「ほら……ぜんぜんダメね」

「面目ない」

 腰にてを当てて胸を張る環菜を前に、俺と亮二はがっくりと肩を落とすほかはなかった。

 あっ、ニキの奴……俺の頭から環菜の肩に移りやがった!

 しかも、今、フッて鼻で笑わなかったか!?


「とりあえず、先輩の出来る事とか、悪魔への対抗手段と言う奴を詳しく聞かせてください。

 作戦会議よ!!」

「うーい」

「は、ははは……頭を使う事はまかせた」

 知らない人間が聞いていれば、おそらくゲームか何かの話だと思う出あろう……そんな台詞とともに、俺達はニキをつれていても問題のない近場のペット好きの集まるカフェへと向かうのであった。

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