朝を司るニワトリと、夜を司るフクロウ。
彼らは大切な役目を果たしながら、共に暮らしています。ですが、住処に戻るとふたりは……。
まるで古の神話のように壮大で、詩のように色彩豊かで美しい世界に引き込まれました。
キャラクターが鳥であることで、どこか親しみやすい愛らしさも感じます。
そんな愛すべき彼らの背負っている運命の切なさが、心に深く残りました。
「夜のフクロウ 朝のニワトリ」この言葉だけで、もう想像力をくすぐってくれます。
タイトルから膨らませた期待を、この作品は裏切ることはありませんでした。読んで良かったです。
童話の読みやすさ、発想の豊かさを持ちながら、大人の情感に訴えかけてくる作品です。
読了後には、身近な人と何気ない言葉を交わす日々を、よりいとおしく思えるかもしれません。
フクロウが起きると世界は夜になる。
ニワトリが起きると世界は朝になる。
お互いが微睡んで朝と夜は交代する。
神話にも似た設定と、柔らかな文体によるストーリーテリングはまさしく「童話」。私は絵本作家の安野光雅氏が好きで、彼の絵本をよく読んでいるけど、自然と彼の画風で物語が想像された。
同じ刻を同じ場所で過ごしている筈なのに、起きてみるといつも相手は眠っていて、どうやっても起こせないから起きている時はいつもひとり。相手の寝顔を見て今日の眠りに就けるのに、一度だって言葉を交わした事は無い。もしかすると、彼らが同時に起きていられても言葉は通じないかもしれない、とそんな老婆心もある。
でも、心は言葉ではないから、そこにいるだけで通じ合える。
だから今日の夜と明日の朝は、せめて夜と朝を眠気まなこで過ごす誰かに思いを巡らせていたい。たった今目覚めた人には「おはよう」と、たった今目を閉じた人に「おやすみ」と呟く。
相手がわからなくともそういう存在は必ずいて、そんな存在との心の通じ合い方があると、この作品は思わせてくれる。
手を伸ばせば届く距離に居るのに。
目覚めて初めて見るのも、眠りにつく前に見るのも、いつも君なのに。
君のこともっと知りたい、もっと語り合いたいと思っているのに。
けれど、それが決して許されないことだと知っている。
切ない恋物語のような、世界の秩序を創る「ふたり」の物語。ちょっと悲しいけれど、そばに居るだけで、もしかしたらそれだけで良いのかも……と思ったりして。
一枚一枚、絵本をめくっていくような優しさと、ただの寓話で終わらせたくない程の甘酸っぱさを併せ持つお話を、過ぎ行く年を想いながらじっくりと味わってみてはいかがでしょうか。