亡者に寄せて 壱
「五階までは行きませんか」
と言うのが
当連載の開始せる頃は暴れて嫌がったであろうが、正直なところ、現在の私は探索の苦労の中に何とも言えぬ楽しみを見出す様になっていた。好きとは言わぬが、とっくに嫌い一辺倒とは言えなくなっていたのである。
我々はごく良い速度で三階層へと到達した。あと二階か、と思うと何とも名残惜しさが募る思いであったが、ここでへこへこと、ええ、もう終わりで御座いますか、もう三階五階と下っても
暴れて嫌がり、ここで仕舞いにすべきであったと後悔をするまでには、そう長くは掛からなかった。
迷宮は概して
階段を下りる途中、冴子嬢は布で鼻口を覆った。
「この先に何が出るのか、当てて見せようか」
「先生、わかりますか」
「
「それだけなら良いですが、厄介なのは
どれも
聖水であると言う。
高野山から取り寄せた貴重品ですよ。高見君が言うので、私はてっきり冗談かと思い笑いかけたのだが、冴子嬢が呆れ顔で、近くのお寺で十分なのに、この人は
さて、警戒しながら暫く進み、私はこの階層に違和感を覚えていた。上の階層にはしばしば、怪物とは言えぬ大きさ強さの生き物——鼠や
ぺたり、と言おうか、ぐちゃり、と書こうか、足音が聞こえた。先の角からである。私は
緩慢な速度で、腐り溶けた人の顔が壁の向こうより覗いた。
流石の高見君は、動作が速かった。稲妻の如く大股で走り寄り、剣で
「急ぎましょう。
我らは頷き、彼に続いた。
その後も
珍事と言うのはあるものだ。私は初めて、祈りの部屋で我々以外の探索者と出会ったのだ。
私と同年代ででもあろうか、厳しい顔をした男性である。特筆すべきは服装で、天狗の如き墨染の衣を纏った——
これはどうも、先に失礼をば。
「違っていれば申し訳ありませんが、飯田
突然名前を呼ばれ、私は言葉に詰まって仕舞った。ええ、はい、そうですが、等と
「これはこれは。矢張りそうでしたか。拙僧、先生の文を楽しんで拝読しております。お写真を拝見した事がありましたし、職業探索者と言う様子でもありませんでしたから、それで」
私はどっと汗の吹き出る思いであった。この文が実際
「そうですか、有難う」
「あの
感想を頂けるのは心底有難い事なのであるが、実際に耳にするとわっと聞こえない様
この階は中々大変でしょう、と
何でも英山坊殿はこの階層に限ってほぼ単独で徘徊をしていると言う、珍しい
「ここは死体が多すぎますからな。聖水で清めても、やがてまた蘇って仕舞う。それをさらに
先の
「もし差し支えなければ、この後
高見君は冴子嬢と何やらヒソヒソと話していたが、やがて
「構いません。こちらも渡りに船です」
さて、ここに我ら歴戦の戦士四人は集えり、続きは如何なる苦難困難が待ち構えていようぞ、と。続きは私の原稿が仕上がり次第である。座して待ち給え。
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