魔法に就いて
幼い頃、未だ十二階の
魔法と言うのはしかし、あの奇術や手妻とは異なり、実在する力である。読者の皆さんの
ひとつは、どの様な理屈であるか、かの
ここで物分かりの良い顔をして
さて、ふたつ目の理由、これは魔法の在り方及び操り方が明らかになった際、その教導技術は発見者により独占されたからである。今日、魔法職となり迷宮内でその力を遺憾なく発揮する為には、或る道場へ赴き、
何でも、冴子嬢の迷宮に潜る理由のひとつは、将来に於いて彼女流の魔法道場を設立したい、その為の修行と資金捻出の意味があると言う。青雲の志である。断固たる口調で語る彼女の夢が、見事果たされん事を!
三つ目の理由はこれも詳細は不明であるが、魔法の使用に適した人間とそうでない人間が存在する、と言う事らしい。私も好奇心から確認をさせて貰ったのであるが、見事に不可であった。学生時代には貰った試しのない成績であるので、少々落ち込んだ物だ。私とて、
さて、この様な条件を潜り抜け今魔法職として見事に活躍を見せる冴子嬢は、即ち選ばれた精鋭、と言う事となる。実際
お嫁の行き手もあれだけあれば良かったのですけれどね、と短く断髪した髪を掻き上げ笑む様など、洋装して銀座でも歩けばさぞかし、と言う程の美女である。何でも、父上を亡くして女学校を中途で辞め、仕事を移り移って
だが、むざむざ探索者なぞに身を落としてだの、勿体無いだのと言う人あらば私はこの貧弱なる腕でもって幾らでも戦う心算でいる。彼女は彼女の志を以って、困難なる己の道を切り拓かんとするひとりの戦士である。闘士である。私は彼女の幸福なる意志の貫徹を願って止まぬ。
さて、本日の私の筆は
二階層を恐る恐る巡っていた時の事である。我々は突如、
ゴウ、と何かが通り過ぎたのを感じた。術師が強力な魔法を使用した時に生ずる、魔力風と言うのだそうだ。そうして起こった事は何か。空間に雷鳴が生じた。雲は無い。
さて、この戦いで私は少々脚に傷を負った。大した物ではないが、やや痛むため、警戒を続ける冴子嬢に対して傷が治るような魔法なぞ掛けてはくれないか、と軽い気持ちで声を掛けたのだ。すると高見君と冴子嬢は顔を見合わせた。
「先生、この迷宮内でも、
案外な言葉に私は耳を疑う。例の道場主も、遂に傷を回復せしめる技は生み出せなかったのだと言う。或いは、何某かが秘密で発見をし、秘匿していると言う事は有り得るそうだが。
傷を癒す為には例の祈りの部屋に篭って石に頼るしか無いのだと私はその時知った。または
魔法は万能の秘薬では無い。私は脚を引きずり引きずり、二階層の祈りの部屋を求めながら強く心に刻んだ。先の大魔法を使用した冴子嬢には、少々疲れが見える。魔法には精神の力が必要である。そうして、精神の疲労は肉体の怪我と違い、
我々は祈りの部屋で
冴子嬢は休みながら、子供の頃の話などを聞かせてくれた。彼女も矢張り、時と場所は違えど、奇術を見たのだと言う。気難しい子供であった私とは違い、彼女はその手妻に目を輝かせたのだとか。そうして長じた後、行く手の無くなった彼女が選んだのは魔法の道であった。
「種も仕掛けも無い、と言うのをやって見たかったのです。でも、何分不器用な物ですから」
彼女はそう言う。不器用と言うならば自分もである。数々の
やがて冴子嬢は無事回復し、我々は神秘なる部屋を後にした。我々は既に幼い子供ではない。父は私が作家として身を立て始めた頃に卒中で
さて、その後の事はこうして私が無事帰還し、部屋で原稿に勤しんでいる事からも想像して頂ける事であろう。あとは最後に勿体ぶった締めの言葉を用意し、それを以って編輯に原稿を手渡すのみである。
Be ambitious! との言葉を以ってこの稿を終わりにしよう。これは何も陽光に満ちた激励の言葉や、前向きの押し付けではない。この暗い夜道が如き現実を
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