巨大地震の影響で異世界へと落ちてしまったりえりーとわたる。
そんな凸凹な2人が穴から穴へと巡り廻るSF(少し不思議)なお話。
異世界の影響か、穴が産み出す歪みの仕業か。
その答えを知る「カックー」と言う不死鳥を追い求め、
りえりーはわたると共に、穴と言う穴に落ちていくのです。
協力して異世界を巡る中で突然、わたるに異変が起こり…。
この話、「りえりーside」と「わたるside」があります。
私は「わたるside」を読んだ時に、純粋なわたるが愛おしかった。
わたる→ワタル→渉へと重ねてきた健気な想いは。
涙無しでは語れないし、彼の鼓動が聴こえて来る様でした。
「穴師」である黒田穴太郎が掘る事を止めない理由は?
そして、不死鳥「カックー」は、最後に2人へ何を語ったのか。
SF(少し不思議)な、淡くて優しい体験をしてみて下さい。
今回の作品は「人間の欲望から出来る黒い穴」というテーマでしたが、欲望に満ちた異世界に召喚された二人が「穴」の攻略に挑む姿が美しく、やっかみを入れてくる鳥のキャラも最後では良いものとなり、綺麗に纏められている作品と感じました。
この世界の住人は全て強大な「欲」を持っていましたが、それは異世界に限らず現代でも同様です。
そういったメッセージ性が強い作品として、私の頭には印象がこびりつきました。
表現では、りえりーと黒田の犬猿に割り込む召喚者抹殺のための刺客で「三角関係ってそっちかよ!」と思わせたり、時空の歪みによりわたるが「膿」まれてしまったりと、読者を驚かせる演出が多々あり、とても面白かったです!続きが読みたいと思いました。
追伸:ラストシーンで食べていた焼き鳥とはまさか……。
手に取るか悩んでいる人は、どうか1ページ目だけでも開いてみてほしい。もう、この作品から目が離せなくなる──…。
舞台となるのは主人公達の住む異世界「ガスキートリ」。主人公のりえりーは出勤中(彼女はこちらの世界で言うペットショップで働いている)、綺麗な色の鳥を見つける。それはまあオカメインコなのだが、もちろんガスキートリには存在しない。りえりーは夢中になってインコを追いかけ、完全足元不注意。穴に落っこちてしまう。そして彼女は人間界のマンホールから、あちらとこちらを行き来出来るようになるのである。
彼女を人間界に導いた毒舌オカメインコ「わたる」(2歳)。人間界でのりえりーの働き口、怪しいペットショップ店長の「黒田」。
なぜりえりーは人間界へ来たのか。ガスキートリに迫る危険、黒田の思惑、りえりーの願いが交錯する異世界ファンタジー!
は、と気づく頃には読了している事をお約束しよう。
私は異世界モノの物語の傾向があまり好きではないんです。
往々にして日常に退屈している夢も希望もない人物が主人公。あるいは地味で冴えない少年。あるいはどこにでもいる平凡な女子学生。彼ら彼女らがひょんなことから異世界に飛んで大活躍、栄光を掴む。約束された苦悩と葛藤、ラストは絶対ハッピーで締めくくられる。ありがちな展開に辟易してジャンルから遠ざかっていましたが、当作品はそんな私をガッシリと掴んで離しませんでした。とても二百字では語りきれません。超過しますが突き進みます。
まず、マンホールと異世界が繋がっているという発想が面白かったです。だから下水道工事の方があっちとこっちで頻繁に行き来してるんですね。タイトルの通り突飛で穴だらけな設定ですが、納得してしまうだけの説得力がありました。りえりーはマンホールの蓋をデザインする会社に勤めており、出社時間に遅刻した彼女と自らの足で歩行していたわたるが曲がり角でぶつかるところから物語が始まります。
ライトな文体だったので気楽に読み進められましたが、中盤辺りから雲行きが怪しくなり、ラストは衝撃の………。ありがちな異世界ものとはひと味もふた味も違っていました。頭三つ分突き出ています。
そして従来の異世界ものと違ったのは、とにかく人物の魂の状態でしょう。
りえりーはマンホールの蓋の製作で一発当てて一生働かずに豪遊して暮らすのだと野心に溢れていますし、上司の穴太郎も趣味のオカリナと木琴を楽しんでおり、退屈とは程遠いです。2歳児のわたるも幼いながらに世界情勢を見通しています。現状に希望を持っている彼らが異世界に飛ばされ帰れなくなり、絶望するシーンはとても印象的でした。
どんなにシリアスな会話をしていても語尾に必ず「りー☆」を付けるりえりーの口調には終始イライラしましたが、わたるの発語を覚えて間もない2歳とは思えない卓越した言語能力の高さ、流暢な喋り、ナポレオンと重なる思想には舌を巻きました。このペースで行くと1年後には国を2.3国動かし、3年後には世界を支配しているはずなので、物語がりえりーと穴太郎の恋愛三角関係に発展してもなんとなく頷けます。だけど2歳児に恋愛感情でときめくりえりーには共感できませんでした。多分これは私に問題があります。りえりーが可愛いので私の女の部分が嫉妬しているのでしょう。
名前に反してドSでクールでイケメンな穴太郎に心を奪われた方は多いのではないでしょうか。うっかり穴太郎が通りきる前にマンホールの蓋を閉めてしまったりえりーに向けたあの暴言が最高でしたね。「セロハンテープで殴ってやろうか!」殴ってもそんなに痛くないでしょう。穴太郎さんったら優しいんだから〜〜。好き。とにかく人物達が魅力的でした。