暴言上司とぶりっこ女性と世界を支配する2歳児というバランスがgood

私は異世界モノの物語の傾向があまり好きではないんです。
往々にして日常に退屈している夢も希望もない人物が主人公。あるいは地味で冴えない少年。あるいはどこにでもいる平凡な女子学生。彼ら彼女らがひょんなことから異世界に飛んで大活躍、栄光を掴む。約束された苦悩と葛藤、ラストは絶対ハッピーで締めくくられる。ありがちな展開に辟易してジャンルから遠ざかっていましたが、当作品はそんな私をガッシリと掴んで離しませんでした。とても二百字では語りきれません。超過しますが突き進みます。

まず、マンホールと異世界が繋がっているという発想が面白かったです。だから下水道工事の方があっちとこっちで頻繁に行き来してるんですね。タイトルの通り突飛で穴だらけな設定ですが、納得してしまうだけの説得力がありました。りえりーはマンホールの蓋をデザインする会社に勤めており、出社時間に遅刻した彼女と自らの足で歩行していたわたるが曲がり角でぶつかるところから物語が始まります。

ライトな文体だったので気楽に読み進められましたが、中盤辺りから雲行きが怪しくなり、ラストは衝撃の………。ありがちな異世界ものとはひと味もふた味も違っていました。頭三つ分突き出ています。

そして従来の異世界ものと違ったのは、とにかく人物の魂の状態でしょう。

りえりーはマンホールの蓋の製作で一発当てて一生働かずに豪遊して暮らすのだと野心に溢れていますし、上司の穴太郎も趣味のオカリナと木琴を楽しんでおり、退屈とは程遠いです。2歳児のわたるも幼いながらに世界情勢を見通しています。現状に希望を持っている彼らが異世界に飛ばされ帰れなくなり、絶望するシーンはとても印象的でした。

どんなにシリアスな会話をしていても語尾に必ず「りー☆」を付けるりえりーの口調には終始イライラしましたが、わたるの発語を覚えて間もない2歳とは思えない卓越した言語能力の高さ、流暢な喋り、ナポレオンと重なる思想には舌を巻きました。このペースで行くと1年後には国を2.3国動かし、3年後には世界を支配しているはずなので、物語がりえりーと穴太郎の恋愛三角関係に発展してもなんとなく頷けます。だけど2歳児に恋愛感情でときめくりえりーには共感できませんでした。多分これは私に問題があります。りえりーが可愛いので私の女の部分が嫉妬しているのでしょう。
名前に反してドSでクールでイケメンな穴太郎に心を奪われた方は多いのではないでしょうか。うっかり穴太郎が通りきる前にマンホールの蓋を閉めてしまったりえりーに向けたあの暴言が最高でしたね。「セロハンテープで殴ってやろうか!」殴ってもそんなに痛くないでしょう。穴太郎さんったら優しいんだから〜〜。好き。とにかく人物達が魅力的でした。

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