第8話 マリヤと仮面の男
某日、いつものように、ブラッドはマリヤの作った機械の試運転をヒーロー達で行っていた。
いつものように、ヒーローたちはその機械によって反撃ができない状態にされ、動くことすらままならなかった。
「はははは!! やはり楽しいなぁ!!」
ブラッドが楽しげに笑っていると、ブラッドを妨害するような黒い影が彼に接触しようとした。
ブラッドは寸前で除け、ヒーローの前から一度姿を消して、高いビルの屋上へと移動した。
「そこにいるのはわかってるぞ」
黒い影がさっとあらわれる。
それは以前あった仮面の男だった。
「貴様、私の邪魔をするのはよしてもらおうか」
「貴様のやり方が気に入らんだけだ」
「なんなら、ここで――?!」
ブラッドは目を見開いた。
混乱する町の中にマリヤがいたのだ。
意識が完全にそちらに向き、ブラッドは舌打ちするとその場から姿を消した。
「……うう、人多い……気持ち悪い……」
「何をしている貴様」
「あびゃあ!!」
マリヤは背後からの声に奇声をあげて振り返ろうとすると、町の中から一瞬で屋敷の中へと場所が代わり混乱した。
「え、え??」
「何をしていたのだ貴様……!!」
いつも以上に不機嫌と怒りを露わにしているブラッドを見て、マリヤはひえっと声を上げて頭を抱える。
「き、機械充電し忘れてたから、電池切れだとかっこわるいと思ってなんとか充電しようと充電の機器もっていこうと思ったんです……!!」
「阿呆か、それよりも貴様がけがする方が問題だろうが!! 電池切れは試しあきたとでも言えばごまかせる!!」
「あ、あうう……」
ブラッドに今まで以上に叱られ、マリヤは頭を抱えてぶるぶると震えた。
「おい、そこまでにしてやれ」
その時、ごすっと頭を何かで殴られ、ブラッドは頭を押さえる。
後ろを見れば、分厚い本を片手に無愛想な顔をしたレアがいた。
「レア!! 貴様、そういうもので殴るな!! 貴様が武器にしようとしたものは全部凶器になるんだぞ!!」
「それは知っている、知ってて殴ったからな」
「貴様は~~っ!!」
レアは、怒りに身を任せているブラッドを押しのけて、震えるマリヤの元に近づき頭を撫でる。
「町にいくとは思わなかった、危険だったね。怖かったろう。でもよく頑張ったね、でもそういう頑張りはしなくてもいいくらい、君は頑張ってるよ」
「で、でも、今もブラッド様、怒らせちゃったし……」
「あれは怒っているんじゃない、君を叱っているんだ。彼奴の言うとおり、危険だし、君には負担が強すぎる。だから叱っているんだ。まぁ感情的になってる分、怒ってるように見えるけどね」
「あうう……」
レアがそう言ってブラッドの解説をするのをみて、ブラッドは溜飲をさげたのか、不機嫌な表情を張り付けている状態になった。
「その通りだ、貴様は私の大事な部下だ。何かあって怪我などしたらたまったものではない」
「は、はい……ブラッド様……」
「で――ブラッド、貴様に悪い知らせだ」
「何だ?」
「つけられたぞ、誰だ彼奴は?」
「何?!」
ブラッドが背後を見ると、後ろには先ほどの仮面をつけた黒い男が立っていた。
「感情任せに移動したおかげで追跡ができた感謝する」
「喧嘩なら私が――」
「待て、ブラッド。患者が関わったんだ、私が対応する」
レアはマリヤを隠すように動き、男を見据える。
「……レア・ジャガーノートか。ビースト計画を一人で崩壊させた、人類の英雄(ヒーロー)が何故こんなヴィランと手を組んでいる」
「ほう、その計画知っているのか。ヴィランにしては中々できるな、だが私は私の患者を守るためにやっただけだ、私自身はヒーローでも何でもないぞ」
レア達の言葉に、マリヤは混乱しているようだったが、ブラッドは頭を撫でて、彼女をなだめ、レアと同じようにマリヤを男から隠す。
「まぁ、腐れ縁という奴だ。敵対するならここでやってもかまわんぞ」
「その通り、まぁお前が――」
「「死ぬだけだが」」
レアはメスを手に取り、ブラッドは真っ赤な剣を出現させそれを手にした。
「……いや、今日は止めておこう」
「なんだ、組織で襲いに来る算段でもつけるつもりか」
男の言葉に、レアは普段とは異なる刺々しい様子で問いかけた。
「そんなことはしない、だがもしその娘に何かあったら――私の長が黙っていないとだけ伝えよう」
「何?」
「言葉が多すぎたな、では失礼する」
そういうと男はその場所から姿を消した。
男がいなくなった屋敷の中に、何ともいえない空気が流れる。
「……マリヤ、今の男の言葉に心あたりは?」
「な、ないです……全く」
「……別人と勘違いしているか、それとも――いや、わからんな」
レアはため息をついてメスを仕舞った。
「こういう事もあるから、君は彼奴が外で何かしているときは大人しくしているのがいいかもな」
頭をぽんとたたくようにレアがマリヤに言うと、マリヤは縮こまり申し訳なさそうな顔をした。
「今回はよかったが、君に危険が及びかねない、それは避けたいんだ、私もブラッドも」
「――そういうことだ、ドクター・マリヤ。貴様はこういう時は大人しくしていろ」
「は、はい……」
マリヤはしょぼくれたまま、地下基地へと姿を消した。
「……監視カメラ設置されたとかは」
「ないな、本当何しにきたのだあの男」
「私もわからん」
ブラッドは呆れたようなため息をついて、マリヤが向かった地下基地の彼女の自室へと向かった。
マリヤは自室のベッドの上でしょぼくれていた。
「……ああ、本当、私ってだめな奴だ……」
「何がだめだ阿呆」
「あびゃ?!」
マリヤはいつもと同じように奇声を上げて後ろをみると、ブラッドが不機嫌な顔を張り付けて立っていた。
「ブラッド様……その、今日は、すみません……私が、変なことしちゃった、せいで……」
マリヤが申し訳なさそうに、消えそうな声でそういうと、ブラッドは呆れのため息をついて、どかっと、隣に座り込んだ。
「あれは言い過ぎた、それは謝ろう。すまなかった」
「?! ぶ、ブラッド様は謝らないで、下さいよ……だって……」
「貴様は私の身を案じてきたんだ、理由はどうあれな。それをないがしろにしてはいかんだろう」
ブラッドの言葉に、マリヤは何ともいえない表情を浮かべた。
「次は気をつけろ、貴様の身に何かあったら、私もレアも今のままではいられないからな……」
「はい……あ、あの一つ、質問いいですか?」
「……何だ?」
「ビースト計画って何ですか?」
マリヤの言葉に、ブラッドは予想がついていた顔をして、何ともいえない表情を作る。
「昔あった、アホらしい計画さ。不労不死と言われる一体の『獣(ビースト)』から遺伝子を調べてそれをクローニングや、埋め込みを行い、やらかした計画だ」
「……そんな計画が」
「昔の話だ、しかもその騒動は全て表沙汰にされておらんし、レアがそれをくい止めたのも、知っているのはごくわずかだ……それを知るとは奴は相当なのだろうな」
ブラッドの言葉を聞くと、マリヤはまた申し訳ないような顔になった。
「まぁ、気にするな。監視カメラも何もつけられてないし、貴様はいままで通りにしてればいい」
ブラッドはそういって、フミをどこからか、出現させ、彼女の膝の上においた。
「フミちゃん……」
「今日は猫でも撫でていろ、実験は成功だったんだから、今日はゆっくりすごせ、装置は戻しておく」
「……はい」
ブラッドが姿を消すと、マリヤはフミを優しくなでた。
そして、その日は静かな一日を過ごすこととなった――
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