第24話 マリヤとブラッド
マリヤは薬の資料を見ながら眉を潜めていた。
非常に不愉快そうな顔をしている。
「ドクター・マリヤどうしたその顔は」
「あびゃ?!」
ブラッドのかけ声に、マリヤは驚いたような顔をして資料を机に置きつつ飛び上がった。
「そんな不愉快そうな顔をして」
「それは……不愉快にもなりますよ」
マリヤはため息をついて薬を指さす。
「これ、人体に投薬すれば必ず人体を変化させる効果を持ってます。変化した人体はかなり頑丈で老化現象も止まりますが、理性なんかは全部ぶっとびます。とんでもない代物ですよ」
「これをどうにかする薬はできるのか、できないのか」
「できます、完成させてみせます」
普段のおどおどした雰囲気からいっぺんして、マリヤははっきりとブラッドに言い切った。
それを見たブラッドは嬉しそうに邪悪に笑ってみせる。
「それでこそ、私のドクターだ。やりきってみせろ」
「もちろんです」
マリヤはそう言うと、再び薬と資料に向き合い、用紙に図式や化学式などを書き込み始めた。
ブラッドはそれを見ると、邪魔するべきではないと判断し研究室を後にした。
屋敷に戻ると、白衣をわずかに返り血で汚したレアが立っていた。
「レアどうした」
「売人が多すぎて片づけるのが大変だ」
「そんなにか」
ブラッドの言葉に、レアは頷いた。
「普通のドラッグストアでも販売しているんだ、つぶしてもつぶしてもキリがない」
「なるほど……」
ブラッドは頷くと、ふと思い出したように口を開いた。
「マリヤに確認したが、薬は個人差はあれど人体を変化させるようだ、あの化け物のようにな」
「全く厄介な代物だな……貴様の細胞からできてるんだろう、どうにかできないのか」
「できたらやっている。正直に言えば劣化が激しすぎて手を出せない」
「劣化細胞か……また面倒な……」
「普通に販売されていることが問題だ、未だに『殺人事件』に収拾がついていないのだろう」
ブラッドはソファーに座って、疲れたように息を吐いた。
そこにフミがちょこちょこと近寄ってきて、ブラッドの膝の上に座った。
「……こいつはいつでも変わらずだな」
ブラッドが呆れたように言うと、レアはくすりと笑って近寄りフミを撫でた。
「この子までぴりぴりしているようでは問題だろう、この子はこの子のままでいいのさ」
フミはいつも通りふみゃーと鳴いて、欠伸をした。
「この猫は全くいつも危機感がない……」
「危機感を持たないからフミはフミでもあるんだろう」
レアがフミを撫でると、猫はごろごろとのどを鳴らして彼女の指にすりよった。
「マリヤの様子は?」
「薬をどうにかする気満々だ、今までのおっかなびっくりは無い」
「薬の出所とか話したのか?」
「いや、話していない」
ブラッドがそういうと、レアは少し考えるような仕草をした。
「……まぁ、あの子はヴィランには向かない性格だから今回の件は頭に来てるのかもしれんな」
「だが、自分でヴィランを選んだと言った」
「……そうだな」
レアはふうと息を吐いて立ち上がった。
「……マリヤにとってよい結果であることを望むぞ私は」
「私とてそうだ」
ブラッドがむっとした表情で答えると、レアは何か言いたげな表情のまま屋敷を後にした。
ブラッドはそれを見送ると、フミをどかして基地へと戻っていった。
基地に戻ると、研究室をのぞき込んだ。
無数の薬品を混ぜ合わせて、真剣な表情をしているマリヤがいた。
視線に気づいたのかこちらを向いて頭を下げた。
そして再び薬品を混ぜ合わせる作業に戻った。
ブラッドはそれを見ると研究室の扉を閉めて自室へと戻った。
自室の椅子に深く腰をかけて息を吐いた。
そしてしばらく目を閉じた。
目を閉じると思い浮かぶのは、『目覚めてからの光景』ばかり。
レアと死闘を演じた記憶。
ブラッド・クライムという名前を得た時と、組織の名前をつけた記憶。
マリヤという逸材を見つけた記憶。
様々な記憶がよみがえる。
それが終わってしまう予感がして気が気でなかった。
目を開け再び息を吐き出す。
「休めないのか?」
聞き慣れた声に視線を向ければ屋敷から出たレアが立っていた。
白衣が赤黒く汚れている。
「此処最近、めまぐるしく状況が悪い方向へと変わっているし、元々私が原因の出所だ、いろいろと休めないだろう」
「そうだな」
「ところでその血はどうした」
「――私の患者までもがその薬をやっていた、診察前に変貌して対処が大変だったんだ」
「被害は」
「私の白衣だけで済んだ」
レアは少しばかり忌々しげに語っていた。
「こんなに薬を蔓延させて何をする気だ……!」
「……モルモットだろう、薬が望む効力を発揮するまでつづけられるぞこれは」
「……早急につぶさねばなるまいな」
レアは壁を殴ると、ブラッドの部屋を出て行った。
ブラッドはそれを見てふうとまた息をはく。
「早急につぶす、か。果たしてできるものなのか……?」
そして目を閉じ、マリヤの状況を確認する。
マリヤは目を見開き、真剣な表情であの薬と対峙していた。
「……そうだな、私のところには優秀な科学者がいる。問題などない」
ブラッドはそういうと、目を閉じ浅い眠りについた。
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