第23話 破滅の薬とブラッド


 「エターナル」という薬が町で違法販売されるようになってから、殺人事件が急増した。

 しかし、警察の捜査は必ず後手にまわり、町は厳戒態勢をとられるが全てが空回りしていた。

「……厳戒態勢しいても事件が起きるのは上で何か起きているからだ」

 ブラッドは町を歩きながら忌々しげに呟いた。

「ぶ、ブラッド様、上とは」

「政治家、企業家など上層階級、上層部だ」

 ブラッドはマリヤから荷物を奪うと、共に町中を歩いた。

 問題発言を繰り返す彼らを気にする者は誰もいない。

「マリヤ、薬の方はどうだ」

「問題なく進んでいます、ブラッド様」

「それならいい」

 ブラッドはそういうと、マリヤの歩幅を見直して歩く速度をかえた。

 彼女が、急がず歩けるようにと。

 マリヤは急がず歩かなくてよくなったことに気づき、少しだけ嬉しそうに頬をゆるめた。

「今日の買い物の後はしばらく外出は控えますね」

「そうしろ」

 そうして二人は歩き始めた。

 歩き始めると、町のあちこちに立ち入り禁止のテープが張られ、異常さをかもしだしていた。

「……本当、物騒ですね……」

「そうだな、だがここにもっと物騒なのがいるぞ」

 怯えるマリヤに、ブラッドは邪悪な笑いを向ける。

 それを見たマリヤはどこかほっとしたような顔つきになり、安堵の息を吐いた。

「……そうですね、ブラッド様はお強いですから」

「そうだ、だから安心しろ」

 ブラッドは邪悪に笑ったまま、マリヤと町を歩いた。


 買い出しが終わり屋敷に戻ると、二人を思いも寄らぬ人物が出迎えた。

「遅かったな」

「予想よりも少しおそかったですかな?」

 レアと、ジョシュアが出迎えたのだ。

「せ、先生?!」

 マリヤは思わず飛び上がりそうになった。

「どうして先生が?!」

「今回の件でレアさんと話しておったのですよ」

「は、はぁ……」

 ジョシュアはいつも通りの飄々とした雰囲気で、マリヤを困惑させていた。

「……マリヤ、基地の自室に戻っていろ、荷物は私が持って行く」

「え、あ、はい……」

 マリヤはブラッドの真面目な顔を見てなんともいえなくなり、そのまま基地の方へと戻った。

 マリヤの気配が屋敷から完全に消えると、ブラッドは荷物をおいてため息をついた。

「――で、何のようだ爺」

「不肖の弟子が誰か解ったからご報告しようかと」

「何?」

 ブラッドは眉をひそめた。

「大企業と言われるマイヤー株式会社の嫡子のアルフレッド・マイヤーだ」

「マリヤくんの同期で、途中まではついてこれたんだが、脱落してしまったのですよ」

 ジョシュアはそういうと、ティーカップを傾けた。

「……かなり優秀ということか」

「マリアがさらに優秀なのも解るだろう」

 レアが壁にもたれながらブラッドの言葉をさらに補足した。

「……ふむ、そんな会社がやってて、しかも警察や政治家にも息がかかっているとなると危険だな……」

 ブラッドはそう呟き頷く。

「やれやれ、面倒なことになったな」

「全くだ」

 レアとブラッドは息を吐いた。

「私の弟子の後始末みたいで済まないが、よろしく頼みます」

「安心しろ、ただし弟子の命の保証はできかねんぞ」

「そうだな、私も今回は保証しかねん」

 二人の言葉にジョシュアは仕方なさげに微笑んだ。

「これだけ被害をだしたから仕方ないね」

「早速動くか」

「中和剤というか解毒剤ができていない、もう少し待つべきだ」

「意外だな、貴様がそういうなんて」

 レアは若干驚いた風にブラッドに言う。

 ブラッドはやや不服そうだったがすぐさまいつもの表情に戻しつづけた。

「このまま薬が蔓延するのは問題だろう、特効薬ができるまでは少しは待たないとならん」

「それまではどうする」

「薬の売人を捕まえて締める、それぐらいだろう」

「解った」

 レアはそう言うと屋敷から出ていった。

「行動が早いねぇ」

 ジョシュアがそう呟くと、ブラッドは肩をすくめた。

「彼奴は思い立ったら行動が早い、昔からだ」

「君はどうするのですか?」

「私は私の事情がある、動くのは今回は自重せねばなるまい」

「君も大変ですねぇ」

 ジョシュアはそういうと、ティーカップを置いて立ち上がった。

「ではそろそろ私も戻るとしますよ。 そうそう、マリヤくんの事よろしくお願いしますね」

 そう言って彼は屋敷から出て行った。

 屋敷に自分以外がいなくなると、ブラッドは戸締まりを確認した上で基地のほうへと移動した。


 基地の研究室では、マリヤがドラッグを無効化するための薬を開発していた。

 ブラッドはそれを入り口から眺めていた。

 するとふとマリヤの手が止まり入り口の方を見る。

「ブラッド、様?」

「よく気がついたな」

「それは何度も驚かされればある程度は気がつきますよ……」

 マリヤは苦笑いを浮かべながらそう言った。

「それもそうだな」

 ブラッドも同意し、いつも通りの邪悪な笑みを浮かべた。

「貴様は貴様にできることをしろ、今のようにな」

「はい、ブラッド様」

「それでいい。では私は戻ろう」

 ブラッドはそういうと、研究室を後にし、自室へと戻った。

「全く、あの時の事件よりも悪化してるではないか」

 ブラッドは悪態をつきながら椅子に座る。

「……最悪の時に備えて覚悟はしておかんとな」

 そして、誰にも聞こえないように一人呟いた――






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