第10話 マリヤと予測不能な日


 某日、ブラッドは新聞を読んでいた。

 新聞には、クラレンス地区の大通りにある路地にて、ここ最近不良グループや、マフィアなどが半殺しにされているという内容だった。

 犯人は特定できておらず、被害者は全員たまたまその路地で何かをしようとしていただけということが共通点だった。

「クラレンス地区……確かマリヤの実家が近い地区だったな」

 そういうとブラッドは新聞をしまい、マリヤのいる研究室へと足を運んだ。


「マリヤ、いるか?」

「は、はい? ブラッド様」

 マリヤは研究の手をとめて、ブラッドの方を向いた。

「クラレンス地区に寄る予定はあるか?」

「あ、ありませんが……」

「なら、当分よるな。最近事件が起こっているからな」

「は、はい」

 マリヤはブラッドの問いのこくりと頷いた。

「――あ、す、すみませんブラッド様」

 しかし、何かを思い出したかのように口を開いた。

「何だ?」

「レア先生と一緒にいくんですよ……実家の母に病状説明するついでにレア先生が買い物をすると……」

「――なら、レアの側を離れるなよ」

「は、はい」

 ブラッドは少しだけ不服そうに言うと、研究室から姿を消した。

「ま、マフィアとかの奴だよね……私には関係ない、と思いたいなぁ……」

 一人きりになった部屋で、マリヤは心細そうに呟いた。


 翌日、マリヤとレアがいなくなると、ブラッドは暇そうに屋敷内を歩き回ってから、フミで遊び始めた。

 フミは相変わらずふみゃふみゃごろごろと鳴きながら、ブラッドに遊ばれ、疲れるとその膝の上で丸まって眠り始めた。

「相変わらず、緊張感の欠ける奴だな貴様」

 ブラッドはそう言うと、フミをクッションの上に寝かせて、頭をかりかりと掻くようになでると、フミは満足そうな顔のまま眠っていた。

 そんな穏やかな時間を過ごしていると、突如屋敷の扉が勢いよく開いた、珍しく息をきらせたレアがそこにたっていた。

「ん、どうしたレア……おい、マリヤはどこだ」

「誘拐された」

「何だと?!」

 レアの言葉に、ブラッドは思わず噛みつくように服をつかみ、自分に引き寄せる。

「貴様がいたのにどういう訳だ」

「敵意がないから油断していた、これはすまない」

「――事情を説明してもらおうか」

 ブラッドの言葉にレアは頷き口を開いた――



 その時、レアはマリヤと一緒に買い物をしていた。

「この地区物騒とおもったがそうでもないな」

「で、でも事件があったんですし……いやだなぁ……」

「そうだな」

 マリヤの言葉にレアは同意すると、なるべく早くこの場所から立ち去ろうと考えていた。

 すると、マリヤが突然何かを思い出したように口を開いた。

「――そう言えば、私昔この地区で変わった人と出会ったんですよね」

「変わった人」

 立ち止まったマリヤに合わせて、レアも立ち止まった。

「ええ、小さい頃、母と一緒に遊びに来たとき、路地裏で倒れてる人を見かけたんです、ホームレスとは違う感じでしたし、身なりも結構綺麗な不思議な人が倒れてたんです」

「ホームレスとも違う、マフィアとも?」

「マフィア……っぽくは無かったですね、服装も装飾品も、ただその人倒れてて動かなかったので、小さい頃の私、何を思ったのか飴をあげたんです、それだけの話なんですが」

「……昔はずいぶん肝が据わっていたんだな」

「ははは……そう思います」

 レアは呆れの笑みをこぼすとマリヤも同じように苦笑した。

 そして再び歩き出そうとすると、マリヤの足が止まった。

「あれ……人が倒れている……?」

 細い路地の向こうに人が倒れているのを見つけたらしく、足を止めたのだ。

「事件かもしれん私が行こう」

 レアがその人物に近づく。

 その人物は髪の毛がひどく長い男だった。

 顔に傷があるが、マフィアとは違う黒い服を身につけ、装飾品も特に何もない出で立ちだった。

「……気絶? いや、これは――」

「レア、先生。警察呼びましたけど、大丈夫――」

 男をみたマリヤが目をきょとんと丸くしたのを、レアは見た。

「マリヤ?」

「そう、こんな感じの格好の人です、二度もあるなんて――」

 最後まで言う前に男が目を見開き、マリヤの腕を掴んだ。

「やっと、見つけた」

「?!」

「『私のマリヤ』」

 男はそう言うと、マリヤと一緒にその場所から姿を消した。

 レアは舌打ちをしてその場から急いで立ち去った――



「という訳だ」

「――何が『私のマリヤ』だボケェ!!」

 男が言ったという台詞がかなり気に障ったため、ブラッドは思わずテーブルをたたき壊した。

「ブラッド、そのテーブル結構高いんだぞ、ついでにマリヤの気に入りだ」

「――後で直そう」

 レアの言葉に、一瞬真顔になってからブラッドは呟いた。

 フミは全く気づくことなく眠りこけている。

「それにしても、何が『私のマリヤ』だ!! あれは私のだぞ!! 私が見つけて現在進行形でアプローチしかけてる私のマリヤだ!! ぽっと出がアホなこと抜かすな!!」

「だが、今までの話を整理すると、男とマリヤはたった一度だが面識があるようだ、しかも男は名前まで覚えている」

 レアの言葉に、ぐっとうなりブラッドは不機嫌を隠さない顔をする。

「そうだろうと、マリヤは私のものだ!! 間男は滅べ!!」

「向こうからしたら貴様が間男になるんだがな多分」

「ごちゃごちゃうるさい!!」

 ブラッドはそういうと、服装を整えて、何かを取り出した。

「ブラッドなんだそれは?」

「発信器、使いたく無かったが今回は例外だ!!」

 発信器の受信機器が表示する場所を覚えると、ブラッドは何かを思い出したかのようにいらだった顔をした。

「そうか、あの時の男と関係してるのか……ちょうどいい、潰す!!」

 ブラッドはそう言うと姿を消した。

 レアはブラッドのおいていった受信機を手に取り、場所を記録する。

「……彼奴一人じゃ心配だ、行こう」

 そう呟くと、そのままブラッドの後をおって屋敷を出た――




 


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