第9話 暇と気分転換
某日、ブラッドは暇をしていた。
マリヤが研究室にこもって研究に没頭している為である。
「暇だ」
「悪徳資産家でも潰してきたらどうだ」
「もうやった」
「お前はそういう奴だよな」
ブラッドの返しに、レアは面白味がないと言わんばかりの顔をした。
「退屈だ、退屈すぎる」
「フミと遊んでやればよかろう。マリヤが研究している間はフミは暇なのだからな」
「何で私が猫と遊ばねばならんのだ」
レアの提案にブラッドは不満を露わにした。
「フミの世話もう少し積極的にやれば、好感度あがりやすくなるかもしれんぞ」
「ちょっと行ってくる」
ブラッドがそう言うと、レアは何か言いたげな顔のままそれを見送った。
屋敷に戻ってくると、フミはのんびりとソファーの上でごろごろと鳴いていた。
その隣に、ブラッドは座った。
フミは顔をあげて、ブラッドを見ると、ふみゃーと鳴いてすり寄ってきた。
「む……ずうずうしいな貴様」
ブラッドはそう言いつつも、指でフミの顔を軽くなでると、フミは満足そうにごろごろ鳴いていた。
「餌はまだだぞ」
ブラッドがそう言っても、フミはその言葉を気にしていないように、ブラッドの指にじゃれつく。
元々人なつっこい性格で生きてきた猫なだけあって、ブラッドにも同様にそのなつきやすい本領を発揮しているようだった。
「……フン」
指で遊ぶのが面倒になったのか猫じゃらしを取り寄せ、それを揺らすとフミはふみゃふみゃと鳴きながら玩具のネズミの部分に真剣になっていた。
ただ、運動能力が低いためかブラッドに遊ばれるような形になっている。
しばらく猫じゃらしで遊ぶと、フミは満足したのかブラッドの膝にのっかり、そのままあくびをすると眠り始めた。
「……本当、猫とは自由きままだな、羨ましい」
ブラッドは一人そう呟くと、フミをなで始めた。
フミは満足そうに眠ったまま起きなかった。
そして、撫でていると、聞き覚えのある足音がブラッドの耳に届く。
「……」
その足音を聞いて、ブラッドは顔に邪悪な笑みを張り付けた。
「はー……疲れた……」
「――研究ご苦労だな、ドクター・マリヤ」
「あびゃ?! ぶ、ブラッド様……どうしてここに?」
「何をいっている、ここは私の屋敷だぞ」
驚いているマリヤに、いつもの邪悪な笑みを向けて手招きする。
マリヤは驚きながらも近づいてくると、ブラッドの上に眠っているフミを見つけたのか頬をゆるめる。
「フミちゃん、見てくれてたんですね。ありがとうございます」
「まぁな、ともかく座れ」
「はい」
マリヤはブラッドの隣に座ると、ブラッドの膝の上にいるフミをなでた。
「ふふ、かわいい……」
そんなマリヤを見て、ブラッドは満足そうな顔をしてそれを眺める。
フミは変わらず夢の中にいるらしく、眠っている。
ブラッドはそっと眠ったフミを持ち上げ、マリヤの膝に寝かせた。
フミはこれでも起きないらしく、すやすやと眠っている。
「ブラッド様」
「私の膝の上より、貴様の膝の上の方がいいだろう、ゆっくり見ているといい」
ブラッドはそう言うと、姿を消した。
ブラッドの姿が見えなくなると、マリヤは少し困ったような顔をして眠っているフミを撫でる。
「ブラッド様って不思議よね、ヴィランだけど、とっても優しいの……」
少し不安げな顔色に染めて、そのまま続ける。
「でも、たまに不安になっているの……」
ごろごろと満足そうに鳴くフミを撫でながら、少し不安の声色へと変化させて続ける。
「レア先生とは何か色々縁があるみたいだけど、私は何もないの。本当偶然の夢物語だった、だから不安なの……ふふ、これはブラッド様には内緒よ、聞いたらまた怒られちゃう」
マリヤはフミをクッションに座らせてから、撫でる。
「じゃあね、私また研究続けなきゃ。天才じゃないんだもの、努力しなくちゃ……」
最後は自分に言い聞かせるように言ってから、その場を後にした。
マリヤがいなくなると、ふっとブラッドが姿現す。
「やれやれ、病気なのは解ってたが、無理はさせないようにせねばな、今のままだと無理してからだを壊しかねん」
ブラッドはそう口にすると、再び姿を消した。
数時間後、マリヤは頭を抱えながらぶつぶつと何かを言っていた。
「このエンジン、あと200グラム軽くしないと……」
そう呟いていているマリヤの肩をブラッドがたたく。
「あびゃああ?!」
驚きのあまり後ろに倒れそうになるマリヤをブラッドは支えた。
「貴様、いい加減その癖を直せ」
「だ、だってブラッド様がいきなり来て、音もなく近寄って肩をたたくんですもの……!!」
「むぅ」
ブラッドは不服そうな声を上げるが、半泣きになっているマリヤを見て少し溜飲を下げたような顔をした。
「仕方ない、肩をたたくのは少なめにしよう」
「できれば突然声かけるのも勘弁してほしいです」
「……楽しみが減るからそれは却下だ」
「そ、そんなぁ~」
マリヤががっくりうなだれるのを見てから、ブラッドは不機嫌そうな顔を張り付けて、装置を指さした。
「――で、今装置の件で悩んでいるのか?」
「は、はい。エンジン部分の小型軽量化で少し手間取ってまして……す、すみません」
「そうか、なら気分転換だ。外に出るぞ」
「へ?」
ブラッドはマリヤから白衣を没収するとそのまま彼女を引きずって外へと出て行った。
「どーしてそうなるんですかー?!」
マリヤの悲鳴は聞かないフリをして、そのまま進んだ。
ある程度引きずってから、転移すると、そこは花畑で囲まれた別荘がある場所だった。
「わぁ……!!」
「気分転換にはいいだろう?」
ブラッドが邪悪に笑って訊ねると、マリヤは満面の笑顔で返した。
「ブラッド様、ありがとうございます! すてきな場所ですね……!!」
「そうだろう?」
ブラッドは満足そうにいうと、花畑に見とれるマリヤの手を掴んで別荘へと連れて行く。
別荘の中は過ごしやすい温度に保たれ、テーブルには綺麗にティータイム用の菓子やお茶が用意されていた。
「さぁ、座れ」
ブラッドはマリヤの手を引いて、椅子に座らせると、彼女のカップにお茶を注いだ。
「そ、そんなブラッド様、悪いですよ」
「気にするな。普段から働き者の貴様への感謝だ、遠慮せず受け取れ、なんならついでに休暇もやろう。あの装置はもう少し後でいい、煮詰まったなら休め。無理に考えるのは毒だ」
「は、はい……」
カップを受け取り、口にすると、マリヤの表情が和らいだ。
「美味しい……」
「私が淹れるお茶も悪くないだろう」
和らいだ表情をするマリヤを見て、ブラッドは満足げに笑う。
「はい、とても美味しいです……」
「そうか、ならゆっくりしていくといい、時間はたっぷりあるのだからな」
「はい……」
ブラッドの言葉に嬉しそうに、マリヤは頷いた。
「あの、ブラッド様」
「何だ」
「……私はよく解らないんですが、世界征服活動って……その、うちの組織できてるんですか? 私役にたってるんですか?」
マリヤが少し不安そうに訊ねると、ブラッドは邪悪な笑顔を張り付けて答えた。
「安心しろ、あくどい奴らからすでに容赦なく征服しているし、貴様の装置でヒーローも手出しできんのだ、安心しろ貴様は役にたっている」
「そ、それなら、よかったです……」
マリヤは嬉しそうにいうと、お茶を飲み干した。
「お茶はまだいるか?」
「はい、お願いします。ブラッド様」
そして、この後、二人は穏やかな二人だけのお茶会を開いて一日を過ごした――
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