第21話 『永遠』という薬
制限令が解除され、いつも通りの日常が戻ってきた基地内で、マリヤはもくもくと研究を続けていた。
そして、それをブラッドが眺めていた。
その視線に耐えきれず、マリヤは手を止める。
「……あ、あのブラッド様。そんなにじっと見つめられるとやりづらいんですが……」
「気にするな、続けろ」
「はぁ……」
ブラッドが邪悪に笑って言うと、マリヤは萎縮しながらうなづき、再び研究を再開した。
レポートに書き込んだ内容を、実践し、液体を混じり合わせフィルターをそこに浸していく。
そのフィルターを銃のような器具に取り付けて、ビーム状の光を空箱に照射すると、空箱が縮んだ。
「無機物は問題ない、あとは有機物……、それと戻す方法」
マリヤはぶつぶつ言いながらフィルターを外して液体の結晶化作業へと入っていく。
「ドクター・マリヤ」
「は、はい?! ブラッド様?!」
「この研究はいつ頃終わる?」
「寝ずにやれば明後日ごろですが、寝てやれば一週間後くらいかと……」
「寝てやれ」
「わ、わかりました……」
マリヤはそういうと、研究のほうに戻った。
ブラッドはしばらくそれを見つめた後に、姿を消した。
研究室には、研究に没頭するマリヤだけが残された。
マリヤの研究室から戻ったブラッドは自室に戻り、椅子に深く座りため息を吐いた。
「……あと、どれだけ続けられるか……」
そう言葉を吐き出すと同時に、レアが入ってきた。
「おい、どうしたそんな深刻そうな顔をして」
「連中が動いているのが解る、だからこそ後どれだけの時間真実を語らずに済むかを考えてるのだ」
ブラッドの言葉に、レアは納得した表情で頷いた。
「いずれ語らなければならないのは最初から解ってただろう」
「それはそうだが……こんな時臆病になって困る」
「ブラッド・クライムの総帥がそんな弱気でどうする」
珍しく気弱になっているブラッドを、レアは鼻で笑った。
「今までこんな感情になったことなどないのだ、仕方ないだろう」
「そうだな、貴様はいつも邪悪で高慢で、どうしようもない奴なのが基本だったからな」
「相変わらず言ってくれる」
ブラッドはようやく笑う、疲れたような笑いだった。
「まぁ、だめだった場合は私が貴様を殺してやるから安心しろ」
「そうだな、その時は今度こそ、殺してもらおうか、しくじるなよ」
「今度はしくじらないさ」
レアの不敵な笑みに、ブラッドはいつもの邪悪な笑顔で返す。
「ところで、町の方にいったか? もう復興ずみなのは知ってるだろうに、そろそろ見回りでもしたらどうだ?」
「見回りならしてる、私は行った場所ならどこでも見れるからな」
「そうだな、そうだったな」
ブラッドの言葉に、レアはただ頷いた。
「薬を使っている連中がいるようだ、ちょっと行ってこよう」
「ああ、待っているぞ」
ブラッドは立ち上がるとその場から姿を消した、後にはレアが残されたが、彼女はすぐさま部屋を後にし、部屋は静寂に包まれた。
ブラッドは町中の路地裏部分に来ていた。
漂う血のにおいに眉を潜める、そして足音を立てずに近づくと目を見開いた。
様々な肉塊が混じり合ったような化け物が、人をむさぼり食っていたからだ。
「た、助けて……!」
まだ被害にあってない女をかばいつつ、化け物を蹴り飛ばすと、ブラッドは即座にその場を女と離れた。
少し離れた人気のない場所につくと、女に問いただす。
「おい、アレは何だ! 何が起きた!!」
「さ、最近流行の『エターナル』っていう薬をグループのメンバーがやったと思ったら、急にあんな姿に……」
「薬を貴様は所持しているか?」
「こ、ここに」
「ではよこせ、それが貴様の命をすくった代金だ」
「わ、わかった」
女はそういうと、注射器をブラッドに渡して逃げていった。
ブラッドはそれを懐にしまうと、先ほどの場所に戻る。
化け物は屍を食い漁っていた。
「……どうやら事態は悪い方向ばかりにすすんでいるようだな!」
ブラッドはそういうと、鋭い爪で化け物の胸元をえぐる。
化け物は耳障りな悲鳴を上げて抵抗するが、ブラッドは気にせず化け物の心臓部をえぐり出し、握りつぶした。
握りつぶすと化け物はくたりと動かなくなり、やがてどろどろに溶けて跡形もなく、消えた。
「……レアに言わんといかんな」
ブラッドはそういうとその場から姿を消し、レアの自宅へと移動していた。
すでに帰宅していたレアが、面食らった顔で出迎えた。
「どうした、何があった?」
「連中が実験段階として薬と称してばらまいている、『不老不死』の実験としてな」
「何だと?」
ブラッドはレアに先ほどの薬を手渡した。
「『エターナル』というらしい、使った奴が出来損ないのような化け物に変貌していた」
「……解った成分を調べよう、それくらいなら私にも可能だ」
「頼んだ、くれぐれもマリヤを巻き込むな、あいつを巻き込んだらそれこそ何がおきるか解らない」
「ああ」
レアは薬をもって奥の部屋へと閉じこもった。
それを見送ると、ブラッドはすぐさま基地へと瞬間移動した。
基地では、マリヤが研究の一段落がついたようで、自室のソファーに横になっていた。
「はぁ……もう少しブラッド様のお役に立ちたいなぁ……」
「十分役に立っているぞ」
「あびゃあ?!」
マリヤは突然のブラッドの出現の驚き、ソファーにさらに身を沈めて、腰をぬかしているようだった。
「貴様はいつも通りだな、それが心地いい」
ブラッドは邪悪に笑って、マリヤの頬を撫でる。
「貴様は貴様の研究をつづけろ、そして私に貢献しつづけろ、それでいい」
「は、はい。ブラッド様」
マリヤは腰をぬかし、ソファーに身を沈めたまま返事をした。
「貢献できなくともかまわん、貴様がいればそれで十分だ、いいな」
「え……あ、は、はい……」
ブラッドの言葉に驚いた表情をしてマリヤはそのまま動けずにいた。
ブラッドはそれを楽しげに見る。
「今後も私を楽しませろ、ドクター・マリヤ」
「――はい、ブラッド様」
ブラッドはその言葉に満足そうに笑うと、部屋から姿を消した。
部屋にはソファーに横になったまま動けないマリヤが残された――
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