第12話 マリヤとブラッド


 某日、ブラッドの機嫌は悪かった。

 先日のマリヤ誘拐の件が原因だった。

「ぶ、ブラッド様、あのぉ…」

「何だ」

「そ、そんなにじっと見つめられると……ちょっと……」

 研究室で実験しているマリヤを、ブラッドは不機嫌な顔で見つめていた。

 マリヤはそれにおどおどしながら、自分の意見を言った。

 すると、ブラッドの顔はさらに不機嫌の色を濃くした。

「ひ! す、すみません!!」

「何いじめてるんだ貴様は」

 ごすっと鈍い音と鈍痛がブラッドを襲った。

 ブラッドが頭を押さえて振り向けば、そこにはレアが分厚い辞書を片手に立っていた。

「レア!! 貴様……!!」

「そんなに『私のマリヤ』という言葉が気に入らなかったのか」

「!!」

 ブラッドの顔がわずかにひきつった。

「正解か」

「当然だ……!!」

「よし、ちょっとこっちに来い」

 レアがむりくりブラッドを引きずって研究室を後にさせる。

「貴様、私が上司なの解ってて――」

 ブラッドは怒声をレアに浴びせたが、レアは我関せず引きずってブラッドの部屋へと移動させた。

 部屋の中に入るとようやくブラッドを解放し、レアは壁に背中をもたれさせた。

「さて、本人の前でだと色々アレだから来たが、お前いい加減その子どもじみた行動はやめろ」

「ぐっ……」

「彼女がお前に恋愛感情もってるかなんて解らんから何とも言えんが、お前の行動は非常にお子さまだ」

 レアは淡々と述べ続ける。

「嫉妬は丸出し、不機嫌も丸出し、子どもが好きな子をいじめるような――そこまではいかんが、それに近しい対応で驚かせ、行動も強引」

「ぐむむ……」

「恋愛にはさほど興味はなかったが、貴様のを見ていると不安で仕方ないぞ……」

 レアはそういうと、ブラッドの肩を叩いた。

「安心しろ、彼奴等はライバルにはなりはせんよ」

「何故そう言いきれる!?」

「マリヤが言い切ってた、向こうの色男共は苦手だと」

「は?」

「昔相当顔のいい男子にいじられたそうだ、それがきっかけで顔がいい男性は最初は苦手意識が多いそうだ、しかも前回の件もあってどうも苦手度合いが増してるらしい」

 レアのその言葉を聞くと、ブラッドは嬉しそうに邪悪に笑った。

「そうか、それならいい!」

「だから分かりやすすぎるのをどうにかしろ」

 レアはげんなりした表情でブラッドをみるが、ブラッドは気にしないかのように笑顔になっていた。

「今日は気分がいい! ちょっとヒーロー達と遊んできてやる」

 ブラッドの言葉にレアはため息をついて手を振った。

「行ってこい、精々私たちに迷惑をかけんようにな」

「解っている」

 ブラッドはそう言うと、自室から姿を消した。


「はははは!! 何だヒーローとはその程度か!!」

 ブラッドは高笑いしながら町の中でヒーロー達と壮絶な鬼ごっこを繰り広げていた。

 ヒーローたちの攻撃をかわし、いなし、避け続け、決して攻撃は自分から積極的に行うことはなかった。

 ヒーローたちの攻撃をうまいこと利用しながら、悪徳業者のビルに攻撃を加えさせたり、マフィアなどの裏の根城に攻撃させるなど、利用し続けた。

「ブラッドクライム! 貴様は何がしたいんだ!!」

「勿論世界征服だとも!! 安心しろ、貴様等が他の組織にかまけてくれてるおかげで大助かりだ!!」

「何だと?!」

「敵対組織は潰れ、気にくわない国家は崩壊、いやはや愉快愉快、これからも私を楽しませてくれよ、ヒーロー諸君!」

 その言葉がヒーローたちのしゃくに障ったのか、ヒーローたちは一斉にブラッドに攻撃を仕掛けた。

 ブラッドはにやりと笑い、取り出した杖で一瞬で攻撃を相殺し、かき消した。

「おお、怖い怖い。町中でやる攻撃ではないぞ」

 ブラッドはにやにやと笑った。

「しかし、そろそろ飽きてきた、ではお暇しようか」

 ブラッドはそういうとその場所から姿を消した。

 後には、悔しがるヒーローたちが残された。



 上機嫌でブラッドは基地に戻ってくると、ちょうどよくマリヤが出迎える形になっていた。

「あ……ぶ、ブラッド様。お、お帰りなさいませ……なんか、すごかったですね」

「当然だ、私を誰だと思っている」

「ぶ、ブラッド様です」

 いつも以上におどおどしているマリヤを見て、ブラッドは何かに気づいたのか、呆れの表情をみせて彼女の頭を軽く撫でる。

「安心しろ、攻撃当てさせた場所は全部悪徳業者や犯罪集団の根城だ、きにするな」

「ほ、本当ですか?」

「私が嘘をつくか?」

「い、いえ!」

 マリヤがぶんぶんと首を横に振るのをみて、ブラッドはにやりと笑った。

「だろう? わかったら余計な心配はするな」

 ブラッドはそう言うと、マリヤを引きずって自室へと向かった。

「ぶ、ブラッド様、私研究が――」

「研究は後回しでいい、どうせ煮詰まって休みにきたんだろう、私のお茶にでもつき合え」

「は、はい……」

 マリヤが何で解るんだろうという顔をすると、ブラッドはニヤリと笑った。

「貴様のことはよく見ているからな」

「は、はぁ……」

 その後、マリヤとブラッドは、ブラッドの部屋にてお茶会をすることになり、マリヤはそのおかげで煮詰まった頭をほぐし、お茶会後研究を再開することができた――





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