第28話 マリヤと昔の話


 基地のブラッドの部屋のつくと、ブラッドはマリヤをソファーに横たわらせた。

「お手数おかけし、申し訳ないです……」

「いや、気にするな」

 ブラッドは近くの椅子を引き寄せて、ソファーの近くに座る。

「……で、話とは」

「ブラッド様に関するお話です。だってあの薬は――」

「分かっている……さて、何から話そうか」

 ブラッドはマリヤの言葉を遮って息を吐いた。

「私以外誰もいなかった最初は――それが苦痛で眠っていたら私以外の生物が知的生物が存在していた、嬉しくてたまらなかったが――皆私より先に死んで、私だけがいつも取り残された」

「……ブラッド様」

 マリヤは何ともいえない視線をブラッドに向けた、ブラッドはそれにいつも見せることのない疲れた笑いを見せて返した。

「一人取り残される苦痛に耐えきれなくなった私は、眠り続けることを選んだ、死ねないのだ、それしか苦痛から逃げる術は無かった」

「眠り……続ける」

「そんな私を発見した愚か者共がいた、眠り続ける私を調べて私が『不老不死』の存在であると理解した、それを元に『不老不死』の研究を始めた――その中である事件が起きる」

「事件……?」

 ブラッドの言葉に眉を潜める。

「私の細胞から薬を作ったものはいい、不老不死に近いレベルまで細胞を固定化することも可能だった、だが、それは人体の変成を指し示していた」

「……ああの、もしかしてそれって、5年前の連続殺人事件ですか……?」

「そうだ、5年前の連続殺人事件――あれも今回のと同じものだった。それを解決――基対処したのがレアだった。レアは化け物になった者をすべて殺し、最初にして最期、元である私も殺そうとした」

「!!」

「……でも、できなかったのだ、その時は。殺し合っても殺しきれなかったのだ奴も私も。そして彼奴は私を監視するという名目で今までついていた、他の連中が二度と研究を再開できないようにな。まぁ残っていた細胞組織でなんとかしようとしたのがいたから意味は薄かったが……」

 ブラッドは自嘲する。

「奴といろいろやりとりしている中で、こんな世界を変えてしまいたいと思ってな、それでヴィランとしてこの組織を結成したわけだ。過激なことをやろうとすると毎回レアに締められたがな」

「……」

「そして5年後、研究者を探して才能を求めて見つけたのが貴様だ、ドクター・マリヤ」

「私……」

 ブラッドは静かに頷いた。

「初めてだった、これほど欲しいという欲求を得たのは。だからすぐさま行動した」

「あのときの……」

 マリヤは当時を思い返した――



 町工場にある個室に呼び出された。

 クビになるんじゃないかってびくびくして怯えながらいったら、身なりのいい男性と、白衣の女性がいた。

 白衣の女性には見覚えがあった、レア・ジャガーノート。

 5年前にあった殺人事件を解決したという医者だ。

 どうやって解決したのかはしらないし、報道されていないが、彼女によって殺戮者はこの世から消えて失せたと噂されている。

 隣の男性は見覚えがない。

「レア、この話を聞いてる者は?」

「社長に話して今日は全員休ませていただいている、だから私たちだけだ」

 信じられない言葉に驚いていると、ざっと男性の姿が人外の者に変化する。

 肌の色も、目つきもすべて人とは異なるが、人のような姿をしている。

 身なりも変わっていない。

「初めまして、マリヤ・ローズ、私はブラッド・クライム。君の社長にはブラッド・クラインで通させてもらったがね」

「……!」

 クラインというファミリーネーム、ブラッド・クラインという名前にマリヤは驚きを隠せなかった。

 大企業クライン社の創始者で若くして一代を築き上げた天才と、そう聞いているからだ。

 まさか、目の前の異形なる人物がそのクライン社の創始者の本性だとは夢にも思っていなかった。

「貴様はこの工場で力を持て余してる、そうだろう? 作りたい物も作れず、研究もできず、ただただ日々同じ物を作ることをしている」

「……!」

「日々同じ物を作ることが悪いことだとは言わない、だが君がやりたいことは違う、そうだろう?」

 女性――レアがブラッドをたしなめる用に補足した。

「だ、だと、し、したら、ど、どう、なんで、すか」

 日々言葉を紡ぐのも精一杯の中でマリヤは必死に言葉を紡いだ。

「貴様に貴様がやりたいことがやれる環境をくれてやろう」

「え……」

「ただし、やるとしてもクライン社という名目ではなく、私の組織ブラッド・クライムでだがな」

「マリヤ君、こいつはヴィランらしい行動はしてないが、ヴィランだ。断ってもいい」

「その際貴様の記憶を此処で消していくがな」

「ブラッド」

 マリヤは少しの間無言になった。

 此処にいてもやりたいことはできない、それならばいっそ――

「入ります、私のやりたいことをやらせて下さい」

 研究がしたい、新しい物を作りたい、知識を深めていきたい。

 そう考えた結果マリヤは答えを出した。

「――よろしい、では貴様は今日からブラッド・クライムの組織の一員だ!」

「表向きにはクライン社の研究員となる、そう他には誤魔化してくれ」

「は、はい……あ、退職届け……」

「社長に言ってある、もし返答でイエスだったら連れて行ってやってほしいと、此処は彼女には狭すぎると、な」

「社長……」

 マリヤは自分を雇い、またこのわがままを肯定してくれた雇い主に感謝した。

「今週中に荷物などを持ち出しておけ」

「ブラッド、無茶を言うなよ。マリヤ君、引き継ぎとかはしっかりしてからこちらへおいで。また何かあったらすぐ私に相談するといい」

 レアはそう言って自分の名刺をマリヤに渡した。

「レアさん……」

「基地は私の屋敷の下にある、まだ小さいが貴様は建築建造にも知識があると聞いている、期待しているぞ!」

「……はい」

 期待されるのは怖かったが、同時に、やりたい事柄すべてがやれる喜びにマリヤは心を浸されていた――



「――あの時、余裕そうに見えてましたが……」

「見かけはな、内心は冷や汗が止まらなかったぞ、断られたらどうしようと」

 ブラッドの言葉に、マリヤの表情が和らぐ。

「だから、貴様の言葉に心から安堵したのだ、断られなくてよかったと」

 ブラッドも当時を思いだし安堵のため息を吐いた。

「そして今、貴様に答えを求めたい」

「答え?」

「私は貴様を――」


「愛している――」






 

 

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