第7話 科学者休息

 某日、ブラッドは自室で暇そうにしていた。

「レア、何か面白いことはないか?」

「あるかそんなもの、なんなら独裁国家でも潰してこい」

「それはもうやった」

「やったのか……」

 ブラッドの台詞にレアは呆れたような言葉を吐き出した。

「世界征服活動してないと思ったら、わりとしてたのか」

「当然だろう、マリヤの目の届く範囲ではやらんがな」

「過保護だな、だがわかる」

「だろう?」

 ブラッドが当然そうな顔、かつ自慢げな顔をすると、レアは呆れのため息をついた。

 だが、ブラッドの自慢げな顔はすぐさま、不満げな顔に戻った。

「何より、マリヤが足りん」

「ぶっちゃけたなお前」

「足りんものは足りんのだ」

 不満そうにいうブラッドに、再度レアは呆れの言葉を口にした。

「実家にかえって療養してるんだ、もうしばらくかえってこないだろう」

「なんだと、私は退屈で死にそうだというのに!!」

「お前療養を何だと思ってる」

「ええい、仕方ない、ヒーローからかって遊んでくるぞ!!」

 ブラッドは忌々しそうに言うと、部屋から出て行った。

 その日から、連日のようにブラッドがヒーローにちょっかいを出して大騒動を引き起こしては帰ってくると言うのが繰り返し行われるようになった。


 ――数週間が経過し、ブラッドはいらだったような顔をみせていた。

「まだか、マリヤはまだか」

「お前はガキか? 療養してると言っただろうが」

 レアは呆れのため息をついた。

「療養なんだからそうそう帰っては――ん?」

 部屋のランプが青くともった。

 三つあるランプのうち一つだ。

「よかったなお前がお待ちかねの――」

「ようやく戻ってきたか!!」

 ランプを見るなり、ブラッドは邪悪ないつもの笑顔になり、部屋から飛び出した。

 瞬間移動するのも忘れ、ずかずかと早歩きで移動していく。

 そしてマリヤの部屋の前につくと、ノックもせずに部屋をあけた。

「あ……そ、そのブラッド様。ただいま戻りました」

 いつもと変わらぬおどおどした調子で、マリヤはブラッドに挨拶した。

 その様子をみてブラッドは邪悪に笑って、彼女の頬を摘む。

「相変わらずではないか!! 療養してきたのではないのか?」

「だ、だってブラッド様がニュース沙汰になるの見ると、落ち着いてられなくて……なので戻ってきました」

「何だと」

 マリヤの言葉に、ブラッドは苦虫を噛み潰したかのような顔になる。

「しまった、ストレス発散があだとなったか……」

「ぶ、ブラッド様?」

「いや、何。気にするな」

 ブラッドの声は完全には届いていなかったようだった。

 それに対してブラッドは安堵の息を吐く。

「それはいい、さて今日はともかく休め。いきなり働くのはきついだろう」

「は、はい……では、お言葉に甘えて……」

 マリヤはそういうと部屋を出て行った。

 それに対して、ブラッドは疑問を持ち首をひねった。

 ブラッドは姿を消してマリヤの後を追った。



「フミちゃん――」

 屋敷内で、マリヤがフミを呼ぶと、フミはふみゃーと鳴いてマリヤに駆け寄ってきた、そしててちてちと、手で、マリヤの足をたたく。

「ごめんねー、しばらく会ってなくて」

 マリヤはそう言うと、フミを抱き抱えてソファーに座る。

 フミを自分の膝の上に乗せて撫でると、フミは満足そうにゴロゴロのどを鳴らした。

「フミちゃん、よしよし……」

「――何だ、猫か」

「あんぎゃあ?!」

 マリヤが奇声を上げると、フミも一瞬びくっとしたが、逃げることはなく、マリヤのズボンにがしっと爪をたてて掴まるだけだった。

「ぶ、ブラッド様。び、びっくりしました」

「貴様本当に、動作が決まってるな」

「だ、誰だって驚きますよ!!」

 マリヤが少し泣きそうな顔で抗議すると、ブラッドは少し不満そうな顔をした。

「……レアは驚かんぞ」

「レア先生は別格なんですよ、色々とっ」

 マリヤが再度抗議すると、ブラッドはむすーっとした顔のまま、マリヤの隣にどかっと座った。

「貴様、休むといってたのに、猫の所に行くのか」

「ふ、フミちゃんとは療養中あえなかったので、その分遊んであげようかなって……」

「答えになってない答えをよこすな」

「あ、あう……その、猫好きなので、こうしてここで一緒にいれるのが何よりの休息なんです……」

「……そうか……」

 ブラッドは少し不満そうな顔を、なんとかいつもの顔に戻そうとしていた。

 だが、うまくいってはいなかった。

 マリヤはそんなブラッドの様子に違和感を感じたのか、いつも通りの恐縮した状態で口を開いた。

「あ、あの、ブラッド様……何か、怒ってらっしゃいますか……?」

「――いいや、特に何も」

「そ、そうですか……」

 マリヤは何とも言えない表情のままだった。

「あ、あの、ブラッド様がフミちゃんのお世話をして下さってたんですか……?」

「……一応な、レアもやっていたが、この屋敷の所有者は私だ。私が面倒をみないわけにはいかないだろう」

「あ、ありがとう、ござい、ます……」

 マリヤがフミを撫でたまま、そういうと、ブラッドは少しだけ機嫌をよくした。

 表情も少しだけ柔らかくなる。

「――とうぜんだ」

「でも、嬉しいです。ブラッド様、フミちゃんのこと猫としか呼ばないから、実はあんまり気に入ってないのかなって……」

「気に入ってないというわけではない、その――いや、何でもない、気にするな」

「は、はぁ……」

 マリヤはそう言うと、ブラッドをじっと見つめ始めた。

「あの、ブラッド様……そ、その……」

「なんだ?」

 少し挙動不審になるマリヤに、ブラッドは疑問を感じながら問いかけた。

「あの、ふ、フミちゃん膝においてくださいませんか?」

「……かまわんが……」

 マリヤからフミを受け取り、膝におくと、マリヤは何か感動したような顔をした。

「……どうした?」

 ブラッドはそれを奇妙に感じて問いかける。

「悪役とか、悪の組織の親玉っぽい……!!」

 マリヤの一言にブラッドはずるっと体勢を崩した。

「~~ドクター・マリヤ。それはどういう事だ?!」

 思わず、少しだけ声を荒げて問いただすと、マリヤはぴゃっと悲鳴をあげて、頭を抱えた。

「そ、その。ブラッド様、ヴィランなのに、私にとっては本当、いいお方すぎるからヴィランとかそういうお方に見えなくて……」

 マリヤの答えに、少しだけブラッドは間の抜けた表情になるが、すぐに不機嫌そうな顔を張り付けた。

「……全く、そういう意味か。勘違いして損をしたぞ」

「え?」

「ええい、気にするな。そういう意味ならいいという事だ」

 ブラッドはそう言うと、マリヤの膝にフミを移動させた。

 フミはマリヤの膝の上がいいのか、再びゴロゴロと鳴き始めた。

「この猫、いい度胸してるな」

「わわ……あんまり怒らないでください、猫なんですから、フミちゃんは猫なんですから」

「ぐむむ……わかった」

 ブラッドはそう言ってから、座り直してマリヤを抱き寄せる。

「ぶ、ブラッド様?」

「貴様がいなくて退屈だったのだ、つまらん日々だ、だから私も貴様を補給する。しゃくだが、その猫と同じようにな」

 ブラッドは不機嫌な顔を張り付けたまま言った。

「……はい、ブラッド様」

 そんなブラッドを見て、マリヤは淡く微笑んだ。

 マリヤの笑みを見て、ようやく機嫌がよくなったのか、普段の笑みを表に出して、機嫌良さげにそのまま座っていた。

 珍しく、二人そろって穏やかに休日を過ごした――





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