第3話 とある休日に
ブラッドは、その日マリヤをつれて町を散策していた。
姿をごまかしているのか、誰もブラッドに気を止める人物はいなかった。
「ぶ、ブラッド様。なんで今日は町に……」
「貴様が毎日引きこもってるからだ、ありがたく思えよ?」
「ひ、ひぃい……」
邪悪な笑みを向けられれば、マリヤはひきつった顔を浮かべ、情けない悲鳴を上げた。
マリヤはずるずるとブラッドに引きずられながら町を散歩させられている状態になっていた。
ある意味目立つはずだが、誰も気にとめていなかった。
とある喫茶店の前に止まると、ブラッドは漸く立ち止まり、店内へとマリヤを引きずって入っていく。
心地よい音楽が流れる店内は、アンティーク系の装飾で彩られており、落ち着いた雰囲気をかもしだしていた。
奥のテーブルにマリヤを座らせてから、ブラッドも座ると、メニューを開いた。
少しみつめてから、ブラッドはメニューをマリヤに差しだした。
「私は選んだ、貴様も選べ」
「あうう……」
マリヤはしょげた表情を浮かべていたが、メニューを見ると目を見開いた。
「た、高い……!!」
「気にするな、好きなものを選べ」
困惑するマリヤに、ブラッドは邪悪な微笑みを向ける。
「あうう……」
目を白黒させながら選ぶマリヤを、ブラッドはおもしろそうに見つめながら、ウェイターが持ってきた水を口にした。
「えっと……じゃあキャラメルワッフルと紅茶で……」
「もっと健康的なのを選べばいいものを……まぁいいか」
ブラッドは少しつまらなそうな顔をしてから、ウェイターを呼び、注文をすると、ウェイターは丁寧な対応を行い、戻っていった。
「全く、貴様は放置すると本当に不健康まっしぐらだな」
「す、すみません」
「作れとは言っているが、体を壊してまでつくれとはいってはいない、無理はするな」
「は、はい……」
ブラッドの言葉に、マリヤは申し訳なさそうに体を縮こまらせる。
「……全く、貴様は臆病――いや、これは病気も関係しているとレアが言っていたな、無理につつくとあいつに私が半殺しにされる、これ以上は避けておこう」
「――あの、ブラッド様と、レア先生……どういう仲なんですか……?? とても……普通のその、組織とかの参謀と長みたくは見えません……」
マリヤは徐々に声を小さくしながらも、ブラッドに問いかけた。
その問いかけにブラッドは、少し真顔になってから、元の邪悪な笑みを浮かべて、両手で顎を支えるような体勢になって、マリヤを見つめる。
「――殺し合った仲だ」
「ころしあった……え、えぇ?!」
「やかましいぞ」
「あべし!」
ブラッドは声を上げそうになったマリヤの頭にチョップを食らわし、別の声を上げさせた。
「うう……痛い……」
「変な声を出すからだ」
「だって殺し合ったって……」
「昔の話だ、昔の」
邪悪な笑みを浮かべつつ、ブラッドはそう返した。
うろたえる、マリヤの反応をおもしろいものでもみるかのように眺めながら。
「お待たせいたしました」
そう話していると、ウェイターが頼んだ料理を運んできた。
ブラッドにミルクと砂糖がついたコーヒーと、エッグベネディクト。
マリヤに砂糖とミルクがついた紅茶と、キャラメルワッフルを。
マリヤは早速砂糖とミルクを紅茶にいれて、混ぜて飲んだ。
「……ちょっと苦い」
「甘党か貴様は。ほれ、砂糖はまだあるだろう、いれるといい」
「あい」
砂糖が入った小さな器から砂糖を取り出し、トポンといれた。
そして再度かき混ぜ、マリヤは紅茶を飲んだ。
「ふへー……」
「貴様、見ててあきんな」
それを見て、ニヤニヤとするブラッドを見て、マリヤは何故か申し訳なさそうに身を縮めた。
「なぜ申し訳なさそうにする、もっと堂々と――いや、それでは面白味
が少ないか」
ブラッドはそういって、エッグベネディクトを切ってから、一切れ口にする。
断面からは半熟の卵がとろりととけ、よくパンの香りと相まって非常に美味しそうにマリヤには見えた。
「美味しそう……」
「なら貴様も頼めばいいだろう」
「いえ……その美味しそうにはみえるんですが……私半熟の卵とか苦手で」
「本当、変わってるな。苦手なものを美味しそうとは」
「あうう……」
ブラッドの言葉に、マリヤはまた少し身を縮こまらせる。
「――外で部下いじめとは大層な趣味の持ち主だな」
「……なんだ貴様は……?!」
突然の異質な言葉に、ブラッドが少し離れた隣をみる。
そこには黒服の、整った容姿の男性がいた。
「貴様……ここでも私の楽しみの邪魔をするのか……」
ブラッドは男に対していらだったような顔を見せる。
「私をここで潰すのか」
「――悪いが今は部下がいるし、そんな時間ではない。それに貴様とつぶし合ってもつまらん」
「そうか――」
男はブラッドの言葉を聞いてからマリヤに視線を向ける。
視線を向けられたマリヤは、男を見るとびくっとして、着ていた服のフードで顔を隠してしまった。
「……ふ、では失礼しよう」
男はカードで会計をすませると、そのまま店から出ていった。
「――おい、マリヤ。もういないぞ」
「ほ、本当ですか……?」
マリヤはおそるおそるフードを上げて視野を確認すると、安心したようなため息をついた。
「よかったぁ……」
「珍しいな、貴様がそこまで苦手意識を持つとは」
「その……きれいな人とかかっこいい人は……私をいじめてきたことがあるので苦手で……レア先生は両方だけど、私をいじめないので平気ですが……」
「ふ……ふふ、そう――まて、それでは私がかっこわるいことになるではないか……!!」
マリヤの言葉に、何かに気づいたブラッドが不機嫌そうなまなざしを彼女に向ける。
「ひっ……その、ブラッド様は人間的じゃないので……」
「……そういうことにしておいてやる……」
「ひぇぇ……」
不機嫌丸出しのブラッドだったが、食事が遅いマリヤが全て食べ終わるまで待ち、落ち着いてから会計をして店をでた。
「ブラッド様~……なんかすみません……」
「いちいち謝るな馬鹿者が」
再度マリヤをずりずりと引きずりながらブラッドは町を歩いて基地のある場所へと戻ってきた。
カモフラージュの屋敷に入り、地下施設へと向かう。
「貴様はもう少し日を浴びろ、いいな」
「は、はい……」
ブラッドはそういうと、研究室まで引きずって移動した。
「ところで頼んでいた物はいつ頃出来そうだ」
「あ、もう出来てます」
「貴様……仕事が早いのは誉めるがその早さの一部を日の光を当てるなり、散歩するなりに置き換えろ!! いいな!!」
「は、はひ!!」
「叱り方には問題はあるが、ブラッドの言うとおりだぞ、マリヤ」
「レア先生……」
二人が帰ってきたのを察知したのか、研究室に入ってきたレアはマリヤを見て言う。
「人はほとんどが日の光を浴びねば骨などがもろくなる生き物だ、外にでるのはつらいかもしれんが、少しでも出ることを私は勧める」
「は、はい……」
「それとブラッド、お前もいいところがあるな。町に出すのは微妙なラインだが、外出させたのはいいことだからな」
「フン、部下が体を壊すのをみているだけではないのだ、私はな」
「それはいい」
レアに言われて少し機嫌をよくしたのか、ブラッドはそのまま研究室を出て行った。
「あ、あのレア先生……」
「何だマリヤ」
「レア先生とブラッド様、殺し合った仲とブラッド様が聞いたんですが……本当なのですか?」
「ああ――間違ってはいない、合ってるな。だが詳しい話はちょっと今はできない、すまないな」
「は、はい……では、どうしてレア先生はブラッド様のいるここに所属しているんですか?」
「あいつはヴィランだが、やたらめったら人を傷つける行為はしない、他のヴィランはそうはいかない。ヒーローでも一般人をけがさせかねない時もあいつは決してさせない。そこを見込んで仲間になってやった――まぁ、他にもあるがそれは別の機会にな」
レアの言葉に、マリヤは何とも言えない表情を浮かべたまま頷いた。
「さて、休日だからゆっくり休ませてもらうとするか、君も研究ばかりせず少しは休むといい。休養は大事だ」
「……はい」
「それならいい」
レアはそういうと部屋を後にした。
一人きりになった部屋で、マリヤはため息をつく。
「……ああ、ブラッド様怒らせてしまった……レア先生いなかったらどうなってたんだろう……クビかな……怖いな……」
「誰がクビにするか」
「あびゃあ?!」
一人だった部屋に、いきなり上司が戻ってきたため、マリヤは変な声をあげて飛び上がりそのまま尻餅をついた。
「……ふ、ふははは!! 本当に貴様は愉快だな!!」
「……うう」
尻餅をついて尻をさすっているマリヤの手を握り立ち上がらせる。
「クビにする気はないから安心して働け、まぁレアが言っていた通り今日は休日だからな。休むのがいいだろう、というか休め、貴様は働きすぎだ」
ブラッドがマリヤを軽く睨むと、再度彼女は飛び上がった。
「わ、わかりましたー!!」
そのまま研究室からでていった。
「……本当に、見ていてあきんなあの女は。だがよかった、あの男にとられる心配はなさそうだ!!」
ブラッドは愉快そうに笑ってその場から姿を消した。
研究室はその日一日静寂に包まれることになった――
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