第26話 マリヤと災厄日

 マリヤが特効薬を開発してからも、あのドラッグが蔓延するのは止まらなかった。

 しかし、特効薬がある分、被害が減少はしたが、相変わらず続く事件にブラッドは苛立っていた。

「があああ!! なぜ人間は!! 不老不死なんかほしがる!! 不老は分からんでもないが不死はよけいだろうが!!」

 自室で怒りの声を上げるブラッドを見て、レアは深い息を吐く。

「皆死ぬのが怖いのさ。死ぬのが怖い一方で、生きるのも怖い、それが人間だ」

「矛盾は構わんが、不死は余計だ本当に……」

「不老不死の怪物が言うと言葉重いな」

「怪物は余計だ」

 レアの言葉に、ブラッドは食ってかかる。

 レアは肩をすくめて、ブラッドをなだめる。

「怪物は言い過ぎた。バカ男だ」

「バカ男も余計だ!」

「そうだな、そもそも男という概念からも外れているかもしれない輩だしな」

「……もういい」

 レアの言葉に疲れたのか、ブラッドは肩を落として疲れたように息を吐いた。

 疲れた姿のまま椅子に座ると、またため息をつく。

「あんまりため息をつくと幸せが逃げるぞ」

「誰のせいだと思っている……」

 いつもと調子の変わらぬレアに、翻弄されブラッドは何度めかのため息をついた。

「ところで、いつマリヤには言うんだ?」

「……まだ言えない」

 ブラッドはそう言って机に顔をつっぷした。

「今まで直接『貴様に恋愛感情抱いてる』なんて行ったこともなければ、自分のチート性能の中に『不老不死』も含まれてるなんて喋ったことがないのにどうやって言えばいいんだ」

「私に聞くな」

 いつもと違う状態のブラッドを見て、レアも息を吐いた。

「でも、いつかはいわねばなるまい。いつまでも伏せているというのは

不可能だろう」

「ああ、そうだ、不可能に近い。ごまかしてもいつかはボロがでる」

 ブラッドはそう言ってレアを見る。

「だが、私はマリヤからの拒絶が恐ろしい」

「……私は拒絶しないと思うがな」

「ならよいのだが……」

 ブラッドは再度机に突っ伏してぐったりとうなだれる。

「……そう言えばマリヤは? 基地内にはいないが?」

「ジョシュア氏に呼び出されたから学院にいっているはずさ、私が見送りをした――」

「今すぐテレビをつけろ!」

「何だ、一体」

 レアはいぶかしげになりながらもテレビをつけてた。

『先ほど――学院にて爆破テロが発生しました、テロリストは未だ中にいる――』

「?!」

 ニュースをみたレアの目が見開かれる。

「奴らはこれが狙いだったのだ!! マリヤはまだ――無事だ、今すぐ助けにいくぞ!!」

「待て、貴様が狙われ――」

「構わん、マリヤが無事ならそれでいい」

「――分かった私も行こう」

「助かる」

 レアがブラッドの手を掴むと、二人はその場から姿を消した。

 そしてその直後、二人は学院前に姿を表した。

 爆破された証拠である煙があがっている。

「マリヤを探すぞ!」

「分かっている!」

 二人は混乱に満ちた校内へと入っていった。


 二人がまず向かったのはジョシュア氏の研究室だった。

 研究室に向かうまでに、銃をもったテロリストらしき輩が二人に向かってきたが、二人は銃弾をものともせず、そのままテロリストをたたき伏せては縛り上げ、その場に放置した。

 研究室前はめちゃくちゃに荒らされており、内部も荒らされている事が予想できた。

 レアは注意しながら扉を開け放ち飛び込むが、銃弾が飛んでくることはなかった。

「おお……きてくれたのかね」

 その代わり、荒れた研究室から少し弱々しい老人の声が耳に飛び込んできた。

「ジョシュア氏、何があったのです!」

「いたたた……不肖の弟子がついにおお阿呆をやらかしたよ、彼らは今度こそ薬を完成させて『不老不死』を成就させようとたくらんでマリヤ君を……いちちち」

「おい、爺! マリヤは無事なのか!?」

「連中はマリヤ君に手出しできないよ……マリヤ君の頭脳を使うために……でも君の影響で催眠術とか洗脳とかも効かないだろうし……」

「ち……施していたのが悪くでないといいのだが……」

「連れ去られたのはいつ頃ですか?」

 レアはジョシュアに治療を施しながら尋ねる。

「ついさっきだよ……君たちと入れ違いに……」

「少し遅かったか……!」

「どこにいるかは分かってる、私はいくぞ!」

「おい、待て!」

 怒りを露わにしているブラッドの肩をつかみ、レアは彼を止める。

「なぜだ! マリヤが危険な目にあっていたらどうする!」

「それができないように、細工を施したのはおまえだろう!」

「それでもだ!」

「なら落ち着け! 貴様はブラッド・クライムの総帥だろうが! 上に立つ者がそうやって落ち着きをなくしてどうする!」

 レアの言葉に、ブラッドは最初噛みつかんばかりの顔をしたが、やがて普段の顔に戻り落ち着きを取り戻す。

「すまん……マリヤを心配するのは貴様も同じだったな」

「当たり前だ、患者を守るのが医者の仕事だ」

 レアはそういってジョシュアの治療に戻り、治療が終わると立ち上がりブラッドを見据える。

「私の患者に手をだした罪はその身で償ってもらおう、それが相応しい」

「貴様もたいがい冷静でなかったな」

「冷静でいようとする努力はしているのさ」

 レアはいつもと変わらぬ仏頂面で返すと、ジョシュアを椅子に座らせた。

「テロリスト共は――」

「それくらいならなんとかなる。だからいっていただけませんか。マリヤくんを、私のかわいい弟子を助けてやって下さい」

「分かっています、では行こう」

「ああ」

 レアはブラッドの肩を掴む、すると二人は再びその場所から姿を消した。

「お二人とも、お願いします……」

 ジョシュアはそう言うと、その場に倒れ込んだ――






 

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