滔々とした語り口から、確かに伝わる命の重み。

穏やかな人柄と、まるで読者へ話しかけるかのごとく徹底的に寄り添った男性の一人称が、非常に心地よいです。

昨今、一人称とは名ばかりの平易な変哲のない文章が多い中、きちんとキャラクターの個性を押し出し、一人称ならではの口調を意識しているのが伝わります。

回想形式で妻との思い出を振り返り、過去から未来へと受け継がれる志・家族の絆(それは人間らしく生きる上での「思い遣り」とか「業」のようなものか)を切々と謳い上げるさまは、さながら一片の詩のよう。



ただ一点(差し出がましい批評ではありますが)、尺の全てが回想なので、設定説明ばりに過去の経緯だけで話が埋まってしまっている印象もありました。
過去を踏まえ、これからどうなるのかを書いてこそ「物語」だと思うので、お孫さんを連れて来る結末も書いて欲しかったです。そこを加味して☆2としました。

……というお馬鹿の戯言はともかく。
着眼点、筆力、タイトル回収の手際など、頭ひとつ抜けているのは間違いありません。

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