第10話 一人ぼっちのレジスタンス⑤

 「ジョン! ジョン! ジョン!! おがえりなざいっ!!」


 「待ちなさい! 私はもうジョンじゃないからっ!」


 ジョンはもう、頭の奥に戻った。喋りかけても出て来ない。どうやら、私の身体を使えば、ジョンの方も疲れるらしい。

 今いるのは、ただのエリザベスだ。


 (私だって疲れたのにっ。さっさとで引っ込んじゃって……!)


 このむさ苦しいのを、一人で相手しなきゃいけないのか。

 こちとら、初対面なんだぞ。


 「ああもう、取り敢えず落ち着きなさいっ。良い、私はジョンじゃないわ。エリザベスよ!」


 「いいや、ジョンだ! 僕には理解る!」


 何も分かってない。

 こちとら、こんなのに抱きつかれ続けるのは、流石にもう嫌なんだ。いや、別に男に抱きつかれるのが嫌いとかじゃあなくて。ただ、下水ごと身体を擦り付けられるのが、正直遠慮願いたいワケだ。


 (まあ、コッチも下水まみれだから。今更気にしても仕方ないんだろうけどね)


 ただ、嫌なモノは嫌だから。


 「そろそろ、いい加減にしなさいっ!」


 ゴン!! いい音がなる。頭突きが決まった音だ。勿論ボルトの頭で。


 「へぐっ」


 変な声を上げて、マックスとやらは下水に沈んだ。




 「ようこそ。レジスタンス”翡翠の鐘”へ。エリザベス」


 居直したマックスに、丁寧に挨拶される。

 戦いの疲れとか、張り詰めていたものも有ったのだろう。あれから、小一時間マックスは眠り続けて。其れから、やっとこさ隠れ家に案内された。片付けられては居るけど、雑多な部屋である。


 「翡翠の鐘ね。ダサいから変えた方が良いわ」


 「酷いっ!」


 アンさんが付けた名前なのに……。なんて言われても、エリザベスはそのアンとやらも知らない。


 『結成時のメンバーの一人だ。みんなから慕われていた』


 (あら。起きたのね、ジョン)


 ジョンが起きたのなら、話し合いも楽になる。

 どうでもいい名前なんて置いておいて、話を進めよう。


 「其れで、翡翠の鐘とやらは何をするための組織なの?」


 そう聞くと、マックスは意外そうな表情をして。


 「其れも知らなかったんだ。ジョンは教えてくれなかったのかい?」


 そう、言ってくる。


 「あんまり長いこと会話すると、頭痛が酷くなるから止めてもらったのよ――」


 ――良いから続けて。そう、私は急かして。


 「なるほどね。翡翠の鐘は、元は政治党だったんだ。でも、今の政権を握る奴らに、潰された。だから、そのままレジスタンスとして立ち上がったのさ」


 ふむ。まあ、そんなところだろう。レジスタンスなんて過激な組織、いきなり結成する方も可怪しいものだ。


 (翡翠の鐘も、その党の名前だったのでしょうね)


 それも、どうでも良い話だけれど。


 「僕らが求めたのは――平等だ」


 マックスが、遠い目をする。


 「産業革命以降、この国は明確な階層構造を持つようになった。プロレタリアートの子は、プロレタリアートになるしか無い。生産階級は、常に一部の富裕層が独占してる。それに、圧倒的な男性優位社会だ。例えば、女性の政治家なんて一人二人だけしかいないんだ」


 ふうん。エリザベスは、軽く鼻を鳴らして。


 「でも、そんなのは当たり前じゃない? 今のところの資本主義じゃ、どうするって手を打つのも難しいでしょ?」


 少なくとも、この国の法規で縛られている内容じゃない。平等を謳った連中は、過去にだって居るし、そういう法だって過去に作られた。其れでも、こんな具合になっているってことは……


 (現段階じゃ、社会が其処まで成熟していない。そういうことでしょ?)


 そう、耳障りの良いことを言うだけなら、誰にだって出来るけど。

 すると、左の頭がぴりっ、と震えて。


 『そうだ。お前が言うことは正しい。だから――俺たちも政権を取ろうとか、そういうために行動するワケじゃなかった』


 「僕たちは、明確な違憲・・を、立証しようとしたのです」


 違憲。穏やかじゃない言葉。今の政権を取っている連中が、何をしたっていうのか――




 「彼らは、明確な階層社会カーストの作成をしました。出自で、受けられる職が決まる。其れに、大学アカデミーなんかも、上流だけのモノにされた」


 大学……だって!? じゃあ、私が落ちたのはっ。


 「そして、翡翠の鐘の結成メンバーは殆ど、上流の人間です。だから、そういう行いが有ったことは、ほぼ確定している」


 僕は上流じゃ無いですけどね。そう、マックスは付け足して。


 「僕は、嫌なんです。困難になるのは構わないけれど、生まれのせいで、機会すら与えられないのはっ!」


 珍しく、マックスが怒気を上げて。


 「だから、一緒に戦ってください――エリザベスさん……」


 そうやって、真っ直ぐ此方を見たまま、手を差し出してきたから。




 「――勿論よ。私だって、そんなの許せないわ」


 そう言って、手を取った。

 だってそんなのが無きゃ、私は大学アカデミーに行けて、弁護士になってうはうはだったんだから! 許せるワケがない!


 『いや。あの感じじゃあ、普通に受かってるか怪しかったな』


 いいからお前は黙っててくれ。

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ボルト頭の少女の中で! 大和ミズン @MizunYamato

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