第二章 一人ぼっちのレジスタンス
第6話 一人ぼっちのレジスタンス①
『あらましを説明してやろう。生前、俺はある組織で、そこそこの立場にいた。だから、そのメモリーの残る記憶補助装置を狙う輩がいる。理解ったか?』
「待って。……全然理解らない」
エリザベスは、貧民街の細道を歩んでいた。
自宅には戻らない。自宅に戻れば、敵の網に掛かると、ジョンが言ったから。敵が何なのかも、未だ良く知らないのに。
「取り敢えず、順番に説明して。ある組織って何?」
先ずは、順番に整理しようと思う。
何事も、情報を知らなきゃ始まらない。自分なりにそう思って、問いかけたのに。
『そうだな……。悪を倒す、正義の味方って言ったところだな』
此方は、真面目に聞いているんだ。茶化されて、気持ちが言い訳が無い――。
「真面目に答えて。そんな子供じみた答えをされても、何も解決しないじゃない」
別に責めるワケじゃな無かった。でも、悲しそうにな声で――
『子供じみた――か。俺達はさ、本当に其れが正義だと思っていたんだよ――』
そんな事を言うんだ。止めてほしい。顔なんて見えないのに、眼を伏せる様が見えるみたいだから。
「ごめん。でもさ、もうちょっとちゃんと教えて欲しいよ。私はもう、当事者なんだよ」
申し訳無さが先に立ってしまった。
だけれど、中途半端に誤魔化されたくない。
「お願い、ジョン……」
素直に、頼む。
様子を伺ったり出来ない相手。だからこそ真摯な気持ちで、口に出すことが出来たから。
『分かった。済まないな――』
ほら、そうやって頼めば、彼だって答えてくれた。
ジョン・ドゥは意地悪な人じゃ無いんだ。少なくとも、エリザベスはそう思う。だって、彼は助けてくれたから。私の事を――
『だが其れでも。大して説明出来るわけじゃないのは、先に言っておく。どうにも、記憶に靄が掛かっている。君の脳への同期が、完璧では無いからだとは思うが』
ジョンが、先に釈明した。そういう事なら仕方無いから。素直に信じた事にして、続きを聞く。
『俺がいたのは、反政府組織だ。レジスタンスだ。――詰まり、敵対するのは国家権力って奴だよ』
さらり。ジョンは言った。さも簡単な風に。
でも、簡単に言わざるを得ないんだろうとは、エリザベスも思う。名無しの彼も、今となっては自分の境遇を完璧に理解できているワケでは無さそうだもの――。
『この
「――事情は、解ったわ」
彼の言い分を聞いて、エリザベスはある程度納得した。
自分が追われるだろう、理由に付いて。まともな日常に居られなくなった原因に付いて――
「其れで、改めて質問するね」
だから。エリザベスは、身の境遇を受け入れた。仕方ないと思った。意外と、流されやすい気性なんだ、これ以上の質問を、思い浮かばせるだけで難しいから。質問を一つ。
「貴方は、今でも戦いたいの――?」
彼がレジスタンスで在ったというのなら。何かしらの理想を持っていたワケだ。
だからエリザベスは気になるのだ。
「――貴方は記憶だけの存在になった今でも、その理想と添い遂げる覚悟を持っているの?」
彼もまた、状況に流されるだけなのか。耐えて耐えて、その先に目指すものも無いまま生きたいのか。
彼の返答は――
『――俺の知る俺は、常に戦士だった。俺は、戦士である自分は嫌いでは無かったよ』
ああ、そういう事なら。
「分かった。ありがとう」
自分も、流されているだけじゃあ、居心地が悪い。
「だから言っておくわ。私は、巻き込まれたんじゃ無い。――自分の意志で違法なギアに手を出して、其れがために戦うの」
クスリ。そんな音が、頭の内に聞こえた気がする。
「其れで、此れからどうする?」
エリザベスが聞いた。
ずっと歩いているだけの道は、人通りも有る。滑稽に見える彼女の姿を、笑う人間がいないのは。この辺りの現状が反映されていると言って良いだろう。
『君に行く宛が無いと言うのなら、まあ俺のツテを頼るしか無いが……』
何処か、バツが悪そうな声色。
『……スラムの外れに、昔に使っていた隠れ家がある。先に言っておくが、かなり酷い』
場合によっては、俺が知っている状況よりも更に。
ああ、私が女だから。気を使っているんだ。でも――
「――スラム育ちを舐めちゃいけないわ。良いから案内しなさい」
そう一蹴してやって。
分かったと言ったジョンの声を聞きながら、隠れ家とやらに向かった。
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