物語は輝男という一人の天才科学者が、優秀だけれど危険な発明をする人々が幽閉されている研究所から脱獄を計画するところから始まります。
彼は誰よりも優しく、周りに傷つけられてもやり返そうとはしない、平和的な人間です。
だからこそ、彼はいつも人を幸せにするための発明をするのですが、その発明を悪用する人間が時おり現れて彼を苦しめてきました。
現代社会に居られなくなった彼が仲間たちと目指すのは、子供の頃から夢だったアトランティスという理想郷です。
果たしてアトランティスはどこにあるのか。
この物語は科学者たちの脱獄という冒険と並行して、アトランティスの手がかりとなるとある少年の手記と、さらに輝男の半生が描写され、一つの壮大なストーリーとなっています。
伏線がいくつも張り巡らされ、パズルのように組み合わさって、過去と未来の出来事が語られる度に少しずつ物語の秘密が明かされていきます。
情報の与えかた、手がかりの出し方がとても上手いと感じました。
またどの主要キャラクターにも人間味があり、暖かさを感じるのも楽しみのひとつです。
貴重な読書体験ができました。
物質の大きさについて考えたことがあろうか。
私は子供の頃に「ゾウが自分の足を登ってくるアリに気付くだろうか」と考えたことがある。
逆に「アリは自分が登っているものがゾウの足だという事を知っているのだろうか」とも考えた。
大きさに限らず、全てのものは相対的な事に振り回されている。
それに気づいたのは幼稚園の頃だ。確か4歳だったと思う。
私は母に訊いた。
「100円って、高いの? 安いの?」
母はこう答えた。
「このゴマ一粒が100円だったら安い? このお家が一軒100円だったら高い?」
私はこの母の回答に『相対性』という概念を見出した。
勿論そんな言葉は知らないが、概念として『理解』した。
この物語に出てくることは『相対値』で考えられることがとても多い。
物質の大きさ、温度、美醜、幸福度、頭の良し悪し、強さ、実体と空想、社会的地位、人の価値観、善悪の判断……数え上げればきりがない。
『壮大なスケールで紡がれた科学者たちの脱走劇』というのが恐らくこの話の筋なのであろうが、実は読者の価値観が試されているのではないかという気もする。
――あなたは、この話をどう読みますか?……と。
マイナージャンルといわれるSFのジャンルにも、胸をうつ至極の作品があることを認識させてくれる作品です。
ストーリーは、ある科学者の脱獄物語を、三つの視点から描いた特殊な構成をしています。
最初は当然、バラバラに展開していきますが、ラストに向かって一つの形になっていく様は、まさに驚きと感動以外にありません。
ストーリーの背景にも細かな描写が挟まれており、それが積み重なってヒューマンドラマを形成している点も見逃せない部分ではないでしょうか。
科学が人の夢を実現させたとしたら、果たして人は科学を元に成長したのかというテーマも興味深いものがありました。
一人の科学者の半生と脱獄ドラマ。涙なしにはラストを迎えられない極めて良質な作品です。ぜひ万人向けにオススメします!
閉じ込められた200名の科学者、彼らは自由を奪われ世界に利用される存在と成り果てて。
しかし、テルオを筆頭とする彼らの情熱は消えることなく。30年後、全員で監獄からの脱出を成功させる。
目指した場所はなんとアトランティス大陸!
三つの物語は相互作用により魅力を増し、わたしの想像を遥かに超えた展開を楽しませてくれました。理論についての説明もわくわくしました。
そして、みんな素敵なキャラでした。役割がはっきりしていて、全てが生き生きしていました。
個人的には、虎子がとても爽快でした。龍次も鋭子も魅力的。
彼ら3人の小学生時代の出会いも、何年経っても変わらぬ友情もとにかく素晴らしかったです!
とても純粋な心を持つ天才科学者が起こす脱獄劇は、現在を嘆く作者の心の叫びでしょう。
みっつの時間軸からなる構成は、しっかりと練られていて迷うことなく読み進めることができます。
その三つからなるそれぞれの中心人物は、全て純粋な心を持っています。
なんとしてでも貶めようとしてくるもの達から守ってきたのは、自分の心。
疑うことのない純粋で真っ直ぐな心が、周囲の人々を惹きつけ、アトランティスへの道を開いていきます。
彼は、今も私達の起こす全てを見続け、心を痛めていることでしょう。
その心の痛みが少しでも和らぐような世界へ、一歩ずつでもいいから進んでいきたいものです。
謎の大陸アトランティスをめざし
天才科学者たちが脱獄をする大きな物語を主軸として
3つの物語が語られ、次第に交錯していく。
一つは主人公テルオの幼少期から青年時代。
もう一つは過去か未来なのか誰なのか、最初は謎である。
丁寧に糸がほどかれ、明かされた秘密が全体を包み込んでいく。
随所に暴力への抵抗が描かれているのも読みどころ。
言葉の暴力、無視する暴力、殴り蹴る暴力。
暴力には暴力で返さないと気が済まない風潮の世の中で、主人公は決してそれを望まない。
それは負の連鎖になっていくだけだから。
平和のために、大切な人のために発明品を作っては、悪のための道具として使われていく悲しみ。
人の善意と悪意についても思いを巡らせてしまいます。
戦争のきっかけも小さな火種から大きくなっていく。小さいうちに消していきたいね。
それにしても、こんな荒唐無稽なお話、どうやって一人の人間から生まれるの?
作者さま、あなたは本当はラストに出てくる人物なのではないかしら。
天才科学者達が繰り広げる脱獄劇、というだけでも楽しいのに、この作品には様々な魅力がぎゅうぎゅうに詰め込まれていて、とても語り尽くせません。
三つの物語が進むにつれて、ピースがカチカチとはめ込まれ、壮大な物語として広がっていく楽しさ。
SFと脱獄、というわくわく感。
コミカルなシーンの中に流れる優しさ。
人の心を抉りだす時のリアルな質感。
立ち止まって考えてしまうメッセージ、など、など……。
これだけの要素が読みやすく紡がれていることに、読みながら驚いてしまいました。
ラストも、好きです。
しばらく作品世界に浸り、色々と考えていました。
とても素晴らしいひとときを過ごさせて頂きました。
物語の主題は「脱獄」ですが、現在・過去・未来という複数の時間軸をまたにかけた壮大な冒険活劇。
主人公の輝男は大学で物理を専攻したけれど、厳密には科学者ではなく発明家。数々の業績を上げ、ノーベル賞を受賞しながらも現在はなぜか刑務所に入っている・・・・・・というところから物語は始まりますが、冒頭からグイグイ引き込まれます。
スケールが大きいことは序盤でうかがえますが、こんなに壮大な展開になるとは予想もしませんでした。そして終盤で提示される人類史上のいくつかの謎への答えも興味深い。3つの視点が複雑に絡みあう構成ながら物語の筋は分かりやすく、冒険要素やアクションシーンも満載で少年漫画のようなノリで楽しめます。
ぜひご一読あれ。
舞台となるのは天才科学者たちを集めた国立総合科学研究所……という名の刑務所。
刑務所といっても生活に不自由はないし、研究活動も好きなだけできる。ただ外に出るだけは認められていない。
そんな刑務所の中に閉じ込められていた科学者の一人、織田輝男はそこから脱走を企むのだが、ただの脱走ではない。
研究者200人全員を巻き込んだ大脱走だ。
しかも彼らの脱走の目的地は、幻の大陸アトランティス!
この輝夫の語り口調が大変軽妙で読みやすく、さらにエピソードを短く区切っていくので大変テンポよく読み進めることができる。
個人的にはSF作家カート・ヴォネガットの小説を思い出しました。
この輝夫と仲間たちの脱走計画だけでも十分に面白いのですが、本作はそれ同時に、アトランティスで暮らすスケイプという少年の物語、そして謎の人物が書いた輝男の過去を書いた伝記が同時進行で綴られていきます。
最初はバラバラに見えたこの3つの話が、物語が進むにつれて絡まり一つの物語に収束するという構成は実にお見事!
(必読!カクヨムで見つけたおすすめ5作品/文=柿崎 憲)
大作というのはこういう作品のことを言うのだろうと思います。
タイトルにもなっている「アトランティスのつまようじ」。
実際にはつまようじより大きな、ダイヤモンドでできた美しい物体です。
過去にアトランティス大陸と思われる場所でそれを見つけた主人公の天才科学者・輝男。
彼がこの物体に刻まれたスケイプという人物の記録を解読したところから、謎に包まれたアトランティス大陸の過去と現在、未来がつながっていきます。
そしてそのアトランティス大陸の歴史に非常に大きく関わるのが、物語の中心となっている輝男と二百人の天才科学者たちのドタバタな脱獄劇です。
天才ゆえにその才能から生まれた発明品を悪用された科学者たちは、表向きは快適な研究所である刑務所に集められ、閉じ込められています。
輝男もまたその研究所に三十年も閉じ込められていたのですが、アトランティスのつまようじに刻まれた記録を解読したことが発端となり、科学者全員を引き連れた壮大な脱獄計画を実行にうつしていきます。
天才科学者たちならではの発明品を使った脱獄劇は、多くの波乱を巻き起こしながら、ユーモアたっぷりに進んでいきます。
彼らは全員無事に脱獄し、アトランティス大陸へ辿り着けるのか──。
これだけ書いても作品の面白さ、素晴らしさを伝えきれないのが歯がゆいのですが、とにかく是非ご一読ください!
作者様独特の心地よいテンポと読みやすさに加え、至る所に散りばめられた伏線が気になってどんどん読み進めてしまうことでしょう。
そして、作品全体を包み込む大きな優しさの中に人間の愚かさや理想の社会へのメッセージがしっかりと息づいており、読み手の心に深い感動を与えてくれます。
ワクワクドキドキハラハラ、時に目頭を熱くさせながら、数千年に渡って散りばめられたパズルピースのような謎がカチリカチリと見事にはまっていく爽快感を楽しんだ先には素晴らしい読後感があなたを待っています。
これほど壮大かつ面白い物語を、私は数えるほどしか知りません。それは三十三万強の文字数を言っているわけではありません。
今作は、謎の大陸アトランティスを巡って繰り広げられる、冒険活劇ですが、よくもこれだけの内容を破綻することなく、そして読み手を引き付けて離さないストーリーを構築できたものだと、読了後にため息がもれました。
主人公は天才発明家のテルオ、そして少年スケイプです。それぞれの立ち位置で話が進んでいきます。毛細血管のように張り巡らされた伏線が、この両者の物語をとても上手く繋いでくれます。
二人に関わる登場人物も、実に多彩に創られています。それぞれのキャラが与えられた役目以上の、とても素敵な演技でもって物語をさらに盛り立ててくれます。
長編映画を観賞するように、ワクワクドキドキしながら拝読していましたが、これは作者の代表作になると申し上げても過言ではないと思います。
読み終えた今でも、テルオとスケイプの二人がまだ頭の中で動いています。長編だからこそ味わえる濃厚な満足感、皆さまもぜひ味わってください。後悔は絶対にさせません。
関川さんの小説を読んだ後は、いつも考えさせられます。
自分の解釈はあってるのだろうか? と不安になりながら(これは決して筆者の意図するところではないとは理解しているのですが)ストーリーを振り返り、セリフを振り返り、残されたメッセージを考えます。
いつも「読みやすく、世界に入り込めて、読後感のいい小説」であるがゆえに、単純に読んで面白かった、だけだともったいない気がして。
多くの話を書き、多くの話を読む筆者の苦悩、ストイックなまでに読者視点に立ち続け、アイデアを出し続け、こだわり続け、すり減らした筆者の魂が感じ取れる気がして。
作中のキャラクターに対する愛情、こだわりと情熱、あくなき向上心、書くことに対する楽しみと苦しみがどこから生まれるのか知りたい気がして。
そんな筆者のジレンマが表れているのがまさに今作なんじゃないかな? と思ったり。作中のストーリーテラーは全て筆者、関川二尋の分身であることに疑いの余地はありませんが、それぞれが悩みや思いのたけをぶつけ合った結果の完成度、という気がするのです。筆者の脳内ではきっと、繊細な関川、大胆な関川、そしてアイデアを出す関えもんによる、あーでもない、こーでもない、いっそのことぶっちゃけてみるか? やっちゃう? やっちゃえ! みたいな会議が繰り広げられていて、それを経由して「アトランティス⇨アトランティス」の旅が出来上がったんじゃないかな、と勝手に妄想してしまうのです。
今作は純粋に「読んで良かった」と思うとともに、これからも関川さんには傑作を生み出し続けていただきたいな、と、そんな感情を抱きました。