やっぱり俺のパーティに役立たずなんていない

ガミガミ神

1.やっぱりコイツらの職業は間違っている



–––フォレストウルフ。


山に生息する肉食獣で、普通のオオカミの二倍から三倍ほどの大きさをもつ。普段は山奥で群れとなって暮らしているため、人の住んでいるふもとまで下りてくることはまずない。


だが最近、群れからはぐれたフォレストウルフが人里まで下りて来てるという。そのはぐれウルフによって村は荒らされ、村人がギルドへと要請を出した。


フォレストウルフは知性が高く、群れで行動しているため初心者パーティであれば為す術もなく全滅だ。しかし、今回の依頼ははぐれウルフの討伐。油断さえしなければ初心者パーティでも難なく討伐可能な目標だ。


そのはずなのに……



*************************


「怯んだぞ、 今だ! やれクロエ!」

「任せろタケル! やあああああッ!!」


クロエはキラリと光る長剣を握り締めて、力強く振り下ろす。頭の後ろでまとめられた銀色の艶やかな髪が振り乱れる。


しかし、クロエが長剣を振り下ろしたのははぐれウルフのいない明後日の方向だった。


「なにやってんだよぉおおお!」

「う、うるさい! 手元が狂っただけだ!」

「もう四回目じゃねぇか!」


舞い上がった土煙が晴れると、態勢を立て直したはぐれウルフが突進を繰り出してきた。

長剣を地面から抜いたばかりのクロエは防御が間に合わずに吹き飛ばされる。


「大丈夫かクロエ! ミーア、俺がクロエを回復させるからその間魔法で援護してくれ!」


小さなワンドを片手に構えるミーア。小さい体にダボっとした魔法装束を身にまとい、かなり大きめなとんがり帽子を空いている手で押さえている。

そして、目をカッと開き、


「ごめんね♪ むーりー!!」

「お前またかよ! なんで毎回魔法使えねぇんだよ!」

「だって仕方ないじゃない! 精霊達が応えてくれないんですもの! 私は悪くないわよ?! 」


いつもは大人ぶっているもの、こういう時だけは年相応に泣きわめく。

ええい、めんどくさい!!


気付くと吹き飛ばされたクロエが呻きながら立ち上がって頭を振っていた。白金色に光っている頑丈そうな鎧が砂や土で汚れている。


「わ、私は大丈夫だ、さすがは我が家の鎧。あれしきの突進程度では傷一つつかないぞ……!」

「そんな事言ってる場合か! 次、くるぞ!」


すぐに簡単な回復魔法を唱えてクロエを治す。治療が終わると再びはぐれウルフと向かいあう、今だにピンピンしているはぐれウルフを見て思わず悪態を吐く。


すると、俺の影から少女が飛び出す。


「マスター、ここは私にお任せを」

「ケイ!?」


肌の露出の少ない黒装束に身を包んだケイがこちらを見ずに声をかける。

我がパーティでは一番戦闘向きでは無いケイが前に出た、嫌な予感しかしない。自慢じゃないがコイツ《ケイ》は我がパーティの一番の問題児だ。


「我が呪い……喰らうが良い!」

「ちょっと待て、それは……!」


詠唱するケイの体から黒い霧のような物が辺りを漂う。その霧がはぐれウルフの体を包んでいく。狼狽えてもがくはぐれウルフだが、次第に抵抗する力が弱くなる。


包んでいた霧が晴れると、そこには全身から血を吹き出して死んでいるはぐれウルフ。–––そして俺の横で血塗れで倒れてるケイ。


弱々しく親指を上げた手を掲げて、


「グッ……バイ」

「カムバーーーック!!」



*************************



『ファスト』。ここは駆け出しの冒険者が続々と集まる、通称はじまりの街だ。はじまりの街にも関わらず魔王城と一番近い為、ちょくちょく魔王軍からの襲撃があるというとんでもない街だ。


俺達はその街のギルドの併設された酒場にいた。


「「「それじゃあ、かんぱーーーい!」」」


酒場の角のひと席を使って今回のクエストの祝勝会をおこなっていた。

勝利に浮かれる三人とは別で俺は浮かない顔をしていた。


「はぁ……」

「どうしたのよタケル? せっかくの宴会なのに、楽しまなきゃ!」

「そうだぞ、しかもやっと我々も中級パーティへと昇格したんだ。もっと喜ぶべきではないのか?」


俺は手にしているショートソードに埋め込まれている銀色のメタルプレートを指でなぞる。


冒険者にはそれぞれ階級が存在しており、ブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナとなっている。今回のクエストで初心者パーティが属するブロンズから昇格して、俺達はシルバープレートの冒険者となったのだ。

尚、冒険者はプレートを身につける何かに付けておかないといけないので、俺は武器に付けることにしている。


「いや、マズいと思わないか? 俺達がこれから受けていくクエストは、今までのものより格段に難しいものだぞ。今回のもグダグダだったし……」

「へ、なにが?」


料理を頬張りながら頭にはてなマークを浮かべるミーアを見てイラッとする。

こいつ、一回ぶん殴ってやりたい!


カラカラになった喉を潤すためにグラスの水を一気飲みする。


「いや、今回もタケルは大活躍だったな。みんなへの補助と華麗なる指揮によって見事な勝利を勝ち取ることができた、ありがとう。」

「そうだな、どこかのへっぽこナイトよりは活躍したと思うぞ」

「だ、誰がへっぽこナイトだ? 私か? 私の事を言ってるのか?!」


顔を赤くして憤慨ふんがいしているクロエを更に煽ろうとしたがやめた。今はそんな気力がない。


「マスター、水のお代わりはどうですか?」

「ありがと……、ってもう入れてるじゃねぇか……。そういえば、ケイは職業なんだっけ?」

暗殺者アサシンです」

「そんな職業ねぇだろ。真顔で嘘つくな」

「……一応、盗賊です」


今現在、俺達パーティが抱えてる問題はこれしかないよなぁ。


「攻撃が当たらないへっぽこナイト、魔法がたまにしか使えないあほウィザード、すぐに自滅魔法を繰り出す問題児盗賊かぁ……」

「おいタケル、まさかへっぽこナイトって私のことではないだろうな!」

「アホって言った?! 今アホって言ったでしょ! アホって言った人がアホなんですよアーホ!」

「マスター、お言葉ですが私はこの二人よりかはマシかと」


ぎゃあぎゃあと騒ぐ三人の言葉を右へと受け流しため息をつく。


「なぁお前ら、もっと自分に合った職業を選ぶ気はないか? 誰でも適材適所が良いと俺は思うんだが……」

「「「ないです」」」

「ですよねー」


三人の声が見事にハモった。

しばらくするとまたクロエとミーアは料理を頬張り始める。

こいつら自覚ねえのが怖いんだよな……。


「俺、今日は先に宿に戻るわ」

「わかりました、二人には私から伝えておきます」


ケイに伝言を頼み、俺は先に宿屋に戻ることにした。


部屋に戻った俺はに倒れこむようにしてベッドに横になる。


今抱える問題をどうしようかと考えてるとブワッと睡魔が襲いかかってくる。


「やべ、服着替えてねぇや。ま、いっか……」


重たい瞼を閉じ、深く沈むようなベッドに身を任せる。


「やっぱり、アイツら。職業間違えてんよなぁ……」


俺の意識は深い闇へと消えていった。

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