10.やっぱりこいつらの様子がおかしい



「おーいクロエ、ミーア」


いつもの酒場に足を運ぶと、何やら話し合っている俺のパーティメンバー達を見つけた。


声をかけるとビクッと体を震わせてこちらを見る。不自然に笑顔を作っているのが不気味だ。


「や、やあタケル。一体どうしたんだ、こんなところで?」

「いやこんなところって……。暇だからぶらついてただけだよ。お前達こそ何してたんだ? なにか話し合ってたみたいだけど」


その問いかけに二人とも俺からサッと目を逸らした。


–––あやしい。


「あ。そ、そういえば今日は神への祈りをまだ捧げてなかったな! 騎士としては欠かせない習慣だから今からでも行かなくてはな! うん、ということでタケルまたな!」


クロエは不自然すぎる理由でスタコラと酒場から出て行ってしまった。


酒場の席に取り残された俺とミーア。ミーアは口笛を吹いたりして何か誤魔化してるようだが怪しすぎて仕方ない。


「はあ、まぁ何をしているかは聞かんが人に迷惑はかけるなよ?」


そう言うとミーアは目を輝かせて突っかかってくる。


「人に迷惑をかけるなですって? ふふん、それどころか喜ばれることよ! そう、これはまさに善行!」

「そうかそうか」


「それじゃあ」と言って酒場を走って出て行くミーアを見送り、ウェイトレスに注文をして席に着く。

店の前から「気づかれなかったか!?」とか「大丈夫よ! 私を誰だと思っているの?」などの大声が聞こえてきたが気にしない。


まぁ、とりあえず迷惑がかからなければいいや、俺に。














昼過ぎになり、本格的に暇になった俺は次の冒険へ備えて魔道具の補充をする為にハンスの店へと向かった。


店へと着くとドアにふだがさがっていることに気がつく。そこには『本日終日閉店』と手書きで書いていた。


おかしいな、いつもなら開いてるのに。


ドア横の窓から覗き込むが、暗すぎて何も見えない。人の気配はあるんだけどな……。


まぁ、それも仕方なしと新たな暇潰しを探して俺は街をぶらつくことにした。


商店などが立ち並ぶ大通り、いわゆる商店通りに俺は来た。


ぶらぶらしていると大量の買い物袋を胸に抱えてフラフラと歩いているケイを見つけた。


「すごい量だな……。ほれ、持ってやるよ」

「あ、マスターこんにちわ。……それじゃあ一つだけお願いします」


ケイが抱える荷物の一つをヒョイと持つと並んで歩く。


「すごい買い込んだな。なんかあるのか?」

「はい、今日パーティがあるんです」

「へぇ、そりゃ楽しそうだな」


こいつがパーティなんかに参加するの珍しいな、いつもなら「面倒くさいのでパスで」とか言って参加しないのに。


「お前が楽しそうにしてるなんて珍しいな。かなり楽しそうなパーティなんだな」

「それはもちろんです。なんたってですからね」


……。


「マスターの照れて喜ぶ可愛い顔が目に浮かびます。はぁ、早くパーティにならないかな」

「……」

「どうしたんですかマスター? ……げ、マスター! いつからそこに!」

「お前は今まで誰と話しているつもりだったんだ」


それで朝からあの二人の様子がおかしかったのか、これで納得できた。


それにしてもこいつのアホっぷりには驚いた。まぁ、これでも俺はこいつらのリーダーだ。ここは大人の対応で、


「まぁ、そういうことなら俺は何も覚えていないからな。安心してサプライズとやらを……」

「そんな困ります! 忘れてくださいマスター!」

「今そう言ったじゃねぇか!」

「聞き間違えたかと」

「もっと自分の耳を信じなさい!」


バレてしまっては仕方のない、といった風に開き直った態度でケイはまた歩き出した。


「マスターはどんなものが欲しいですか?」

「もはや隠す気ねぇな……。そーだな、新しい剣とかそろそろ欲しいかな」

「そうですか。ちなみに私からのプレゼントはこの指輪です」

「欲しいものを聞いた意味を教えてくれ……」


そんなケイが差し出した指輪は大して高そうな物ではなかった。

銀のリングに鈍く光る赤色石が埋め込まれている指輪だ。


「マスター、左手を出してください」

「ほい、これ魔道具かなんか? なんで薬指にはめたんだ?」

「いえ、ただの指輪です。まぁ、細かいことは気にせずに行きましょう」

「……?」


なすがままにされた俺はまたケイの横で歩き出す。


そこで俺は裏路地からチラチラとこちらを覗く男達の姿が見えた。


一人は俺と同じぐらいの体格だが、もう一人が異様にデカい。ってか、この町でこんなにデカいのは一人しかいないんだが……。

二人共、黒の覆面をして顔を隠しているつもりだろうがバレバレ過ぎて逆にこちらが気を遣う。片方は覆面から金髪が見えているのだが……。


ケイがハッとして覆面二人組に気付くと、小さく「次の段取りだ」と呟き、俺が持ってる荷物をひったくって凄いスピードで駆けだして行った。


俺からケイが離れるのを見ると、ノソノソと二人組は裏路地から出てきて「へっへっへ」と不気味な声で笑う。


「よお兄ちゃん、命が惜しけりゃ大人しく俺達に着いてくることだなぁ」


三流盗賊のようなセリフを吐きながら、軽量だがかなりの強度を持つショートソードを巧みに回して、金髪の覆面が笑う。

この剣はこの前、「俺は魔法剣士になるんだ!」とか言って見せびらかしてたやつだな。ってかこんな茶番するなら違うの持ってこいよ……。


下手に抵抗すると面倒くさそうだったのですんなり従うと、二人の覆面は顔を見合わせて少し焦り出す。


「お、おい! ちょっとは抵抗してもいいんだぜ? 抵抗しない獲物は楽しくないから……」

「お、いいのか。『攻撃力↑』! 『防御力↑』! 『身体能力↑』! おりゃぁぁあああ!」

「待て待て待てー!! 魔法は反則だぁ!!」


このまま本当に倒してやろうかとも思ったが、事後を考えると面倒くさいのでやめた。

慌てて武器を構える覆面二人組……、もうテインとハンスでいいか。

慌てて武器を構えるテインとハンスに俺は襲いかかった。

テインと軽く剣撃を重ねた所で、軽く後ろに飛んでやられたフリをする。


目を瞑って耳を澄ませると、


「おおおお! 初めてタケルに剣で勝ったぞ!」

「お、おいバカ! タケルが起きる前に早く運ぶぞ!」

「お、おお。そうだな」


俺は大きな背中に担がれてどこかへと運ばれて行く。


とんだサプライズだよ。計画が甘過ぎるよホント! 俺じゃなかったら大失敗だからね! ん、これじゃ俺がチョロいみたいになってないか?


なんて考えているとどうやら目的地に着いたようだ。ドアを開けて薄暗い建物の中へと入って行く。


少しだけ目を開けてここがハンスの店だということに気づいた。


薄暗い部屋の中で椅子へと座らされる。


周りではクスクスと笑いを堪え切れない、といった様子で笑う声が聞こえる。


–––3、2、1!


微かに聞こえるスリーカウントの合図で部屋に明かりが灯った。


そこで目を覚ましたフリをして目を開けると、


「「「「「誕生日おめでとうタケル!!」」」」」


ケイ、クロエ、ミーア。そして、ハンスとテインが俺を拍手で出迎える。


いつもは小汚いハンスの店だが今日に限っては綺麗に片付けられ、様々な装飾が施されていた。


大きなテーブルの上には豪華絢爛ごうかけんらんな食事の数々が並べられている。


思っていたより凝ったサプライズ(笑)に正直驚いていると、


「タケル、いつも私達はお前に助けられてばかりだな。これはいつもの感謝だと思って受け取ってくれ」


クロエから受け取ったのは鍛え上げられた剣。かなりの業物だ、俺が使っている物とは比べものにならないことが素人目でもわかる。


「私からはこれ、これは精霊の加護で編まれた布なんだけど。精霊の加護で大気中からの魔力還元が促される優れものよ! 本当は私が使いたいくらい手に入れるの苦労したんだから大切にしなさいよ!」


受け取った布をスカーフのように首に巻く。確かに魔力生成がいつもよりスムーズにいくような気がする。

うん、これでクエストも楽になるかな。


「んじゃ、今度は俺達の番だな。俺達はこれだ、ハンスが取り寄せた防具に俺が色々アレンジを加えたんだぜ」

「それ取り寄せるの苦労したんだから大切にしろよ? 」


二人から貰った胸当てや籠手こてには小さい宝石のような物が埋め込まれている。恐らく魔石だろう、予め魔法を込めておくと後で魔力消費無しで使えるというあれだ。

確かにクエストで魔法を多用する俺には持ってこいだ。


ふと、ケイをみると既に料理を頬張っており、こちらを一瞥いちべつするとまた食べ始めた。


そんなケイの頭をポンポンと撫で、感謝を伝える。


「みんなありがとう。正直、驚いたよ。こんなに盛大に祝われたのは初めてだ。俺、いい仲間を持ったなぁ」


そんな俺の言葉に皆一様に照れ顔になる。


「ありがとう、本当にありがとう!」


そして少しだけ間をおいてこう付け足す、


「まぁ、俺の誕生日は来月なんだけどね」






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る