9.やっぱり幹部もポンコツの臭いしかしない
装備を整え、俺達はファストの門へと向かった。
クロエはオオカラスの一件で懲りたのか、いつもの鎧へと戻していた。
門へ着くと既にこの街の冒険者がひしめき合っており、その中には顔見知りのテインやハンスも混ざっていた。
二人に軽く声を掛け、俺達は人集りの前へと出た。
冒険者の群衆は
生半可な刃を通しそうにない鎧、鉄をも切断しそうな長剣を腰に提げている。
体は骨に皮が張り付いているだけで、目のあるべき場所には緑色に光る点があった。
その点はユラユラと揺れる。よく見ると、小さな炎のようだ。
そいつは地を這うような低い声で口を開く。
「私の名は……、ブランドリー……。そう言えば分かるかな」
なんか間が少し長かった気がする。すると、ブランドリーの名乗りと共に冒険者達がザワザワと騒ぎ出す。
「ブランドリーって言ったら魔王軍幹部の……、アンデッドキングのブランドリーか! 」
–––アンデッドキング。その名の通り、全てのアンデッドモンスターを統べる王。最強にして不死。ぶっちゃけ肉弾戦では魔王と同じくらい強いんじゃね? とか言われるぐらいのモンスターである。
プリーストが扱う退魔魔法や浄化魔法でアンデッド系のモンスターは倒すことが出来るが、もちろんこの駆け出し冒険者の街に幹部クラスのモンスターを倒すほどのプリーストはいない。
そんな奴がなんでこんな街に攻めてくるんだよ! せめて、予告して来いよ! ……いや来んなよ!
「安心しろ、私は別に交戦の意思を持って来たわけではない。一つだけお前ら人間に聞きたいことがあって来たのだ」
ブランドリーのその言葉にザワザワと騒いでいた冒険者達も次第に静かになる。
「……」
「……」
「……」
「……」
不意に訪れる沈黙。冒険者の一人が「あの……?」と言うと、
「おぉ、そういえば何を聞きたいか言ってなかったな」
あれ、こいつ怪しくね。俺のポンコツレーダーがビンビンに反応してる。
ちなみにポンコツレーダーとは日頃からポンコツ達に囲まれることによって、ポンコツとそうでない人を選別できるようになるスキルである。(そんなスキルは無い)
「実はここの近くの森で王としての証、邪剣を落としてしまってな……。目撃情報によると人間がそのような物を持っていたと聞いてな。誰か知っている者はいないか、と聞きに来たのだ」
落とすなよ!
きっとそう思ったのは俺だけじゃない。
しかし、本当に攻めに来た訳では無いらしい。ブランドリーからは殺気は感じられないし、実際こうやって一人で来ているのだから間違いないだろう。
「その邪剣ってのは、どんな剣なんだ?」
するとある冒険者がブランドリーに質問を投げかける。
その質問にブランドリーは首を捻り、少しの間静かになると、思い出したように鞘から長剣を引き抜いてこちらへと見せる。
「大きさはこれより少し小さいくらいだ。黒い剣でいかにも邪剣って感じの剣だ」
いかにも邪剣ってどんな剣だよ!
感情のこもってない顔でそう答えるブランドリーに心でツッコミを入れてしまった。
あちこちで「知らない」という声が上がるとブランドリーはそうか、と呟き剣を仕舞う。
「時間を取らせてすまなかったな。それでは私は消えるとしよう」
意外とこいつは悪い奴ではないんじゃないか。
「意外と礼節をわきまえてますねアイツ」
「アンデッドのくせに生意気ね」
「お前達は礼節もクソもないな」
ブランドリーが去ろうとしたその時、クロエが「待て」と呼び止めた。
驚いて思わずクロエの方を振り向くと、ミーアとケイも同じ顔でクロエへ視線を向けていた。
「その精錬に打たれた鎧、そして刻まれた紋章。貴公は高名な貴族であるとお見受けしたが……」
クロエがそう言うと、「ほう……」と呟いてこちらへと向き直る。
「そうだな、生前はそうだったかも知れない。
「
それだけ言うとブランドリーの姿は指をパチンと鳴らす。それと共に黒い炎に包まれて消えた。
ブランドリーが姿を消すと、ひしめき合っていた冒険者達は次第に数を減らし、今では俺達のパーティだけが残っていた。
クロエは
目の前で手を振るが反応はない、どうやらただの
「……成り金」
「だ、誰が成り金貴族だ! 私の家は由緒ある貴族だぞ!」
おっと、どうやら
何かを思い詰めた様子のクロエが少し心配になった俺は問い掛ける。
「どうしたんだ?」
「……
真面目に呟いて、遠くを見つめるクロエ。
「クロエが真面目な事を言ってるぞミーア、ケイ」
「はい、これは雨が降るんじゃないでしょうか」
「雨どころかゴブリンが降ってくるわよ」
「お前達は普段から私のことをどう思ってるんだ!?」
顔を真っ赤にして怒るクロエを見て俺達は思わず笑う。すると更に怒って追いかけてきた。
これ以上笑うと泣きそうなのでやめてあげることにする。。
クロエが少し耳を赤くしたままため息を吐く。
「お前は覚えていろよ……」
「悪かったって、もう笑わないから」
「クロエは怒りんぼさんですね、もっと寛容な心を持ちましょう」
「そうよそうよ、そのままじゃ聖騎士になわてなれないわよ」
「お前達は黙ろうか」
クロエは捕まえたケイとミーアにニッコリと笑いかけてる。ぶ、不気味だ。
しかし首根っこを掴まれて、借りてきた猫状態のケイとミーアは相変わらず態度を変えない。
クロエは「はぁ」とため息を吐いて、二人を下ろした。
「そろそろ宿に戻るか」
俺がそう言うと三人は賛成し、俺達は帰路へとついた。
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