6.やっぱり少女は友達が少ない



「ふわぁ〜〜〜〜」


俺は大きな欠伸あくびをしながら人気ひとけの多い大通りを歩いていた。


クロエとミーアは良いクエストが無いか探してくると言いギルドへと向かった。

ケイは知らない。

あいつは気づくといたりいなかったらするので緊急時以外は気にしないことにしている。


俺は目的地へと着くと、薄汚い扉を開けて中へと入り店主に声をかける。


「相変わらず汚い店だな、ハンス」

「うるせぇな、これでも結構人気なんだよ」


2mはあろうか大きな体に盛り上る筋肉、彫りの深い顔にはいくつもの傷跡が残っている。


小道具屋兼定食屋を営んでいるハンスは元冒険者だ。その経験を活かして冒険に必要な魔法道具や消耗品などを売っている。


俺も駆け出しの頃から世話になっており、なんだかんだの腐れ縁だ。


すると、ガチャと扉が開き男が入ってくる。


「ちわー! ハンス、注文してたやつ届いてるー? おっ、タケルじゃん! 久しぶり」

「久しぶり、テイン。いつも通り元気そうだな」

「当たり前よ! 俺ももう少しでシルバープレートだぜ、すぐに追いついてやるからな!」


サラリとした金髪に碧眼、貴族を思わせる綺麗な顔立ちをしてるが本人曰く庶民生まれ庶民育ちらしい。


「届いてるぜ、ほらよ」


ハンスはカウンターの下から何かがパンパンに詰め込まれた袋を取り出して、それをテインへ放り投げる。


テインがキャッチすると袋はジャララと音を立てた。テインは「サンキュー」と言い銀貨数枚をハンスへと渡す。


「それ、何が入ってるんだ?」

「これか? これはあらかじめ魔法を込めておくと、後で込めた魔法を使えるという優れものだ。『魔石ませき』って言うんだぜ」

「へぇ、それは便利だな。ってあれ? お前剣士じゃなかったっけ?」


前会った時は剣を腰に携えて、「俺はカッコいい剣士になるぜ!」とか言ってた気がするが……。


「おう、剣士だぜ! だけどタケル、魔法を使う魔法剣士ってのもカッコいいと、思わないか?」

「相変わらずミーハーだな……」


こいつはイケメンなのだが、残念イケメンというかなんというか……。とりあえず、惜しいやつだ。


魔石の袋をしまうとテインは「それじゃ」と店を出ようとすると、ハンスが声をかけてそれを止める。


「せっかくだから何か食ってけよ、ここは小道具屋であり定食屋でもあるからな」


自信満々に勧めるハンスだが、テインは目を逸らしながら急に慌て始める。


「あ、いっけね! この後、用事があるの忘れてた! ごめんだけどまた今度食べるよ、それじゃ!」


逃げるようにして店を飛び出したテインをポカーンと見送るハンス。


それもそのはず。この街に住んでいる冒険者には周知の事実なのだが、ハンスの定食屋の料理はクソがつくほど不味いのだ。


「あいつ前もあんな事言って食いに来なかったぞ」

「そ、そうか? お腹空いてなかったんじゃないか?」


腕を組んで頭を傾げるハンスに慌ててフォローを入れる。


俺はゴホンと咳払いをして、目的の買い出しを始める。


「ハンス、いつものやつで頼む」

「あいよ。しっかし毎度の事だがかなり買い込んでいくな、そんなに必要なのか?」


俺のパーティは問題児ばかりなので、あらゆる事に対処できるように俺はかなりの魔道具を買い込んでクエストにのぞむ。


特に回復石かいふくせきなどの回復アイテムはかなり重要になってくる。


毎度毎度どこかの自称暗殺者アサシン自傷魔法じしょうまほうを使うからだ。戦闘用に魔力を残しておきたい俺は、質は低くなるが回復アイテムに頼るようにしている。


「俺のパーティは問題児揃いなんでな、色々と必要なんだよ。いい加減にして欲しいぜまったく」

「ふっ、その割には楽しそうに買っていくじゃねぇか」

「からかうなよ」


アイテムを取ってくると言い、ハンスは裏の倉庫へと行ってしまった。


ふと窓際にある棚の商品を手に取り、説明書きを読んでみる。


–––モンスター除けのポーション。使用すると辺りの弱いモンスターはどこかへ逃げていってしまいます。『副作用』匂いが強烈な為、あるレベル以上のモンスターを引き寄せる可能性有り。


こんな物買う人がいるのだろうか……。


手に取った商品を棚へと戻し、ふと窓を覗くと通りがかった顔見知りの少女と目が合う。


少女に手を振ると、顔を輝かせて店の中へと入ってきた。

しかし、キョロキョロと辺りを見回して目的の人物がいないと分かるとあからさまにテンションを下げた。


「ごめんね、今日はケイはいないんだ。ディスベアちゃん」

「あ、いえ! べ、別にケイに会いたかったとかそんなんじゃないですよ!」


相変わらずの小麦色の肌に笑顔を作って笑う。


「今日はタケルさん一人ですか?」

「うん、今日はちょっと買い出しに来ててさ。ディスベアちゃんも一人?」


俺の問いかけにビクッと体を震わせて目を逸らした。


「は、はい。今日はというかいつもというか……」


悲しい事実を知ってしまった俺は思わず目を逸らしてしまう。

だからいつもケイに突っかかってくるのか……。


と、ここである事を思い付く。


「ディスベアちゃん、お腹空いてない?」

「お腹、ですか? まぁ、お昼なので空いていますが……」

「ちょうど良かった、なら一緒にご飯でもどうかな?」


すると、エッ! と声を上げて驚く。


「私と、ですか? 私なんかとどうして?」

「どうしてって、もっと仲良くなりたいと思ってさ! どうかな?」

「私と、仲良くなりたい……?」


急に赤面して恥ずかしがるディスベア。


「はい、私なんかで……良ければ」

「よし、決まりだな。んじゃ、何が食べたい? ここら辺で美味い店ってどこだっけな……」


と話していると、後ろから急に声が聞こえる。


「ウチで食べていきゃいいじゃねぇか、ここら辺で美味い飯屋と言ったらウチぐらいだ」

「「え……」」


思わずディスベアと声がハモる。

どうやらディスベアもハンスの定食屋の噂ぐらいは聞いているようだ。


「え、いや、それはちょっと……」

「何だよ、俺の飯が食えないってか?」

「あ、いえ。食べます」

「よし! それじゃ、すぐ作るから待ってな」


俺は商品の受け取りと支払いを済ませると、無理矢理席へと座らされた。


カウンター横の備え付けのキッチンから聞こえてくる鼻歌が不気味だ。

目の前でディスベアは青い顔をしている。

どんだけ食べたくないんだよ……。


気を紛らわせるために他愛もない話を俺は始めた。


「そういや、ゴメン。せっかく地図貰ったのに結局色々あってレベルだけ取りに行けなかったんだ」

「そうなんですか、それでいつまで経っても来なかったんだ……」


待ってた? 俺たちを?

呟くように言った言葉を聞いて俺はもう泣きそうだった。


この子、不器用すぎる!!


大方おおかた、待ち伏せをして偶然を装いケイと勝負をしたかったんだろう。


「ディスベアちゃん、俺で良かったらいつでも話聞くからね。なんかあったらすぐに話すんだよ!」

「急にどうしたんですかタケルさん?!」


急に半泣きになってる俺にディスベアは困惑していた。


「そ、それじゃあ一つだけ。ちょっとしたお願いなんですけど……」

「何でも言ってごらん!」


少し間を置いて、咳払いをするディスベア。


「ちゃん付けじゃなくて、普通に名前で呼んで、欲しいです……」

「それだけでいいのか? ……ディスベア?」

「ッ!! やっぱダメですキャンセルですノーカンですクーリングオフです!」

「どっちだよ!」


急に顔を隠して慌て始めたディスベアに思わず突っ込んでしまった。


すると、


「おーおー随分楽しそうじゃないですかマスターにクマちゃん」


いきなり湧いて出てきたようにケイが顔を覗かせる。


「「うわぁぁあああ!!??」」


思わず二人揃って大声を出してひっくり返ってしまう。

イスから這い上がりながらケイを見る。

何やら不機嫌なご様子だ。


「ケ、ケイ。いるなら声かけろよ……。いつからいたんだ?」

「そうですね。クマちゃんが『名前で呼んで欲しいですぅ』って言ってるあたりからですね」

「いやぁぁあああ!!! 殺してぇ! 誰か今すぐ私を殺してぇぇぇえええ!」


ディスベアは顔を耳まで真っ赤にして机に顔を突っ伏して叫んでいた。

それを見て満足しなかったのかケイはディスベアの耳元で囁く。


「ちゃん付けじゃなくて、普通に名前で……」

「やめてぇぇえええ! 穴があったら入りたいぃ! 入ってフタをしてしばらく閉じこもりたいぃ!」


半泣きになってるディスベアを見て可哀想と思った俺は、ケイに「それぐらいにしてやれよ」と言った。


すると意外にもスッとケイはやめてくれた。こちらを見てニコッと笑うと、


「さあマスター、みんなが良いクエストを見つけて作戦会議してる間に女の子とイチャイチャしてたのは水に流しますからギルドに行きますよ?」


おっと、まだ不機嫌なご様子で。


俺は服を掴まれてズルズルと連行されていく。


「ディスベアちゃん、ごめんまた今度ね!」

「あ、はい! こ、この事誰にも言わないでくださいね!」

「安心してください。私がちゃんと広めておきますから」

「やめてよぉ!」


ケイに引っ張られて行く途中で、料理を運んできたハンスとすれ違う。


「お、ケイちゃんじゃねぇか、久しぶり」

「お久しぶりです。すみませんがマスターは急用が出来たので帰ります。お料理はクマちゃんが美味しく頂くそうなので」

「用事ならしゃあないわな。気をつけてけよ」


閉まりゆく扉から最後に見えたのは、運ばれてきたたくさんの料理を「わ、わーいやったー」と言いながら、ヤケクソで頬張るディスベアの姿だった。

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