5.やっぱりこの街はくせ者が多い



「タケル、占いというものを知っているか? あらゆるまじないやスキルを使って未来を見通す力のことを言うらしい。いや、世の中には便利な力があるもんだな。そんなものがあるなんて今まで生きてて初めて知ったぞ。やはり庶民は素晴らしいな! おっと、話が長くなってしまったな。興奮してしまうとつい自分でも何を言ってるかわからなくなるんだ。つまり何が言いたいのかというと、占いに行こう」

「嫌だ」


 今日もケイもミーアも居ないので一人の時間を満喫しようと思っていた所、宿を出た先で待ち伏せしていたクロエに捕まった。ナイトとして誇りを持っているクロエはいつも自慢の鎧を着ている。ご丁寧に家紋入りの鎧を。



 俺達が魔王城から帰還してはや一週間。その日からミーアは修行をすると言い一人で出掛けている。ケイはその付き添いと称して付いていってるらしい。

 うるさい二人組が居ないおかげで久しぶりの静かな時間だと思っていた俺はTシャツにジーパンというラフな格好で出掛けようと思っていたのに捕まった。


「即答か!? ふ、ふふふ。さすがのタケルも占いは初めてで怖いか? しかし安心しろ! 街外れに新しく出来た占い屋があるらしい、そこへ行こう。なんでも言うこと全てが現実に起こるらしいぞ!」

「はあ、やっぱりあそこの話か」


 最近ファストに占い屋ができた。何でもそこの占い師の占いは百発百中らしい。

 街中に流れるその噂を聞きつけてきたのだろう。

 だが、


「そんなの友達と行きゃいいだろ?」

「友達か、あいにくだがケイとミーア以外に友達と呼べるものは……」


な、なんてこった……。


「一緒に行ってやるから何も言わなくていいっ!」

「そ、そうか。待て、何故泣いている」


 クロエの寂しい交友関係に悲しくなりつつ、俺達は占い屋へと向かった。



*************************************


「ようこそ我が館へ!! 吾輩わがはいの名前はゼフィー。気軽にゼフと呼びたまえ! おや、どうしてそんなとこで横になってるのだ?」


クロエが店のドアノブに手を掛けた途端、扉は激しく開け放たれて中から長身の男が出てきた。その顔つきはここら辺ではあまり見ないものだった。


鍛えているのか、その鳥の羽根がたくさん付けられた奇妙な紳士服の上からでも分かるくらいにガッチリとしている。


「お、お前が噂の占い師か?」


クロエがよろめきながら立ち上がり、確認するように言う。


「どのような噂かは知らぬが当たると評判の占い師なら吾輩で当たっているぞ!」


大きな身振りでそう言った後に、招き入れるようにして館の中に入っていく。


その後ろを付いていくようにして俺達も占いの館へと足を踏み入れた。


「こちらへ掛けたまえ」


案内された部屋でゼフは椅子に腰掛ける。その椅子と対になる形で二脚の椅子が置かれていた。


どうやら俺達が来ることを知っていたみたいだ。

これも占いの力なのだろうか?


「さてと、早速占いたいことは何かな? おっと、自己紹介はいらぬぞ。遠方から来た少年と貴族のお嬢様ナイト。吾輩は人を見ただけで全てが見通せるのだ」


ニヤリと笑みを浮かべてゼフはそう言った。

隣ではクロエが「おぉっ」と感嘆の声を上げていた。


ったく、こいつどんだけチョロいんだよ。


「あんま真に受けんなよ。占いってのは当たるも八卦はっけ当たらぬも八卦はっけと言ってだな、全て信じてたらバカを見るぞ」

「で、でもコイツは見事に私達の事を言い当てたぞ」


鎧をガシャンといわせてこちらへ身を乗り出す。そんなクロエを押し返して説明をする。


「そんなもんは俺達の服装を見れば分かるさ。家紋入りの鎧なんて着てたら誰でも貴族って分かる、それに俺の格好はここら辺じゃ見ないからな。それで俺はよそ者、お前は貴族のお嬢様だと見抜いたってわけさ」

「な、なるほど」


ニマニマと笑っているゼフを横目に見つつ、もう一言を付け足す。


「それにもし全てを見通すなら、俺達が何を占って欲しいのか聞かなくても分かるはずさ」


今度は俺に「おぉっ」と感嘆の声を上げて納得する。


「素晴らしい! 素晴らしいぞ少年! 騙されるようなアホ客なら適当にでまかせを言おうと思ったのだが、気に入ったぞ少年! 褒美として本当に占ってやろう!」

「コイツひでぇな……」


ワハハと笑うとスーツのシワを伸ばしてクロエへと向き直る。


「では娘よ、占って欲しい事を言ってみろ」


するとクロエは胸の前で腕を組み、考え始めた。


「お前決めてなかったのかよ……」

「い、いや! いざとなると何も浮かばなくてな。というか考えてみたら別に占って欲しいことも無かった」


コイツはあとで池にでも落として帰ろう。


「ふむ、ならばこれから貴様らに起こることでも占ってやろうか?」

「そんなアバウトなことでも大丈夫なのか?」

「ワハハ、お安い御用だ!」


俺は何か少しの違和感を覚えたが、その正体に気づくことはなかった。


するとゼフは立ち上がって右手と左手を逆さに繋ぐ。そして手をグルンと回して、繋いだ手の隙間からこちらを覗く。


……これ、ジャンケンの時よくやるやつだ。


そんな事を思っている俺の横で、クロエがそわそわしている。なんだかんだで楽しみにしているようだ。


「見えた、見えたぞ! 娘よ、次の戦いでは鎧を着ない事をすすめる。その鎧が災いを招くだろう。そして少年よ! 近々、仲間の一人が災厄さいやくを持ち込むだろう。しかし、解決の手助けをするのが吉と出ている。逃げ出さずに立ち向かうべし

!!」


一気にまくし立てるように喋ると、ゼフはハァハァ言いながら椅子へと腰掛ける。


「こ、この鎧を着たらいけないのか!? しかし、ゼフが言うなら致し方なしというのか……?」


占いの結果にうろたえているクロエの横で俺も頭を抱える。


「仲間の一人が災厄を招く? ダメだ、心当たりがありすぎる! 誰が招いてもおかしくはない!」


少し考えて、「占いは必ず当たるのか」と聞くとゼフは「失礼な」と息を切らしながら言う。


「吾輩の占いは『未来予測』ではなく『未来予告』なのだ。起きることは絶対だ」


なるほど、来るべき災厄に備えろと言うことか。


「日本にこんな優秀な占い師いなかったぞ……。やっぱりファンタジー世界はデタラメだぜ……」


独り言を言ったのだが、その言葉にゼフが食いつく。


「ニホン? 聞いたことのない国だな?」

「あぁ、すげぇ遠いところ……なんだ、が」


そこまで口にしてある事に気づく。

さっきまでの違和感の正体。


「クロエ、帰るぞ」


頭を悩ませていたクロエはハッとして立ち上がる。


「おや、もう帰るのか。それではまた来るのを楽しみにしてるぞ」


ニヤリと笑みを浮かべるゼフに出口まで案内される。

先にクロエが外へ出たのを確認すると、俺は扉を再び閉めてゼフの方へと向く。


「おや、忘れ物でもしたのかな?」


そう言って不思議そうにこちらを見るゼフに俺は確信めいたものを持って問いかける。


「あんたも俺と同じ、転生者だろ?」


その言葉にわずかにピクリと体を震わせた。


「……なんの話かな? 吾輩にはさっぱり……」

「最初に違和感に気付いたのは俺が『アバウト』って言葉を使った時だ。知らないはずの言葉にあんたは疑問を持つことなく接した」


わずかにニヤリと笑うゼフにもう一つの理由も説明する。


「あと一つ、俺がさっき日本から来たと言った時にあんたは『聞いたことのない国』と言ったな? どうして日本が国だと知ってるんだ、街や村の可能性だってあるのに」


そこまで言うと、堪えられないといった様子でゼフが大声で笑い始めた。


その奇妙な紳士服も相まってただの奇人きじんにしか見えない。


「いやぁ見事見事。いかにも吾輩も同じく転生者である」

「すると、その未来予知はか?」

「いかにも」

「ってことはあんたも魔王を倒しに?」

「フッ、吾輩は違う。皮肉にも恩恵によって自分の限界を知ってしまってな、こうやって占い師をしてセコセコ稼いでるということだ」


自嘲気味なセリフを吐いて首を振る。


「そっか。俺は倒すよ、魔王を」

「貴様なら倒せるかもな、少年よ」


お見通しだと言わんばかりの顔で笑みを浮かべる。


「少年よ、早く娘のところは行かなくて良いのか? 今頃スネているのと思うぞ」

「ふ、それも未来予知か?」

「……いいや、ただの予想である」


その言葉にフッと笑い、店を出る。


「いつまで仮面を被り続けるのか、見ものだな」


ゼフが何か言っていた気がするが、バタンと扉を閉める音でよく聞こえなかった。


そして俺は、館から少し先で膝を抱えてうずくまったいるクロエに駆け寄っていった。

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