4.やっぱり俺達はまだまだ弱い その3
「お、お姉ちゃんんん!?」
思わず、対峙するメアとミーアを見比べてしまう。
メアのいやらしい胸元とミーアの寂しい胸元を交互に見やって驚く。
姉妹でこんなに差が出るものなのか!?
「ちょっと今失礼なこと考えてたでしょ!?」
「考えてない」
こんな時だけ勘の鋭いやつめ。
「あらあらあら、のんびりお話とは私も舐められたものだわぁ」
そうだった! ミーアの姉とはいえ目の前にいるのは魔王軍の幹部。油断はしてはいけない!
「お姉ちゃん、その喋り方いい加減それやめなよ。カッコいいと思ってるの? その歳になって恥ずかしくないの?」
「はぇ!? カッコよくなかった!? べ、別にお姉ちゃんはまだそんな歳じゃ……」
「毎回毎回変なことばかりして! 魔王軍幹部の妹の気持ち考えたことある!?」
「ご、ごめんなさい〜!」
は?
目の前の出来事に思わず固まる。魔王軍の幹部がうちのおバカウィザードに説教されてるではないか。
お上品で有名なクロエも口をパクパクさせてるではないか。
「で、でも! お姉ちゃん魔王軍幹部なっても人殺しとかしてないから! ちょこっとイタズラするぐらいで」
「そのイタズラについて詳しく」
「あんたは何言ってんのよ!」
おっと、お姉ちゃんとイタズラという単語に思わず反応してしまった、危ない危ない。
「もう! タケル、帰りましょ。こんなとこにいるだけ無駄よ」
「えぇ!? ゆっくりしていかないの? お茶出すよ?」
「どこの世界に魔王城でくつろぐ冒険者がいるのよ!」
プンスカ怒るミーアに催促されて俺は、『転移』の詠唱を始める。既に興味無さげなケイは新しく取り出した干し肉みたいな物をかじり始めてる。
気づくとメアは目を青く光らせてこちらを見ている。『鑑定』スキルでも使っているのだろうか?
と、『鑑定』が終わったらしいメアが口を開く。
「ふ〜ん、男の子が31でナイトちゃんが14、ミーアが9ねぇ……。ミーアはもうちょっと頑張りなさいよぉ」
「お姉ちゃんに言われたくない」
「ひどい!?」
数字はレベルの事か? すげぇな、『鑑定』スキルにそんな使い方があったとは。今度取ってみるか。ん? 待てよ、今おかしなこと言ってなかったか?
「ナイトちゃんが、14……?」
呟いた瞬間にクロエが顔を逸らす。
「てめぇサバ読んでやがったな! 何が『人間はレベルが全てじゃない』だ! メチャクチャ気にしてるじゃないか!」
「う、うるさい! その口を塞がんと切るぞ!」
「おーおー、切ってみろよ。当たるものならなぁ!」
「こいつ〜!!」
長剣をブンブン振り回すクロエをヒョイヒョイと躱わしながら罵っていると徐々に諦めていき、膝を抱えてうずくまってしまった。
「でもおかしいわねぇ。そっちの子だけ上手く読み取れないのよねぇ」
「ほぇ?」
メアは今だに干し肉みたいな物をかじっているケイを指差して言う。
「あぁ、それは仕様なんで大丈夫です」
「仕様? それまたどういうことなの?」
メアが頭にはてなマークを浮かべたところで詠唱が終了して『転移』が始まり、俺を中心として光の輪が広がる。
「あらあらあら、それじゃその答えはまた今度聞くわね」
「その機会があれば……ですけどね」
「皆さん仲が良くって羨ましいわぁ」
「ははは……、そんなことないです」
苦笑いを浮かべると優しい微笑みを返してきた。
「ミーアのこと、よろしく頼みますね」
「はぁ!? お姉ちゃん何言ってんの!? バカじゃないの!?」
「あらあらあら、照れちゃって♪」
顔を赤くして
いつの間にか寝ているケイを背負うと、メアへと会釈する。
メアは胸の前で小さく手を振っている。
「それじゃ、帰るぞ。『転移』」
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「もぅ! 何なのよあの姉は! ほんと頭にくるわね!」
「落ち着け。どぅどぅどぅ」
「誰が暴れ馬よ!」
まだ怒っているミーアを動物を
俺達はいつもの酒場の一席で慰労会? を行なっていた。今回は何もしていない気がするが気にしない。
「いやぁ、だけど今回は助かったなぁ。ミーアのお姉ちゃんが魔王軍幹部で」
「はぁ? 何が良かったのよ! こっちはいい迷惑なんですけど!」
今回特に何もしていないのに料理をたくさん頬張るケイに呆れ顔をしつつ言うと、ミーアが猛反発してきたので仕方なく説明する。
「いやだって、今回出てきたのがミーアのお姉ちゃんじゃなかったら、俺達どうなってたと思う?」
あの時魔王城にいたのがメアだけとは限らない。他の幹部も居たはずだ。もしそいつらが出てきていたら……。
ようやく事の重大さに気づいたのか二人は青い顔になる。
「まぁ、誰が出てこようが私の呪いの力の前では無力ですがね!」
……一人を除いて。
「お前、あの技禁止」
「えぇ!? そんなマスター
「うるせぇ! お前が倒れたあとに回復魔法を掛けるのは誰だ? 俺だよ! ってか、毎回毎回クエストで使う魔力の八割はお前への回復魔法なんだが!」
「あぁ、マスターそんなに私の身を案じて……。わかりました、
「案じてない。邪魔だって言ってんの」
「何ですかツンデレですか」
「今の所ツンしかしてねぇよ!」
はぁ、どうして俺のパーティには変なやつしかいないんだ!
「ん、そういやミーア。お前魔法使ってなかったか?」
メアからの攻撃を確かに魔法で防いでいた。しかも、詠唱無しであんな大技を。
「あぁ、姉に対してイライラしているとなぜか、力が湧くんですよね。それに精霊達も応えてくれたようです」
「何だよそれ……、でも魔法使ったよな! へっぽこウィザード卒業か!?」
実際問題、ミーアが魔法を使えるだけでこのパーティの戦力は格段に上がる。俺が魔法を使わなくて良くなれば、他のスキルの習得や熟練に時間を使える。
それだけでも十分……、
「そんな都合良くいくわけないじゃない。さっき試してみたけど、何も出来なかったわ!」
何故このポンコツはこんなにも自信満々なのだろうか。しかし、ここで諦めてはいけない。
「そ、それならナイトに転向なんてどうだ? 精霊も使えるナイトなんてお前ぐらいだぞ、精霊騎士なんて呼ばれてカッコいいぞ。なーに魔法は気にするな、そこは俺がカバーしてやる」
「お、おい! ミーアがナイトに転向したら私はどうなる!? お払い箱か! いらない子なのか!?」
突っかかってくるへっぽこナイトを抑えようとするが、馬鹿力で反撃されてしまう。
逆に机に押さえつけられていると、
「何言ってんのよ、私はウィザード辞めるつもりないわよ」
「さ、さいですか……」
ウィザード適性があるかと言われれば無い。だからと言って、俺が
しかし誰にでも向いている職業があるわけで。
今日もその誘導は失敗に終わったけれど。
「あ、マスター。レベル
「あぁ! どうすんのよ! 簡単にレベル上げができると思ってたのに!」
「ふむ、これはあれだな。やはり地道にレベル上げをしろという神様のお告げ……」
「お前の方向音痴のせいだろ!」
ため息を吐いて、ギャアギャアと騒いでいる三人を眺める。
どうしたらこのパーティがマシになるか考えてみるが答えはいつも出ない。だけどそれも良いかもしれない。
今回は自分達の弱さを自覚しただけで良しとするか。
とりあえず、次回からはクロエに地図は持たせない、絶対に。
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