3.やっぱり俺達はまだまだ弱い その2
「い、今のは無しよー!」
半泣きになりながらケイに食いかかっているのはディスベアだ。
今のは俺でも引くぐらいにエグい。酒場の出口へと歩いているディスベアの後ろからケイが盗賊スキルを使って地図を奪ったのだ。
「あなたが勝負を了承した時点でもう勝負は始まっているのです」
「なんでよー! ケイよりレベルも上なのに強いはずなのにー!」
「クマちゃん、良いことを教えてあげましょう。勝負事において強者が勝つのではありません、勝った者が強者なのです」
「今のケイに言われたくないわよ!」
ドヤ顔で勝ち誇っているが全然カッコ良くない。
本当にこの子、
「お、覚えてなさいよー!」
小悪党のようなセリフを吐いて酒場の出口へと駆けていった。しかし、ドアノブへ手を掛けてピタッと止まった。そして、こちらへ振り返り、
「最近、魔王軍に新しく加わった魔女のこと気をつけなさいよ!」
すると、パチっと目が合った。
「あ、お、騒がせしてすみませんでした。あ、あの、また来てもいいですか?」
「……! あぁ、いいよ! いつでもおいで」
案外、良い子なのかもしれない。話しかけてくれたことが嬉しくて思わず元気に返事してしまった。
「ッ!? 私のマスターに色目を使うのはやめてもらえますか!!」
「つ、使ってないわよ! 気をつけなさいよ!」
そう言い残して酒場から出ていってしまった。
いつから俺がケイの物になったのかは知らないが、まぁ良しとする。それより今日はディスベアと少し仲良くなれた気がする。今度、飯にでも誘ってみるか。
気づくといつの間にかミーアが起きていた。
「……魔女」
そうポツリと呟くと深刻な顔をして黙る。
「どうかしたか?」
「……へっ!? な、なんでもないわよ。それよりも何? 新しいクエストの話?」
「まぁ、そんな感じだ。準備しとけよ」
「ほいほい。それじゃ先に宿に戻るわね」
「おう、おつかれ」
なにかミーアの様子がおかしい気がしたのは俺だけだろうか?
でも今はそれよりも……、
「起きろ、へっぽこナイト! いつまで寝てやがんだー!」
「ふぇい!?」
勢い良く立ち上がったクロエは、そのままの勢いで後ろへと転がり落ちる。
「何やってんだ……。ケイ、色々アイテムの買い出し頼めるか?」
「はい、クロエも連れていって良いですか?」
「いいぞ、でもコイツを一人にするなよ」
「了解しました」
「ちょ、ちょっと待て! 誰を子供扱いしているんだ!」
いつの間にか起き上がったクロエが激しく抗議する。
「はぁ? どの口が言ってるんですか? 極度の方向音痴だろうがお前は! そのせいで攻撃も当たらないんだろうが!」
「ぐはぁ!」
力無く机に突っ伏すクロエを見届ける。
コイツ、自覚無いのか?
「それじゃ、お願いするよ」
「はい、マスター」
そうして俺達は『レベル
*************************
「本当にこんなとこにあるのか?」
『ファスト』から南に歩いて3kmほど、ちょうど魔王城とは反対方向へと進んだ先にある森に『レベル茸』は生えているという。
「地図によるとそうだな。魔王城からは離れているから大丈夫だとは思うが、実力以上の敵が出てきたら即退散だ、いいな?」
凛とした声でクロエが答えた。
「……なんかお前、戦闘以外ではしっかりしてるよな」
「失礼なやつだ。私はいつでもしっかりしてるつもりだぞ」
「そうだよな、……それに比べて」
チラリと後ろを歩くミーアとケイへと視線を向ける。二人はさっきから茶色の物体をしきりにかじっている。
「なによ、そんなに見たってあげないわよ」
「いらねぇよ……。つかなんだよそれ?」
「干し肉よ! 出掛ける前に市場で買ったの」
「ふーん、なんの干し肉?」
「さあ? 見た目からして干し肉なんじゃないの?」
「怖ぇよ! 何かわかんない物食ってんのかよ! その神経が怖ぇよ!」
なんだかんだ話している内に開けた所へと出る。森から出たはずなのにジメッとした空気がより一層強くなった気がした。
すると、何やら大きな建物があることに気づく。その建物は禍々しいオーラを放ち、それでいて何やら引き込まれるような雰囲気を出していた。
見ているだけで嫌な汗が出てくる。周りの三人も同じ様子だった。
うん、あれだ。これは……魔王城だ。
同じタイミングで俺達三人はクロエの方へ振り向く。
クロエは頬をポリポリと掻き、
「あっれぇ、おかしいな?」
プッチーン。
「誰だぁ! コイツに地図待たせた奴! 地図を持ってさえ道を間違えるのか!? クソ、そういえば地図待たせたのは俺だった! なーにが『魔王城からは離れているから大丈夫だとは思うが』だ、その魔王城に来ちまったじゃねぇか!」
「こ、こらタケル静かにしろ! 誰か出てくるかもしれないだろ! ここは静かに去るのが一番だ!」
「魔王城よ魔王城! どうすんのよ、どうすんのよ!?」
「仕方ありません。……突撃しますか!」
慌てふためく四人パーティで魔王城の前がギャアギャアと騒がしくなる。一人だけおかしなこと言っていた気がするが気にしない。
クロエへの文句が言い足りない俺が改めて罵ろうとしたその時、
「あらあらあら、騒がしいと思ったら珍しいわ珍しいわ。勇者様御一行かしら?」
首筋をザラリと舐めるような冷たい声。俺達は声のした方を振り向く。
サキュバスを思わせる妖艶な肢体に、フワフワの黒髪。いつもならこんな美人に声を掛けられたなら元気よく返事をしたのだろう。
しかし、相手から向けられる敵意がそれを邪魔する。
「
歯を食いしばりながらクロエが呟く。
「あらあらあら、魔女だなんてひどいわ。こう見えてもただの
下卑た笑みを浮かべて笑うリッチー。思わず冷や汗が流れる。
「あらら、私としたことが自己紹介を忘れてたわ。魔王軍幹部の……メアよ。よろしくね」
–––魔王軍幹部、俺達中級冒険者が出会うはずの無い、出会ってはいけない大物。それが目の前にいる。
いつもはふざけているケイでさえ拳をギュッと握りしめて、その瞳には不安が浮かんでいる。
その場に凍りついている三人に俺は冷静に囁く。
「……俺が『転移』を使うからお前らもっと近づけ」
その言葉にクロエとケイがジリジリと近づく。しかし、ミーアだけが魔女を見据えて動かない。
「おいミーア! 早くしろ!」
「あら、あらあらあら。逃げるのね、良い判断よ。だけど少し遅すぎたかしらッ!」
ニヤリと笑うメアが細い指をこちらへと向けた。
「……『
指先から放たれた炎は今までに見たことの無い規模の物だった。
クソッ、間に合わない!!
「『
迫り来る業火は俺達の……、正確にはミーアの少し手前で何かに弾かれるようにして進路を変えた。
「ミーア、……お前」
後ろからは顔が見えなかったが、その背中は今までのミーアではなかった。俺が、俺達が今までに見たことが無いミーアがそこにはいた。
「あらら、もしかしてあなたミーアかしら? 久しぶりだわ久しぶりだわ。私、嬉しいわぁ」
ミーアは構えていたワンドをゆっくりと下ろして、
「久しぶり、お姉ちゃん」
そう、静かに呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます