2.やっぱり俺達はまだまだ弱い その1




前回のクエストでレベルが二つほど上がった。

これで俺のレベルは31となった。そのむねを皆に伝えると、


「良かったじゃないか、中級冒険者になったばかりでレベル30越えは凄いと思うぞ!」

「まだまだねぇ。まぁ、タケルにしては頑張ってるとは思うわよ」

「マスター、私はレベルが3つ上がりました。褒めてください!」

「ちょっとケイ! なんでそんなに上がってるのよ! 私なんて一つも上がらなかったんですけど!」

「落ち着けミーア、私もレベルは上がっていない。ケイはトドメを刺したのでその分、経験値も多かったのだろう」


またもやギャアギャアと騒ぎ出した三人に俺は質問を投げかける。



「ところでお前ら。今レベルはどのくらいだ?」



その言葉にクロエとミーアがビクッと体を震わせる。


「私は22です。レベルが上がったおかげで新たなスキルを3つほど覚えました、褒めてください!」

「はいはい、偉い偉い」


自信満々に自慢するケイの頭を適当に撫でつつ、顔を二人へと向ける。

サッと顔を背ける二人の内、反応が遅かったクロエの方に声をかける。


「クロエ、お前レベルどのくらいだ?」

「わ、私か!? タケル、人間というのはレベルが全てじゃないと思うんだ。という訳であまりレベルは気にしないほうが……」

「レベルはいくつだ?」


三度問うといつもの凜とした声はどこへやら、弱々しい声でクロエは答えた。


「……15だ。でも聞いてくれ! レベルはあまり上がらなかったがスキルの熟練度はかなり上がったぞ! 『攻撃力↑』と『両手剣』のスキルはほとんどマックスだ、強力な一撃が放てるぞ!」

「その強力な一撃が当たらないんだろ! お前は動かない標的にも五回攻撃して当たるかどうかだろ!」

「そ、そこまでではないが……」


ひとしきり口撃こうげきをしてクロエを半泣きにさせてミーアに顔を向ける。


「お前はどのくらいよ?」

「え、……えと、レベル……9です……」

「あぁ!? 聞こえないなー! もっと大きい声で言ってみろ!」

「レベル9よ! 悪い!? 魔法が打てないんだから仕方ないじゃない!」

「こいつ開き直りやがった! レベル9ってことはそこそこスキルポイントも貯まってるだろ、それ使えば精霊無しで魔法が使えるんじゃないか?」


魔法を自在に操るウィザードは初心者の頃は魔力を上手く扱えないため、万物に宿る精霊達の力を借りる。


しかし、スキルポイントが貯まり使える魔法が増えると精霊無しでも良いと聞いたことがあるのだが……



「無い」


ん? コイツなんて言った?


「俺の聞き間違いかな。何が無いって?」

「スキルポイントよ。もう使った」


なぁんだ、そういう事か。ビックリさせやがって。


そしてミーアはいたずらっ子っぽく笑って言った。


「『精霊の加護』に全振りしちゃった☆」


一瞬、世界が止まったように思えた、いや実際俺の中では止まってた。


「はぁぁああああ!? お前バッカじゃねぇの!? 『精霊の加護』に全振りって、お前はその精霊が扱えないんだろうが!! 加護もクソもあるか!」

「な、なによ! 私だって役に立とうと思ってやってるのにその言い方はないんじゃない! うわーん! どうせ私はアホですよバカですよー!」


またもや俺の口撃こうげきによってミーアを泣かせて頭を抱える。チラリとケイを見ると、話に飽きたのかスヤスヤと寝ている。


今や酒場の一席でクロエとミーアは泣き、ケイは眠って俺は頭を抱えるという地獄さながらの構図になってしまった。


そこへ、


「久しぶりねケイ! さぁ、そろそろ決着をつけようじゃないの!」


煌びやかな金色の短く切り揃えられた髪に小麦色の肌。ヘソ丸出しの服に身を包んだ少女がケイへと話しかけてきた。


「我がライバル、ケイ。さぁ、いざ尋常に勝負……って何寝てんのよ! 起きなさいよ、起きて!」


机をバンバンと叩いてケイを起こそうとしているが、一向に起きる気配がない。

すると、少女は顔を赤くして泣きそうになったので起こしてやることにした。


「おい、ケイ。ディスベアちゃんが来てるぞー、起きろよ」

「……やめてぇ、ますたぁ、みんな見てますよぉ、こんなところでぇ……ハッ!? ……なんだ、夢か」

「お前の夢の中の俺は何をしてるんだ」

「マスター、そんな事を私の口から言わせるのですか」

「何の話をしてるんだお前は……。ほれ、ディスベアちゃん来てるよ。お前に用があるみたいだぞ」


ケイが目を覚ますとディスベアは途端に顔を輝かせて「フッフッフッ」とか笑ってる。

そんなディスベアを見てケイが一言。


「誰ですか?」


おーっと小首を傾げる仕草が非常にわざとらしい。


「わ、忘れたとは言わせないわよ! あなたの永遠のライバルにして戦友、ベアちゃんことディスベアよ! 同じ盗賊職なんだから覚えなさいよ!」

「あぁ、私のライバルを自称するクマちゃんですか。あと私は盗賊ではないです暗殺者アサシンです」

「じ、自称じゃないからライバルだから!」

「それで、何の用ですか? 私こう見えて忙しいので」

「寝てたよね! 今寝てたよね!?」


なんていうか、その、不憫ふびんだなこの子。

ケイはディスベアを面倒臭そうにシッシッと払うが、ディスベアはまったく食い下がらない。


「ま、まあいいわ。さぁ私と勝負しなさい!」

「嫌です」

「即答!? こ、これを見ても言えるのかしら?」


ディスベアは不敵に笑うと一枚の紙を取り出した。

一見すると何かの地図のように見える。


「これは何だいディスベアちゃん?」

「あ、タ、タケルさん!? え、えと。こ、これは食べるだけでレベルが上がると言われる『レベルだけ』が大量繁殖している場所の地図……です」


そう言ってディスベアは目を逸らしてモゴモゴと話す。……どうやらまだ俺には慣れてくれないようだ。


出会ってから結構経つけどな……。まぁ、こればっかりはディスベアちゃん次第だから気長に待つか。


「こ、これを賭けて勝負よ! この地図は冒険者なら誰もが欲しがる……」

「いらない」

「また即答!? どうして! 『レベル茸』の地図だよ!?」

「レベルを上げる必要が無いので」

「そ、そんなぁ……」


……いや、待てよ。レベル茸を大量に手に入れらたなら、このパーティの大幅なレベルアップが見込まれるぞ! それなら俺の負担も減る! こいつら三人もマトモになってくれるかも……!?


「よし、ケイ。勝負して全力で奪ってこい」

「イエッサー、マスター」

「切り替え早ッ!? ま、まぁいいわ。今日は何する? いつも通り組手でもする?」


心なしかディスベアの顔がキラキラして見える。

もしかしてこの子、仲良く遊びたいだけじゃ?


「そうですね。それなら私があなたから地図を奪う、というのはどうでしょうか? 盗賊らしくていいでしょう」

「そのルールでいいわよ。それじゃあ表へ行きましょう!」


俺も付いて行こうかと思ったが、いつの間にか泣き疲れたのか寝ているクロエとミーアを置いて行くわけにはいかないので残ることにした。


「マスター、すぐに終わらせてくるので」


そう言い残して、ケイは席を立つ。

ズンズンと歩くディスベアの後ろを気怠げに歩くケイを、俺は酒場の一席で後ろから見守っていた。




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