13.やっぱり幹部はまた来る その3


心地の良い、涼しい風が吹く。青く澄んだ空には鳥が飛んでいる。


そんな空の下で、血生臭い戦闘が起きているとも知らずに。


辺りでは、正気を失った冒険者達が仲間達に斬りかかっている。仲間に対して攻撃出来ない冒険者はただ防御に徹するのみで、徐々に体力を奪われていく。


一部の冒険者は覚悟を決めたのか、正気を失った仲間に峰打ちで攻撃をし、動きを止めている。

それでもやはり心苦しいものがあるのか、その表情は決して良いものではない。


そんな殺伐とした戦闘の中、俺達はというと……。


「「「さいしょはグー、ジャンケンポンっ!」」」


–––幹部と戦う順番を決めるためにジャンケンをしていた。


「よっしゃあああ!」

「やったぁぁ! 私はセーフよぉぉ!」

「くっ、本来なら私が戦うべきなのに……」


三人がパーを出す中で、一人だけグーを出してしまったケイが先陣を切ることになった。


「ケイ無理はするなよ、後ろには俺達がいる。ヤバいと思ったら下がれよ、いいな?」

「分かりましたマスター、私が相手の技や力を見極めます。しかし、マスター……」


そこでケイは言葉を途切れさせて、満面のドヤ顔でこう言った。


「私が、アイツを倒してしまっても良いのでしょう?」

「お前が言うと三下のセリフに聞こえるな」


俺の言葉に腹を立てたのか「もういいです」と言い、ブランドリーの元へと向かう。


俺達がジャンケンをしてる間も律儀に待っていてくれた魔王軍幹部のブランドリーは、「やっと来たか」と呟いて長剣を構える。


ジリジリと武器を構えたまま睨み合うケイとブランドリー。

初めに動いたのはブランドリーだった。


たった一歩でブランドリーは間を詰め、頭上から剣を振り下ろす。

ケイはそれを横へ避けながら瞬間的に短剣を突き出す。


「ッ!!」


当たると思われたその一撃は、ブランドリーの鎧の籠手によって弾かれる。ケイは弾かれた勢いを利用し、再びブランドリーと距離を取った。


そしてまた、睨み合いが始まる。


「……なにこれ、この戦いレベル高いんですけど。え、ケイってこんなに戦えるの? 魔王軍幹部と五分五分って頭おかしいんじゃないの?」


戦闘のレベルの高さに頭が追いついていないミーアがぼそぼそと呟く。


「……だがダメだ、ブランドリーはまだ本気を出していないだろう。それに経験でもあちらが上だ。それを埋めるためには何か虚をつく作戦でもない限り……」


歯を食いしばりながらクロエがそう言う。クロエの言う通り、このまま戦ってもジリ貧だ。……何かしないと。


そんな事を考えているとブランドリーの鎧が青白く輝きだす。


「ケイ、気をつけろ! 服従の呪いがくるぞ!」

「安心してくださいマスター。私のレベルになるとあんな直線的な攻撃……」

「我が鎧に命ず、あの者を屈服させよ!!」

「あああああああああ!!!」

「ほらぁぁ! 言ったそばから!」


注意したそばから服従の呪いをまともに受けてしまいやがった。青白い光に包まれたケイは、力無く腕をダランと下げて俯く。


「フッ、少しは出来る奴だと思ったが、所詮は駆け出しの冒険者よ。さぁこちらへ来て、邪剣を差し出すが良い!」


その叫び声が響くと、ケイはゆったりとした足取りでブランドリーの元へと向かう。


「くそッ!!」


俺は腰の長剣を引き抜いて駆け出そうとするクロエを制止する。


「タケル! 何故止める!?」

「まぁ、待て。……それよりもミーア、『ファイアボール』の詠唱を始めていつでも放てるようにしておけ!」

「わ、わかったわ!」


納得のいかない顔でクロエは後ろへと下がるが、剣は未だに構えたままだ。ミーアは焦りながらも詠唱を始め、徐々に魔力を高めている。


そんな俺達の様子を見て疑問に思ったのか、ブランドリーは急に命令を変えた。


「待てッ! すぐに下がるのだ! 仲間が危機に晒されているというのにあの余裕……、何かあるに違いない!」


–––が、時すでに遅し。


俯いていたケイがその手に握っていた邪剣をブランドリーへと放つ、邪剣はブランドリーの首へと真っ直ぐに飛んでいく。


さすがは魔王軍幹部、反射でそれをスレスレで避ける。–––しかし、ケイの方が上手うわてだった。


反射で避けてしまったためにバランスを崩したブランドリーの片足を思い切り蹴り払う。

倒れそうになったブランドリーは片手を着き、半回転して体勢を立て直す。そんなブランドリーが見たのは……片手を突き出すケイの姿だった。


「『バインド』ッ!」


ケイの手から放たれた白い稲妻は、ブランドリーの鎧へと直撃した。鎧へ当たった稲妻は瞬間的に拡散し、ブランドリーの全身へと広がる。


「く、盗賊スキルか!?」


『バインド』によって身動きの取れなくなったブランドリーは、どうにか抜け出そうと体を動かそうする。が、こちらから溢れ出す強大な魔力を感じて顔を上げる。


詠唱を終えたミーアが今まさに放たんとする魔法に、戦場の誰もが釘付けとなっていた。


「こ、これは…、『焼却バーニング』か!?」


巨大な火球が煌々こうこうと輝いており、その下ではミーアがドヤ顔で立っている。

ケイから「スキルの効果が切れないうちに……」とかされると、決めゼリフのように言いながら魔法を放つ。


「残念でした♪ ただの『ファイアボール』です!!」

「そんなバカデカい『ファイアボール』があるわけ……ぎゃあああああああああ!!」


喋っている途中だったが、火球はブランドリーへと落ち地響きが鳴り響く。


ブランドリーが居た場所には大量の土煙が舞い、何も見えなくなる。


気付くと周りの冒険者達はこちらの戦いを遠巻きに眺めていた。

どうやら呪いを受けた冒険者達の制圧は終え、一人当たり数人の冒険者達で抑えつけているようだ。


「や、やったか!?」

「さすがの魔王軍幹部でもこれじゃあ……!!」

「ちょ、バカ! 誰だフラグ立てまくってるのは!?」


そんなやり取りをしてると、土煙の中からくぐもったような笑い声が聞こえてくる。


ようやく土煙が晴れるとそこには、無傷のブランドリーが立っていた。


ほらぁ! 見事なフラグ回収じゃん!!


「まさかアレを避けたのですか? しかし、私の『バインド』の効果はあと数秒は続くはず……」


悔しそうにボソリとケイが呟く。

その姿を見て、ブランドリーは堪え切れないといった風にまた笑いだす。


「クックック、さすがに今のは驚いた。だがしかし、悲しいよな。これがレベル差というやつだ……」


俺は少し前に会得した『鑑定』スキルを使い、ブランドリーを見る。


ブゥーンという低い音と共に視界が薄い青になる。


–––レベル25


オオカラスとの戦闘やその他のクエストで前回よりは多少レベルアップはしている。しかし、


–––レベル63


圧倒的だ、その差は約三倍ほどもある。

これだけレベル差があると、単純な能力だけではなく魔法やスキルと言ったものでさえ武術の達人と素人ぐらいの差が出てくる。


つまり、ケイの決死の『バインド』は力づくで破られたのだ。なんという脳筋。


だけど……、それならミーアとのレベル差もかなりあるはず。それなのに、何故避けたのか。


–––それがレベル差をもってしても耐えることのできない攻撃なのだとしたら?


「さて、それではどう料理してやろうかな」


長剣を構えてこちらへブランドリーは歩み寄ってくる。


そんなブランドリーに気付かれないように俺はミーアに囁く。


「ミーア、魔法はもう放てないんだよな?」

「ええ、もう魔力がカラッカラよ。アリほどの魔力も残ってないわ」

「もし、もう一度放てるとしたら今度こそアイツを倒せるか?」

「……そりゃ当たり前よ! 今度こそは木っ端微塵にしてやるわよ!」


その返答に俺は頷く。


そして、この場を任せられそうな仲間に声をかける。


「俺は一旦後ろまで下がるからその間ブランドリーの足止めを頼めるか、クロエ」

「無論だ、私はナイトなのだからな。仲間の背中ぐらいの守ってやるさ」


そう力強く答え、長剣を構えてブランドリーの前へと出る。

クロエの実力なら俺が戻ってくるまで足止めくらいなら出来るだろう。


そして、もう一人。


勝機を見出させてくれた仲間に声を掛ける。


「よく頑張ったな、ケイ。お前のおかげでこの戦い–––勝てるぞ」

「ですが、私は何も……」

「そう思ってるのはお前だけじゃないんだぜ〜。俺なんか今回あんま活躍してないし! だから、これから見せてやるよ。俺の大活躍を!」

「……はい。楽しみにしてますね!」


うん、いい笑顔だ。


それぞれの仲間にこの場を託して、俺は戦場の後方へと駆け出した。




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