12.やっぱり幹部はまた来る その2




鋼と鋼が打ち合う音が至る所から聞こえる。

武器や盾を持つ冒険者達がアンデットナイトを次々と相手にしているがそれも効果は期待できない。

死霊系のモンスターは既に命は無い為、物理攻撃で仕留めることは出来ないのだ。


本来ならプリーストの扱う退魔魔法や浄化魔法といった聖属性の魔法が効果的なのだが……


「くそっ! こいつら全然効きやしねぇ!」

「ダメだわ、私のレベルじゃはらえない! もっとレベルの高いプリーストはいないの!?」

「バカ! こんな始まりの街にいるわけねぇよ!」


あちらこちらから飛び交う叫び声の中、ジリジリと冒険者達は後退を始める。


「くそっ! 誰かギルドへ行って応援要請してきてくれ!」

「もうやったさ! だけど『ドラゴン討伐のクエストに向けて全上級冒険者が王都へ派遣されてるから早くて三日はかかる』なんだとよ! そんなに待てるか!」

「ちくしょう! なんだってこんな魔王城の近くに始まりの街なんてあるんだよ!」

「おい! それは言わないお約束だろ! うわっ!」


悲鳴にも近い叫び声をあげる冒険者達の様子をブランドリーは離れて静観する。

その無機質な瞳の炎には慈悲など存在していなかった。


「私の目的は邪剣の奪還だけだったのだが、まぁ丁度良い。魔王様にあだなす冒険者達をここで蹴散らすのも、また一興よな。それはそうと……」


ブランドリーは静かに俺達の方へと顔を向けた。

街中の冒険者達が必死に戦っている中俺達はというと……。


「わぁぁあ!! こっち来んなよミーア!」

「だってだってケイが来るんですもの!! きゃあ〜あ! ケイ来ないでよー!」

「マスター、ミーア、一蓮托生いちれんたくしょうという言葉があります。私達はいつでもどこでも一緒、です」

「「今だけは無理!!」」


物凄い勢いのアンデットナイト軍団を引き連れてきたケイから、俺とミーアは必死に逃げ惑っていた。

俺は、あと一人のパーティメンバーはどこかと逃げながら戦場へと目を走らせる。


すると、少し離れたところに長剣を力強く振って戦っているクロエを見つけた。


しかし、


「はあっ! せぇいやぁ! おりゃあ!」


全ての攻撃は空を切り、僅か二メートル弱離れた敵にすら当たっていない。


クロエを取り囲んでるアンデットナイト達は、自分に向けられた攻撃がことごとく当たらずに空や地面に向けられて困惑している。


「あのナイト、何をしている? まさか、何かを狙って……?」


静観していたブランドリーがフム、と顎に手をやり思考を巡らせる。……クロエがただの方向音痴とは知らずに。


–––やだもう! 俺のパーティメンバー恥ずかしいのばっかり!


思わず顔を隠したくなる気持ちを抑えて、戦場を見渡す。


魔王の加護とやらでアンデットナイト達は聖属性の魔法が効きにくくなっているらしい。となれば、それはブランドリー自身も例外ではないのだろう。


死霊系モンスター、他に弱点はなかったか? 思考を巡らせるが、ゲームやファンタジーに関して知識が豊富な方ではなかったので何も思い浮かばない。

すると、ミーアが。


「もうこうなったら私の魔法で……」

「やめろアホ! お前の魔法は範囲が広すぎる! 他の冒険者達も巻き込んじまうぞ!」

「じゃあどうすんのよ〜! 私まだこんな所で死にたくないんですけどぉ!!」

「泣くなよ! 転ぶぞ!」

「だってだって〜! ……ぶべっ!」


隣で走りながらわんわんと泣き始めたミーア。俺の言ってしまった言葉がフラグとなってしまったのか、ミーアは見事に転んで見事に顔から地面に着陸した。


「うへ〜〜、砂が口に入ったぁ〜」

「ミーア!!」


そんな事を言って座り込んでしまったミーアの後ろには、ケイを追いかけていたアンデットナイトの軍団が迫っていた。


俺の叫び声で、迫ってくるアンデットナイトの軍団に気づいたミーアは、顔を青くしてその場から逃げようとする。しかし、腰を抜かしてしまったのか上手く立てないといった感じに何回も転ぶ。


–––やばい、このままじゃ……!


俺は咄嗟とっさに、使える魔法をでたらめに繰り出す。

口早に詠唱を繰り返し、素早く魔法を放つ。今の俺なら早口言葉とか噛まない気がする、生麦生米生卵ォ!!


「えぇっと、『サンダーボルト』! 『ウォーターショット』! 『ウィンドカッター』! あとは……『ファイアボール』!」


すると、俺が放ったでたらめ魔法の一つが効果を表す。


一体のアンデットナイトの衣服を燃やし、それが体中へと広がる。すると、ガラスを引っ掻いたような悲鳴を上げて、アンデットナイトがのたうちまわり始めた。


何が起きたのか分からず立ち尽くしていると、一瞬立ち止まっていたアンデットナイトの軍団が標的を俺へと変更して襲いかかってきた。


さっきの現象を確証へと変える為に、俺は魔法を放った。


「『ファイアボール』! 『ファイアボール』! 『ファイアボールゥゥ』!」


一体のアンデットナイトが燃え、それが隣のアンデットナイトへと延焼して広がっていく。


「すごい! すごい! まるでアンデットナイトがゴミのようだ!」


思わず俺はどこぞのラピ○タ王のようなセリフを吐いていた。


数十秒後には、俺達を追いかけてきたアンデットナイト軍団は跡形もなく燃えかすになっていた。


僅かに見えた勝機の光に思わずニマッと笑う。


一部始終を見ていた俺と仲間達は顔を合わせ、大きく息を吸い込んで叫んだ。


「「「燃やせぇぇえ!!!」」」














先ほどまでの劣勢が嘘のようにアンデットナイトナイトの軍団が数を減らす。


「「「『ファイアボール!!』」」」


ウィザードの冒険者達は横並びとなって一斉に魔法を放つ。

先ほどの俺が放った『ファイアボール』とは段違いの威力を持った火球が、アンデットナイトの軍団へと襲いかかる。


一体、また一体とアンデットナイトが数を減らす度に、冒険者達から歓声が上がる。


しかし、アンデットナイトが全滅の危機にあるというのにブランドリーは未だに静観を続けている。そして、その口を開く。


「我が軍勢を破るとは、下級冒険者達と侮っていたな。それでは……私が出るとしようかッ!!」


腰の長剣をスラリと引き抜きながら、ゆっくりとこちらへ歩み寄って来る。


すると、


「俺に任せな! ようやく魔法剣士の実力を見せるときが来たようだな!」


冒険者の中から勇気ある冒険者、あるいはただのバカが飛び出した。金髪のそいつは腰に下げている袋から、小石のようなものを一つ取り出して剣を引き抜く。


「勝算はあるのか、テイン?」

「まぁ、任せなって」


テインは右手でショートソード、左手で魔石を握りしめてブランドリーと対峙する。


「俺のカッコいい所見せてやるぜ! 食らえ、『ファイアボール』!」


左手の魔石を突き出し、魔法を放つ。魔石によって肩代わりされた魔法がブランドリー目掛けて飛んでいく、が。


「フム、魔法剣士とやらの実力はそれだけか?」


ブランドリーはまるで虫でも飛んで来たかのように、火球を指で弾いた。


「まさか、今のが実力とは言わないだろうな?」

「へ、まさか! みなさーん、やっちゃってくださ〜い!」


テインの後ろで待機していたのか。大勢のウィザード達が一斉に『ファイアボール』を放つ。


–––き、汚ぇ! 一対一と思わせといて大勢で攻撃だと!?


相変わらず残念なテインを横目で見ながら、内心ホッとする。さすがに幹部といえど、これでは……。


次々と放たれる火球に包まれ、ブランドリーは火の柱となっている。


「ハッハッハ! さすがに幹部でもこれでは無事では済まないだろう! 俺達の勝ちだぜ!」

「あ、バカ! そんなフラグみたいなこと言ってんじゃねぇ!」


三流のようなセリフを吐いたテインを怒鳴ると同時に、ブランドリーを包んでいた火の柱が掻き消えた。


文字通り、掻き消えたのだ。


先ほどから一歩も動いてないブランドリーは、嘲笑を含んだ笑い声を高らかに上げた。


「クハハハ! よもやこの程度の冒険者達しかいないとはな! 機転はきいても実力が備わらなければ意味がないということか!」


無傷、まるで無傷のブランドリーが立っている。先ほどの魔法などまるで無かったかのように笑っている。


「クックック。私を倒したければ、そうだな。『焼却バーニング』くらいの魔法でなければな?」

「ふ、ふざけるな! そんな上級魔法を使える冒険者なんてこの街にいねぇよ!」


「マジかよ」や「そんなの無理だろ」と悲痛な声を上げる冒険者の様子を見て、ブランドリーはニヤリと笑う。


だが、そんな中。


「俺は諦めないぜ!」


握りしめたショートソードを構えてテインが飛び出した。

放った横薙ぎの一閃は簡単に止められてしまったが、テインは手を止めない。


様々な角度から次々と攻撃を仕掛けるが、どれも長剣で弾かれてしまう。


「剣筋は悪くない、が。上からの攻撃の際に脇腹が空くぞ。……このようになッ!」


隙だらけとでも言うかのように回し蹴りを繰り出し、テインの脇腹へと直撃する。


後ろへと吹っ飛ばされたテインは、数メートル転がり動かなくなる。


「テイン!!」


動かないテインの元へ駆け寄り、脈を確認する。……大丈夫だ、生きている。

あばらは完全に折れており、戦線復帰は難しいだろう。


俺はプリーストの冒険者にテインを任せ、また前へと戻る。


すると、既に何人かの冒険者とブランドリーが交戦していた。だが、囲まれても尚、全ての攻撃を弾き、防いでいる。


「そうだな、このまま全滅させてしまっても面白くないので、こうしようか」


ブランドリーはバッと後ろへと跳ぶと、さっきまで交戦していた冒険者達へと手を伸ばす。


そして……。


「我が鎧に命ず、あやつらを屈服させよ!」


ブランドリーがそう叫んだ瞬間、ブランドリーの鎧が青白く輝き始め、その光が手から冒険者へ飛んでいく。


その光を浴びた冒険者達は少しの時間苦しそうに呻き、そしてこちらへと向き直る。


「我がしもべとなりし人間よ。まずは仲間同士斬り合うが良い!!」


その声と同時に、正気を失った冒険者達が襲いかかってきた。


俺は即座にミーアの前に立ち塞がり、冒険者を迎え撃つ。離れた所でケイも戦っているようだ。


クロエは「かかってくるが良い!」とか叫んで構えてはいるが、誰も来ないので半泣きになっている。


正気を失っているとは言え、面倒な奴の相手はしたくないようだ。


周りの冒険者達は混乱し、かつての仲間達を攻撃できずにいる。


これは呪いの類だろう。服従の呪いを掛ける呪鎧じゅがいなる物があると聞いたことがある。


奴が叫ぶと同時に鎧が光っていた。ならば、この混乱を収めるためには……。


と、俺と対峙する冒険者が突然横へと吹っ飛んだ。


「ここは俺達で足止めをする! 今のうちにお前達が幹部を!!」


その体躯に見合うほどの棍棒を構えてハンスが叫ぶ。

それに合わせて「任せろ!」や「先に行け!」などと周りの冒険者達が叫んで道を切り開いてくれる。


何という素晴らしい仲間達だ、と普通なら思うのだろう。

だけど、俺はこいつらと付き合いが長い。考えていることなど容易に想像できる。


「お前ら幹部がめんどくさいから押し付けようとしてるだけだろ!」


その言葉に周りの冒険者達が一瞬体を震わせて、下手くそな笑顔をこちらへと向ける。


「はぁ、まったく」


ため息を吐いて、俺のパーティメンバー達の顔を見る。……どいつもこいつもやる気満々かよ。


「……ったく、しょうがねぇなー!!」


俺はパーティメンバー達を引き連れてブランドリーの元へと駆け出した。

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