第18話 網戸、開けた

 お。


 お!


 サッシに足かけて――


 立ち上がった!


 ……止まった。


 段差か? 段差で気後れするんか?

 にしても、ちっこい。

 ギリギリで顔覗かせ――


 飛んだ!


 飛び上がって、入った!

 入って来よった!

 やった!




 いや、いやいや、まだや。




 身ぃ低ぅして見回しとる。


 低い位置から頭下げて――

 撒いた餌ひとつ、食うた。




 ――来い。


 手ぇ汗ばんできた。


 子猫は、ちょっと進んで餌を食う。




 ――来い、来い。


 並んだ餌のゴールは、わしの手の上。

 左手の甲、床に押し付けた。


 子猫は、またちょっと進んで餌を食う。


 前に来た。


 めっちゃ躊躇して――






 食うた!


 ちょろっと舌が触れよった!






 何やこのこそばゆさ。

 腹ん中がこそばゆい。

 アカン、震えそうや。

 せやけど動いたら、びっくりして逃げてまう。


 思てたら、にらめっこになって――




 身ぃ低ぅして匂い嗅ぎながら、ようよう子猫は部屋の奥に進んでいった。


 わしが勝ってもたんか?


 わからんけど――




 そおっと立って抜き足差し足で、静かに網戸を閉めて。

 ほんで、元いた場所に座った。




 止まっとった息、吐いた。









 よっしゃ――









「出たがってる。出したげえや」


 娘の声。




 子猫が、網戸を掻いとった。






 嫌なんか。






 わし、網戸、開けた。











 ――出た。

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