第19話 ちっさい家になった











 これは、






 こういうのは、









 どういうのや?









 何か考えとるような、ポキっといってまいそうな細っこい背中の骨が。

 何も考えてへんような、戸棚の奥のホームランボールよりちっこい後頭部が。


 窓のすぐ下、斜めに座って、動かへん。




 見下ろしたまま、わしも固まった。

 怖がらせんよう手ぇ伸ばして網戸開けて、斜めになったまま。




 脇腹が。

 攣る。




 思た途端。




 向き変えて、足かけて。

 しれっと、そろっと。

 わしの顎から落ちていく冷汗の横、子猫はすり抜けた。









 は、





 は、






 入った。










 今の見たか。




 何もしてへん。

 自分で入った。


 文句ないな、て娘に目ぇやった。娘――

 帰り支度しとった。




「……もうちょっとで着くて言うてるし、出て歩いとく」




 何や。

 連絡、来たんか。

 婿、迎えに来とるんかいな。




「言うとっけど、今までみたいに何でも出しっ放しにしたらアカンで! 輪ゴムとかヒモとか! 食べて死ぬこともあんねんから!」


 拍子抜けたわしの顔を睨んで、娘は出て行った。









「それで片付けてたんか、姉ちゃん」


 息子が言うた。




 落花生の殻、いつの間にかなくなっとった。




 足元に目ぇ落とす。


 子猫が、低い姿勢で座っとった。

 どうしてええか分からんみたいに。




「……分かっとるわ」




 四つん這いでかぶさって、わし、ちっさい家になった。

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