第20話 初めて呼んだ

 キャリーバッグは、背負うのんを買うといた。ボストン型の。


 失敗やった。


 苦労して入れて、よっしゃ、て腕通そうしたら鞄が斜めんなって、中でちっさいんがガサガサ言うてぐちゃぐちゃなりよる。

 背負う時どうなるか考えてへんかったわしがアホなんか。中のちっさいんがちっさすぎるんか。

 しゃあないから、前に抱えて肩ひもに腕通してん。


 太鼓抱えたチンドン屋か思いながら、足元見えへんしこけそうなって靴履いて、ほんでチャリ乗った。




 にゃー。


「何や」




 通行人が、ちっさい声聞きつけてわしを見よる。

 見せもんちゃうど。




 にゃー。


「もうすぐや」




 怖がっとるけど、見てもらっとかなアカンからな。

 動物病院、もうすぐや。




 にゃー。


「大丈夫や」




 不思議なんや。

 家にはもう何年もわし一人やってん。せやのに娘が来て、息子も来て、そこにお前が加わった。

 よう分からんもんを感じたんや。お前に。

 せやから。

 お前が大きい病気抱えとってもな。

 心配ないど。 

 大丈夫や。


 わしのとこで、死ぬまで好きに生きたらええ。









 なんとなし、どっこもどうもなさそうやけんど。









「これ書いて下さい」


 受付で用紙渡された。住所やら何やら書くやつ。

 そこに初めての欄があった。

 名前。

 人間やのうて、動物のんを書くとこや。


 わしの頭に、あの姿が浮かんだ。

 多分ずっと忘れへんやろう、あの姿が。


 あれ見た時から、決めとったんかもしらん。

 わし、いっとう丁寧に書いてから、鞄の隅で震えとるちっさいんを初めて呼んだ。






「ふみ」



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