わしとふみ

鷹山雲路

第1話 飼いたなってもうた

 わし、六十二年、犬派やった。

 犬はええ。昔、うとった。呼んだら尻尾ようけ振って、お腹見せて喜びを全身で表しよる。「待て」言うたらよだれだらだら垂らして待って「おて」「おかわり」「ふせ」ちゃんと聞いて「よし」でどんなけ飢えてたいうぐらいにがっつくねや。

 かわいいやないか。わかりやすいやないか。


 せやけど猫は、よそんちのやつをちょっと触ったことしかあれへんけど、あいそない。もっとハアハア言うてベロベロ舐めて尻尾ブンブン振らんと、わかれへん。

 やっぱり犬は人について、猫は家につくんや。


 そない思とった。




 あいつのせいやな。




 同僚の魚住は、魚いうくせにアホほど猫を愛しとった。

 あいつが来る日も来る日も飼うてる六匹の猫の話を聞かせ、携帯の写真を見せ、動画を見せ、何やじゃがいものメークインみたいな名前の猫を飼いたい言いまくって「七匹もうてどないするんじゃ」て毎日わしに突っ込ませ続けたからに違いあらへん。


 あいつ今どないしてんのか。メークインうたんかな。

 わしもあいつも定年退職してうてない。


 責任とって、魚は猫に食われてまえ。




 わし、猫、飼いたなってもうた。

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