第14話 飛ばした

 思い出したみたいに、悪い夢見て目ぇ覚めたみたいに、昼間も夜中も子猫は鳴いた。


「どないした」

「ここにおるど」

「大丈夫や。な」


 穴に一番近い居間の腰窓から、その都度わしは返事した。

 ほんなら鳴き止みよるのが、何とのう、わしを警戒して気配を消したからやないような、わしの声でちぃとは安心したんやないかいうような。


 そんな気ぃになった。


 せやけど。




 きっと、多分な、あの必死な声は、お母ちゃんを呼んでんねん。




 はぐれたんか。

 巣立ちの時期が来たんか。

 それとも、捨てられたんか。




 わしには分からへん。









 せやから落花生むいて、食う。











 居間の端っこで。











 昨日、ごっつい勢いでハゲていった庭に目ぇをやり、取って返して、ものごっつい勢いで部屋を片しとる娘の横顔を盗み見る。




 わし、若い時あの顔した嫁はんに何か言うて、えらい目見た。




 困った。

 婿は何やってんねん。迎えに来んかい。

 て、わしが口出すんもな。


 そうかて、外出てほとぼり冷まそうにも、いやほれ、もし鳴いて誰も答えへんかったらやな。

 何やその、おっさんの声でも鳴き止みよるから。

 ほんなら、ここおったらなアカンやろて。


 な。




 思てたらよじれとったんか知らん、玄関の開いた音で、わし、飛ばした。

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