第11話 掃き出し窓から駆け込んだ

 草刈り嫌いなくせに。

 帰りゃええもんを。

 誰に似てん。

 へんこが。




 あー、腰にくる。




 昨日の声は、ちょっとしたら止んだ。


 どっか行ったんやろ。

 どっかでうまくやっとる。

 そんでええ。

 そんで――






 近い。






「お父さん、これ昨日の」


 立って一歩、二歩。

 塀と家に挟まれた、人が何とか通れる隙間を覗いた。

 5メートル先におったのは、黒と茶がまだらの――――






 子猫や。






 にゃー。


 子猫はダミ声で鳴いた。






 わしに、鳴いた。






「にゃー」


 気ぃ付いたら高い声で、わし、ないとった。




 にゃー。


「にゃー」


 こっち来ようとしては尻込み、進んでは後ずさりする。


 怖いねや。

 怖いけんど、一匹で、もうどうしょうもなくなってんねや。


 にゃー。


「にゃー」


 来い。

 怖ないど。

 そうや、こっち来い。


 にゃー。


「にゃー」


 大丈夫や。

 わしはこっから動かへん。

 な?




 漏れとった隣のおばはんの話し声、さっきからピタッと止んどる。


 娘の気配が、さぶい。




 にゃー。


「にゃー」


 いや、ちゃうねや。おかしなったんやないねや。


 て言い訳もでけへん。

 伸ばした手ぇに、もうちょっとで触れ――











 アカンか……











 それでもすぐ向こうで、わしに鳴く。


 にゃー。


 必死な顔で。






「にゃっにゃーにゃ、にゃ」


 待ってえよ、な。




 わし、掃き出し窓から駆け込んだ。

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